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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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義勇兵

「ミル、言ってなかったが俺はこの聖騎士を信じて義勇兵になることにした」


 レインは扉を開け、寝室に戻ってくる。決意が表情から滲み出ており、嘘ではなさそうだ。


「ちょ、聞いてないよ! 義勇兵って……。何考えてるの! 兄貴が戦場とか考えられない。と言うか、そう考えるとルーナさんとキースさんも戦場に行くってこと?」


 ルーナはてんぱっているミルに「敵兵に攫われた少女を助けに行くだけ」と説明した。


「で、でも……。戦場でしょ。あの銃火器で鉛弾をどっちかが死ぬまで撃ち合ってるところでしょ!」


 ミルは部屋の端に置かれているアサルトライフルを指さす。


「はい。ですが、私の部下は死なせません。安心してください」


 ルーナはミルを安心させるためか、事実ではなく目標を語った。


「そ、そんなの、信じられない。ねえ、兄貴。また騙されてるって。戦場が安全な訳ないよ」


 ミルは子を心配する母のような顔をしながらレインの肩を掴み、大きく揺する。


「危険なのはわかってる。だが、月に金貨三○枚が支給されるんだ。生きてる限り、毎月金貨三○枚だぞ。少し活躍すればさらに貰えるって聖騎士が言ったんだ。お前も見ただろ。タロウの腕を治した魔法。中央区に行けば、タロウをもしかしたら治せるかもしれない……」


 レインは布団に眠る弟を見て、微笑んだ。


「で、でも……」


 ミルはレインの顔を見て、綺麗な顏をしわくちゃにする。


「何だよ、ミル。俺のことが大っ嫌いだったんだろ。気にするな。また不同な仕事をしているとでも思ってろ。俺が生きている限り、毎月生活費を送る。お前は風俗嬢なんかやめて真っ当な仕事を探せ」


 レインはミルの肩に手を置き、ルーナと俺の元に歩いてくる。


「ガキどもに興味はない。だが、金のためになら働く」


「ええ。それでもかまいません。義勇兵になってくれてありがとうございます」


 ルーナとレインは手を握りあい、レインの兵士加入が決まった。


 ミルは大粒の涙をこぼしながら何も言わず、ただ立ち尽くしている。


 ルーナは悪党を魔法で持ち上げ、武器を回収し、集合住宅の部屋を出て行った。


 レインも弟の顔を撫でた後、ルーナについていく。


 俺も玄関まで移動し、後を追おうとした。


「キースさん……、待って……」


 俺がミルの家から出ようとした時、背後からミルに抱き着かれた。デカい胸が背中に当たる。ミルが薄着のため、乳房の柔らかさがありありと伝わってきた。


「何だ。兄貴に言いたいことがあるならはっきり伝えておけ。後悔するぞ」


「キースさん、兄貴をお願い。兄貴はお金のためなら何でもする。生きて帰ってきてほしいなんて言っても、絶対に無茶するから。その時は殴ってでも止めてほしい」


「はぁ……。兄貴が大好きなくせに、無理無理に嫌いって心に言い聞かせるからひねくれるんだ。レインが死のうが生きようが俺にはどうでもいい。まぁ、俺が死に損なって帰ってきた時にミルの泣き顔を見るのは面倒だからな、そこはかとなく殴っておく。妹を泣かせるきか! ってな」


 俺は右拳を持ち上げ、答えた。


「ふっ……。キースさんはやっぱり優しいね……。キースさん、あなたが無事に帰って来たら私が結婚してあげる。だから、自分から死ぬようなことは絶対にしないで」


 俺はミルの手を解き、後ろを向いた。驚くくらい泣いている女がいる。唇でも奪ってやろうと思ったが、好みなだけでミルが好きなわけじゃねえ。


 俺はミルのデコを指で叩く。ミルは痛がり、デコを押さえた。


「馬鹿が。そう言うのはなあ、戦場で死ぬようなやつに言う言葉なんだよ。あと結婚っていうのは本当に好きな奴とするもんだ。今度は処女みたいに軽く捨てるんじゃねえよ」


 俺はミルから離れ、階段を降りていく。


「馬鹿はそっちでしょ……。好きでもない相手に結婚してあげるなんて言う訳ないじゃん……」


 ミルの小声が聞こえた気がするが、コンクリートの階段を降りる足音の方が大きく、か細い声が掻き消された。


 俺が扉を開けるとルーナとレインが待っており、三人で下町の騎士団支部に向う。その場で男達の身柄と武器を引き渡した。密入国者はもとの国に大概返される。最悪の場合死刑だ。まあ、あいつらがどうなろうが俺の知ったことではない。


「なあ、ルーナ。なんで武器まで渡したんだ? まだ使えただろ」


 俺は気になったので聞いてみた。


「それはですね、武器が粗悪品だったら最悪だからですよ。粗悪品を使っていたら発砲中に弾が銃身に詰まって撃てず、敵の弾でハチの巣にされると言う話はよく聞きます」


「まあ、密入国者が使っていた武器なんていつ壊れてもおかしくないか……」


 俺はルーナの説明で腑に落ちた。


「さ、気を取り直して義勇兵を集めましょう。あと五人です。何とかなりますよ!」


 ルーナと俺、レインの三人で義勇兵にならないかと呼びかけた。驚くことに、一人増えたと知ったら志願者が多く現れた。どうやら誰か先に行ってほしいという心理状態だったようだ。


