敵の情報
俺がほぼ終わらせたころ、家の中に、ちっこい女とエロい女が息を荒げながら現れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、キースさん。騎士の方を連れてきました。って! 馬鹿兄貴!」
ミルは寝室の方を向き、金髪の男を見つけるや否や殴り掛かろうとする。
「ミル……、生きてたのか……。ミル、ミル! うわぁ、死んだかと思ったじゃないか!」
金髪の男はミルに抱き着き、ミルの体を持ち上げ、クルクルと回る。
「え? 何その反応、気持悪。って、なんか全裸の男が三人もぶら下がってるんだけど」
俺は縄を使って三人の男を窓際につるしていた。無理に動こうとしたり、縄を切って逃げようとしたりすれば頭から地面に真っ逆さまだ。
「キースさん、また無茶な戦いをしたようですね。よく、この武器に立ち向かって無傷でいられるものですよ……。奇跡としか言いようがありません」
怒っている聖騎士様は三丁のアサルトライフルといくつもの弾倉、六丁の拳銃を見て俺に言い放つ。そんなことはどうでもよく、俺はルーナに頼みたいことがあった。
「なあ、ルーナは魔法で傷が治せるか?」
「ええ、もちろんです。私は攻撃魔法よりも治癒魔法の方が得意です。誰か怪我をしたんですか?」
俺はルーナに少年の腕の傷を見せた。弾は骨に当たらず筋肉を貫通し、破裂していなかった。そのおかげで、傷の治りは幾分か早そうだ。
「止血は完璧ですね。では細胞が死ぬ前にすぐ治療します」
ルーナは少年の傷に触れ、光を放つ。手もとが緑色に光っており、傷がすぐ塞がった。
「ふぅ。これで大丈夫です。にしても、この少年は腕を撃たれた痛みを受けても起きなかったようですね。何かの病気ですか?」
ルーナはチンピラに聞く。
「医者でもわからねえんだから俺がわかるかよ。今回のやつらもやぶ医者だったみてえだ」
チンピラはミルを離し、壁際にもたれながら床に座り、うなだれていた。
「兄貴! 今すぐお金を銀行に返してきなさい! 誠心誠意を込めて謝ってきて! そのまま銀行員さん達からタコ殴りにあってきなさい!」
ミルはチンピラの前に立ち、母親かと言いたくなるほど叱りつけた。
「う……、わ、わかったよ……。じゃあ、ミルはタロウのことを頼む……」
チンピラは部屋を出て行き、荷台を銀行まで運ぶ。
「ルーナ、物置部屋に数人の死体がある。あの三人に撃たれた連中だろう。ミルに見られないよう、どうにかできないか?」
俺はルーナの耳元で小さく呟いた。
「わかりました。では死体を魔法で光に分解して消しておきます」
「ぶ、物騒な魔法だな……」
ルーナは物置小屋に向かった。寝室には俺と弟を抱いているミルの三人だけになる。
「えっと……、さっきはありがとうございました……。キースさんがいなかったら、私、ハチの巣になるところでしたよ」
ミルは弟を撫でながら話す。
「死に損なってよかったじゃねえか。俺は今回も死に損なっちまった」
「死に損なったって、普通は生き残ったって言うべきでしょ。まるで死にたいみたい」
ミルは俺の方を向き、苦笑いを見せてくる。
「そう捉えても構わねえ。俺は死んでも未練がない。俺が死ねば大量の保険金が妹に入る。そうなったら知り合いの医者が中央区の医者に頼んで治療してくれるはずだ」
俺が呟くとミルが少年を敷布団に寝かせ、壁際に座っている俺のもとに近づいてきた。加えて死体を処理したのか、物置部屋から戻ってきたルーナも俺に近づいてくる。
「馬鹿野郎!」×ミル、ルーナ。
鼓膜が破れそうなほど大きな声が聞こえた瞬間、右左から鉄拳が飛んできて俺の顔が潰される。俺は流石に死んだと思った……。だが、生憎死ねなかったらしく、顔面の激痛だけで済んでしまった。
「い、いってえな……。何するんだよ!」
「前にも言いましたが自殺行為はやめてください! 命がもったいないじゃないですか!」
「キースさんが死んで入ったお金を使って妹さんの治療できたとしても、妹さんは絶対に嬉しくないよ!」
