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銀行強盗

「なにが起こったんでしょうか……」


「強奪か何かだろ。行くぞ」


 俺はルーナの手を引いて銃声が聞こえた方向に走って行く。


「ちょっ! ど、どこに行くんですか!」


 俺達は繁華街からに大通りに出る。すると銀行から火が上がり、黒煙が立ち昇っていた。どうやら、銀行強盗が起こったらしい。




「ちっ! 下町で数少ない銀行に手を出すなよ。金を取るのは命を取るより罪が重いぞ、チンピラども。下町の皆が命を懸け、稼いだ金を盗むなんざ、絶対に許せない」


 俺は左腰に付けているホルスターからリボルバーを左手で引き抜く。


「銀行強盗は許せませんね。さっさととっ捕まえます! キースさん、実弾は使わないでください。この銃なら敵が気絶するだけなので安全に使用出来ます」


 ルーナはどこから取り出したのか、白っぽい拳銃を手渡してきた。形は遊底を引き、弾を銃身に装填する型だ。銃把に弾倉を入れておけるため、リボルバーよりも弾数が増える。遊底を一度引けば連続で撃てるので使い勝手も各段に良い。


「実弾を使うなって……? じゃあ、この銃には何が入っているんだよ」


 俺はルーナから白い拳銃を受け取る。持ってみると拳銃は妙に軽く、鉄製ではなさそうだ。加えて弾倉に鉛玉が入っているとも思えなかった。


「その拳銃には私の魔力で作った魔弾が入っています。キースさんが割ったガラス質を更に強度を増した物質を魔力で撃ち出すんです」


「たく、聖騎士ってのは何でもありだな。人間の頭に当てても死なないんだな?」


「はい。貫通せず弾けます。超絶痛いデコピンを食らう感じです」


「なるほど……。じゃあ、ルーナは銀行内にいる怪我人の保護を頼む。俺はチンピラどもを捕まえてくる」


「なっ! 相手は実銃を持っているかもしれない輩ですよ。私が追います!」


「魔法なら、怪我人も救えるだろ。俺じゃあ死人を増やすだけだ。さっさと終わらせねえと被害者が増えちまう」


「……わかりました。死なないでくださいね」


 ルーナは本気で心配そうな顔をする。


「ふっ、そんな約束は出来ねえな。まあ、死に損なったら戻って来るさ」


 俺はルーナを銀行まで送った後、チンピラが逃走用に使ったと思われる馬車の轍をを見つける。逃げている最中、上手く行ったからか知らねえが、祝砲を上げる馬鹿のおかげで居場所はすぐにわかった。


 俺は路上駐車している悪徳商人の荷馬車を引いている馬の縄を解き、馬と縄を借りる。


「馬に乗った覚えはねえが、案外操れるもんだな」


 俺は馬に乗って移動し、チンピラの根城と思われる場所を見つけた。三階建ての集合住宅だ。この地域は治安が悪く、格安の料金で部屋が貸し出されている。


 ――大量の金貨なんてすぐに運べるわけがない。どこかに隠しているはずだ。


 案の定、俺は荷台をすぐに見つけた。


 荷台はごみ溜めの近くに置かれており、上手く紛れ込まれていた。荷台の中に金貨もそのまま置かれている。銀行強盗の騒動が納まるまで隠れてやり過ごす作戦を取ったようだが、甘すぎるな……。まぁ、チンピラのすることなんてこの程度だ。