「義勇兵が集まったのは良いが……。本当にこいつらでいいのか!」


 レインは空き地なのをいいことに物凄い剣幕で喋りながら志願者に指刺す。


「ガキ二人に、今にも死にそうなおっさんと気色悪い男、服が真っ白でいかにも詐欺師っぽい男とか、正気の沙汰とは思えねえ!」


「………………」


 フードを被ったガキは黒い瞳をレインに向ける。俺はその冷徹な瞳を見ただけで、ガキが人を殺した覚えのあると悟った。


「ぼ、ぼくはただ、ぼくの力で助けてもらった人に恩返しがしたくて……」


 数日前に出会った覚えのある綺麗な顔のガキが無駄に可愛い声で喋った。


「なんだ、チンピラ……、俺は健康そのものだ……」


 体が黄色っぽいおっさんにも見覚えがあり、薬と酒が中毒になっている強盗が呟く。


「気色悪い男とは聞き捨てなりませんねー」


 俺が驚いたのは繁華街で自殺魔法を見せていたナリスが義勇兵に志願したことだ。


「たく、何でチンピラにまで俺が詐欺師だって気づくんだよ。たくっ」


 高そうな白い服を着て自分は詐欺師ですと言いたそうな顔をしている赤髪の男が話した。


 ――まさか、俺がレインと同じ思いをする羽目になるとは思わなかった……。


「ルーナ、本当にこいつらでいいのか? まだ時間はあるんじゃ……」


 俺は空き地でどこから持ってきたのかわからない黒板にチョークで文字を書いているルーナに話しかける。


「構いません。皆さん、それぞれに潜在能力の片鱗を見ました。力を発揮すれば十分戦えるはずです。あー、文字が読めない人は手を上げてください」


 ルーナが話すと、俺とナリス、詐欺師の三人以外が手をあげた。


「なるほど。では、黒板に書いてある言葉は気にせずに聞いてください」


 ルーナは黒板に第一ルーナ小隊と書かいていく。


「初めまして皆さん。私はルークス王国に使える近衛騎士団の一つ。聖騎士団に所属しているルーナ・チス・セレモンティと言います。今回の小隊の指揮官を務めることになりました。私の命令には絶対に従ってください。命令を聞かないと命を落としかねません。では自己紹介をしてもらいましょうか」


 ルーナが自己紹介をすると、俺とレインが名前を言って自己紹介を終える。


「……エナ。一〇歳」 人殺しの瞳を持っているガキは呟いた。


「は、ハイネ・マグノリアスです。一三歳です。よろしくお願いします!」


 綺麗な顔のガキは頭を深く下げ、お辞儀をする。


「アラン……。三九歳。性なんて名乗る価値もねえ」


 強盗は名前をボソッと言うと、眼を細める。


「初めまして。私はナリス・バレリア。二四歳。世紀の大魔法使いです!」


 ナリスは微笑み、頭を下げた。相変わらずこいつは何を考えているかわからない。


「俺の名前はライト・ブレイズ。二一歳。俺は詐欺師じゃねえ」


 無駄に長い前髪を掻き揚げ、どう見ても詐欺師のライトは決め顔で言う。


 全員の名前を知り、ルーナは作戦会議を始めた。


「今回のルーナ小隊の目的は攫われたテリアちゃんの救出とペンダントの回収です。詳細は後で話します。今は少女とペンダントの回収ということだけを頭に入れてください」


 ルーナは黒板に目的を書き、俺達の方に顔を向けた。俺達は頭を縦に振る。


「続いて、これからの動きですが、皆さんには中央区に移動し、五日間訓練を行ってもらいます。残りの時間を訓練に当てられるのはとても大きい。死亡率が一気に下がるはずです」


 ――俺達を中央区に連れていくだと。こいつは正気なのか……。


「皆、多くの疑問を抱いていると思いますが、私の部隊に配属されたからには死なせません。そのためにも、訓練をしっかりと受けてもらいます。異論は認めません」


 俺達はルーナの発言に従うしかなく、首を縦に振る。


「五日後には多くの情報が騎士団に集まっているはずです。あの手この手を使って情報を私が仕入れてきます。その情報をもとに戦地である北東の荒地へと向かいます。大まかな流れは理解できましたか?」


 全員が頷いた。


「では、時間がもったいないので中央区に早速移動します。魔動車に乗ってください」


 ルーナは中央区で使われている車という乗り物を空き地に用意していた。後方に荷台がついており、前側に操縦席があった。馬車よりもごつく、鉄で作られている。


「皆さんは後ろの荷台に乗って中に用意してある服装を着ておいてください。私は魔動車を運転します」


 俺達は荷台の帆を開け、いつの間に用意したのかわからないが、丈が完璧にあっている軍服を着る。


 騎士意外は軍服を着る決まりだそうだ。普通に差別されている気がするが俺は鎧より服の方がいい。なんせ、動きやすいからな。


 ガキの二人は俺達に背を向けて着替えていた。女かよと思ったが、ガキなら仕方ないか。


「では皆さん。荷台の側面についている長椅子に座り、何かに捕まってください。私の運転は騎士団の中でも随一下手なので、なるべく吐かないようにお願いします」


 ルーナは鉄格子の向こうにある操縦席に座りながら話し、手の平から魔力を車に流していた。その後、右手で大きな輪を持ち、左手で操縦席の中央にある棒を持つ。


「では! 出発進行!」


 ルーナが棒をガチャガチャと動かし、右脚で何かを踏みつけると車が急発進した。右手で持っている輪を右に回すと、進行方向が右に変わる。


 ――馬を使わずに移動できるとか訳がわからない。どうやって動いているんだ。


 ルーナは八時間ぶっ通しで車を運転し続け、中央区に入ったそうだが俺以外のやつらは全員吐いていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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