左右からルーナとミルの怒号が飛び、俺の鼓膜が裂けんばかりに震えた。
「う、うるせえな。赤の他人のお前らには俺が死のうが関係ないだろ。気にするな」
「キースさんはもう、私の部下です! 赤の他人ではありません!」
「キースさんは私の命の恩人で大切なお客さんなんだよ。他人じゃない!」
俺がああ言えば二人もこう言う……。女に口喧嘩で勝とうとした俺が愚かだった。
「ちっ……。るっせるっせ……、ド正論はもう聞きたかねえ……」
俺は両耳を塞ぎ、蹲りながらひねくれた性格を維持する。下町ではひねくれていないと生きていけないのだ。
「はぁ、子供みたいになっちゃって。ミルさん、あの男達に見覚えはありますか?」
「いえ、全く……。兄貴が勝手にやったことなので、私には見覚えがありません」
俺が耳を塞いでいるとルーナとミルが話し合いを始めた。俺は眠たかったので壁にもたれ掛って眠る。ルーナがいればここにいる奴らは殺されたりしないだろう。
五月二五日の朝、俺は良い匂いと柔らかい感覚を得て眼を覚ました。
「うん……。なんだ、このデカ乳……。どう見ても尻じゃねえよな……」
どうやら昨晩のうちに俺は何者かの手により布団に寝かされたらしい。右隣を見るとミルが下着姿で俺に抱き着いていた。左隣を見ると聖騎士様も内着姿でくっ付いてるじゃねえか。
――これは夢か……?
「って、誰が見張りをやっているんだ。さすがに見張り無しはあぶねえだろ……」
俺は上半身を起こし、昨晩殴られた頬を摩りながら立ち上がろうとする。
「起きたかよ……。黒髪」
俺の視界の先には顔が俺よりも膨れ、ボコボコに殴られた金髪のチンピラがいた。
「チンピラ野郎……。お前、ミルの兄貴だったんだな」
「ミルの知り合いってことは風俗街に行ってるのか。子供のくせしやがって……」
「俺は子供じゃねえ。一八歳だ。あと、ミルとはやってない」
「な……、まじかよ。童顔すぎだろ。はぁ、そんなことはどうでもいい。昨晩、ミルから聞いた。お前がミルを助けてくれたってな。感謝したくねえが、せざるを得ない」
チンピラは俺に頭を下げた。そのまま感謝の言葉を口にする。
「チンピラ、お前、去年の八月ごろ、工場に強盗しやがっただろ」
「ああ、失敗に終わったやつだな。二人の部下が捕まった。ん? 何でお前が知っているんだ?」
チンピラは首を傾げ、間抜け面を曝す。
「あの時、お前らを捕まえようとしたのは俺だ。カンデラの明りでお前の顔は見えていたが、俺の顔は上手く見えなかったようだな」
「ああ! あの時のガキ! 最後の一瞬だけ顔が見えた忌々しいガキはお前か!」
チンピラは大声をだし、立ち上がった。だが、そのまま力なく座り込む。
「はぁ……。今思い出しても腹が立つ……」
「俺にか?」
「お前にもだが弾と銃を用意したら弟を治してやると言っていた男が弾と銃を渡した途端に蒸発したことの方が、腹が立つ」
「……何の銃を渡したんだ?」
「なにってサブマシンガンだが、それがどうかしたか?」
「はぁ……。そいつら、敵国の兵士だったかもしれねえな。お前は多くの下町の人間を殺した奴らの手助けをしちまった。どう落とし前付ける気だ?」
「し、知らねえよ。そんなこと。俺はただ、タロウを助けたかっただけだ。他の誰が何人死のうが関係ない。タロウを助けられるんなら、俺は悪魔にでも魂を売る」
チンピラは兄の顔をしていた。嘘は言っていない。俺が同じ状況ならきっと同じ顔をするだろう。
「そうかよ……。はぁ、まずは自己紹介からか。俺の名前はキース・アンディシュ」
「俺はレイン・キーウェイ。一九歳だ」
俺とレインが自己紹介を終えたところで、ミルとルーナが目を覚ました。
「ふわぁー。って! 兄貴! 何でこっちの部屋にいるの! 早く出てってよ!」
ミルはブラジャーの肩紐が外れかかっているにも拘わらず、レインに吠える。
「なっ! お、俺はお前がその童顔男に襲われねえよう見張っていただけだ!」
「だー、もうっ! それを狙ってたのにーっ! バカ兄貴はあっち行ってて!」
ミルは立ち上がり、レインを押しながら扉の奥へと追いやる。