「金は見つけたからいいが、誰が盗んだのか知らねえと、また同じことが起こる。さっさと捕まえねえとな……」


 俺は最新式の銃の遊底(スライド)を引き、魔弾が装填されているか確認した。


「弾の数は銃把の長さ的に一二発。実銃は使うなって言われたしな。出来るだけ撃たないよう、心掛けるか。弾倉を貰っておくべきだったな」


 俺は集合住宅のコンクリート壁を背にして左隣にある入口近くに身構えていた。いつ突入するか考えていると思いがけない人物に出会う。


「あれ、あれあれ、あれあれあれ? キースさんじゃん、こんな所で何してるの?」


 俺はキャミソールを着て長袖の上着を羽織り、ジーンズを履いている質素な服装をした美女のミルに出会い、結構大きな声で話かけられた。


 あまりに想定外だったのでミルの口を手で塞ぎ、コンクリート壁に押さえつける。


「静かにしろ……。ここは危険だ。逆にお前はなぜここにいる?」


「こ、ここ……、私の家だから……」


 ミルは涙目になり小さな声で呟いた。


「……」


 俺はミルに事の経緯を話した。すると、ミルの額に血管が浮かび上がる。


「馬鹿兄貴!」


 ミルは集合住宅の扉を蹴りながら開け、階段を上っていく。


「ちょ、おまっ!」


 俺はあまりに危険すぎると思い、ミルについて行った。


 ――兄貴じゃなかったらどうする気なんだ。というか、兄貴が銀行強盗とか、なんでわかるんだよ。家族の仲が荒れ過ぎじゃないか?


 俺は周りに一応気を付けながら三階に移動する。


 ミルは鉄製の扉に鍵を指し込んで開錠する。


「兄貴! また不正な方法でお金稼ぎしようとしたでしょ!」


 ミルが扉を開け、中に入ろうとした。


 俺は背筋に嫌な寒気がしたので、ミルの華奢な手を引き、扉の前から離れさせる。


「きゃっ!」


 ミルが扉から離れると大量の銃弾が鉄製の扉を貫通し、無慈悲に飛び出してきた。


 鉛弾は厚さが五センチメートルほどある鉄製の扉を容易く貫通し、威力を損なわず空中に流れていく。


 ――耳を劈く発砲音とこの威力、弾速から考えてアサルトライフルっぽいな。サブマシンガンもあり得るか。


「う、嘘……。兄貴が私を殺そうとした……」


 ミルは耳を塞ぎ、ガクガクと震えていた。まるで荷台の下にいる小汚い猫のようだ。顔は愛らしいが状況が状況ゆえに、俺は頭を抱えるようにして落ち着かせる。


「落ち着け、本人かどうかもわからねえだろ。相手の顔を見たのか?」


 ミルは首を横に小さく振る。


「兄が妹を撃つわけねえだろ。考えすぎだ。お前は銀行に行ってちっこい騎士をこの場所まで連れて来い。出来るか?」


「き、キースさんはどうするの?」


 ミルは涙ぐみながら呟く。


「俺は部屋の中の様子をうかがう。鉄格子が付いていない窓はどこにある?」


「は、反対側……。えっとこっちが西側だから東側にある」


「屋上から回れば行けるか……。ミル、死にたくなかったら銀行に早く行け」


 ミルは泣きながら頷き、階段を素早く降り、銀行まで走る。


 俺は集合住宅の下水やガス管の点検のために設置されているはしご状の鉄筋を掴み、コンクリート壁を上る。


 屋上に到着すると頑丈そうな鉄製の金具を見つけ、チンピラの拘束ように取っておいた縄を結びつける。そのまま、縄を持ちながら東側の壁に足裏を付け、鉄格子の無い窓際に降りる。鉄格子がついていない理由はこんな場所まで来て、泥棒がわざわざ入ろうとしないからだ。


 俺はカーテンで閉ざされている窓ガラスに耳を当て、中の音を拾う。


「お、おい! 何で撃った! 俺の妹を何で撃った! 仲間も殺しやがって……」


「俺が撃ったわけじゃない。俺の部下が撃ったんだ。あまり大声を出すと、お前も馬鹿な仲間と同じ場所に連れていくぞ」


「く……」


 ――誰かが騒いでいる。声は低いから男か。発言からしてこの中に少なくとも三人いる。一人はミルの兄貴、あと二人は敵で間違いない。敵の武器はサブマシンガンかアサルトライフルのどちらか。また両方な場合もあり得る。拳銃しか持っていない俺は不利だな。ちっ……、面倒臭い。