「うぅん……。お兄様……大好きだよ。頭、いっぱい撫でて……」
ルーナは寝ぼけて俺に抱き着きながら呟いた。やっぱりこいつにも兄貴がいるのか。
「残念ながら俺はお前の兄貴じゃない。眼を覚ませ、ぺったんこ女」
「う、うぅ……。はっ! わ、私は何を……、え! はっ!」
目が覚めたルーナは手品で餌を隠された犬みたいな顔をしており笑いそうになる。
「お前、俺のことを兄貴だと思ったのか? それとも、そう言う性癖か?」
「は、はわわ……」
ルーナの顔は見る見るうちに赤くなる。白に近い金髪との差が激しく、瞳が潤んだ。
「おうおう、どうした可愛らしい妹よ。俺の腕の中で眠りたいのかなー。ほらよしよし」
俺はルーナを更に弄り、右腕で体を抱き寄せて後頭部を撫でてやった。
「う、うぅ……。うおっりゃあああ!」
ルーナは魔法で俺を持ち上げ、部屋の中をゴム玉のように何度もたたきつけやがった。
「う、うぅ……、し、死ぬぅ……」
俺は床にへたりこみ、全身打撲の重傷を負う。ルーナにすぐさま治され、大事には至らなかった。
「もう! 私のお兄様はキースさんみたく撫でてきません。ましてや抱き寄せるなんて……」
「ちょっと兄っぽいことをしただけだろうが……、そんなに怒るなよ。あと、早く服を着たらどうだ。みすぼらしい姿をいつまで晒す気だよ」
ルーナはキャミソールにショートパンツ姿だった。ブラジャーをする必要もないくらいぺったんこなのに、尻は下肉がパンツの裾に押しつぶされているくらいデカい。
「ふっつ!」
ルーナは俺をまたしてもゴム玉のように扱い、ミルにため息をつかれる。
「鎧を着ながら寝るのは辛いので脱いでいただけです。勘違いしないでください!」
ルーナは鎧を着こみ、いつもの服装に戻った。
「す、すみません……」
俺は子供みたいな小さい女に頭を踏まれ、何かに目覚めそうだった。
「さてと、しっかりと眠ったことですし、この悪党から情報をごっそりいただきましょう」
ルーナは窓際に向かい、口角を持ち上げ、人を見下すような悪い顏をする。
「ま、待ってくれ。俺達は何も知らない!」
縄で吊るされ、何の抵抗も出来ない一人の悪党が叫ぶ。
「別にあなた達は喋らなくても結構です。魔法で勝手に調べます」
ルーナは三人の男達の頭に手を当て、魔力を込める。頭が光り、数分で消えた。
「彼らはただの密入国者です。プルウィウス王国の兵士ではありません。外れでしたね。ただ、サーカス団を襲った敵兵と見つかっていない敵兵の顔が映りました。金銭の調達と武器を流していたようです。見つかっていない男の名前はヨハン・ハルモリア」
「おい、ルーナ。そんな便利な魔法があるなら、サーカス団を襲撃した六人の内、捕まっている五人からも情報を取れよ」
「彼らは隠し持っていた毒で自殺しました。死体からは情報を得られません」
「ちっ、そうかよ。だが敵兵の名前がわかったのは一歩前進したな」
「ええ。戦地に向かい、敵兵を捕まえてヨハン・ハルモリアの行動を探ればテリアちゃんを見つけられる可能性が大いにあります。子攫いの主犯格がヨハンであればですが……、盗んだ話しの内容からして可能性は高いでしょう」
「じゃあ、六日であと六人を見つけねえとな」
俺は軋む体を無理やり動かして立ち上がり、服に付いた埃を払い落とす。
「いえ、あと五人ですよ」
「なに?」
「一人、義勇兵になってくれると言ってくれた男性がいました。今はこの部屋にいませんが、見張りも引き受けてくれたんです」
「そ、そいつの名前って……。レインか……?」
「よくわかりましたね。その通り。ミルさんのお兄さんである、レインさんが義勇兵に志願してくれました」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。何の話をしてるの?」
ミルはルーナの話を聞き、扉の前から立ち上がる。物凄く不安そうな声だった。
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