「んで、お前らが盗んだ金はどこにある?」


「く……、まずは弟を治してもらおうか……。金の話はそれからだ……」


「立場を理解していないようだな。金が無かったら仕事をする意味が無い。金の場所をさっさと言え」


「弟を治してもらわねえと言えねえな……」


「はぁ、面倒だな。金が無いなら治さない。金を払えば治してやる。そう言う約束だろ」


 ――詐欺紛いな発言だな。金が無いから治さないんじゃない。治せないだけだろ。


「ちっ……、お前も金を取るだけ取って逃げるんだろ……」


「おいおい、人聞きの悪い発言をするなよ。俺は異国の医者だ。この国の医療よりも遥かに進んでいる国のな。お前の弟の病くらい聖なる光を当てて一瞬で治る。ま、金があればな」


「金金金……。うるせえな……、治せるのならさっさと治せよ。無理なら無理ってはっきり言えよ……。金が欲しいなら、もって来てやるから、早く治せよ……」


「はぁ……仕方がない。治して見せるか」


 部屋の中で何者かが歩く。すると、部屋の中から光が起こった。


 ――まずい。曇り空で外の光量が少なかった影が見えていないはずだったのに、部屋の中で何か強く光りやがった。影が生まれちまうっ!


 俺は縄を上り、窓から距離を取る。案の定、窓ガラスに向け、大量の弾が撃ち込まれたのか、鉛玉が窓ガラスを突き破り、破壊音と爆発音が響く。地面に落ちていったガラスがさらに割れ、甲高い快音が鳴った。集合住宅の高さは三階で約九メートル。落ちたら普通に死ねる高さだ。


 ――鉛玉が体に一発でも当たっていたら力が抜けて真っ逆さまだったな。


 どうやら部屋の中で強い光が発せられたせいで俺の影がカーテンに映ってしまったようだ。奇襲をかけるつもりだったが、失敗に終わった。


「誰だっ!」


 窓ガラスから顔を出した馬鹿がおり、下を向いてから上を見た。あまりにも間抜けずらをしているスキンヘッドの男で、口を開けている。


「そこから落ちるなよ、頭から落ちたらさすがに即死だぜ」


 俺は右手で縄を持ち、最新式の拳銃を左手で構える。


 ――リボルバーでマグナム弾を撃っても命中率は変わらなかった。この拳銃で魔弾を撃つとどれだけの反動があるのか、試させてもらおう。


 俺が拳銃の引き金を引くと、恐ろしく静かな破裂音が鳴り、銃口から白く光る魔弾が飛ぶ。反動はほぼ無く、玩具の拳銃を使っているかのようだった。


 スキンヘッドの男の眉間に魔弾が当たると光の粒子が飛び散るように弾け、男は窓から布団を干すように仰け反り、気を失った。相当痛かったんだろう。


 ――反動がほぼ無いとか嘘だろ。魔法ってのは人知を超えているんだな。だが、俺が外にいると気づかれた以上、ルーナを待っていられないか。


 俺は拳銃の銃身を咥え、縄を両手で持ち、コンクリート壁を勢いよく蹴って外に身を放す。握力を緩ませて持ち手の位置を変え、一五〇センチメートルほど下にずれる。そのまま振り子の原理で加速しながら窓に向かい体当たりして部屋の中に突っ込んだ。その瞬間に縄を離し、両手で拳銃の銃把を持ち直す。


「馬鹿がっ!」


 スーツ姿の男が当たり前のようにアサルトライフルを持っており、俺に銃口を向け、鉛玉を撃とうとした。このまま俺が避けると後方の床に横たわる子供に当たる。そう思った瞬間、体が硬直した。加えて死を直感する。


「弟に当たったらどうする気だ!」


 金髪の男がライフルの銃身を持ち上げ、弾の軌道を変える。そのおかげでコンクリートの内装の壁に大量の穴が開いただけで済んだ。


「ちっ! このクソガキっ! ぐはっ!」


 俺はライフルを持っているスーツを着た男の眉間に魔弾を撃ち込み、気絶させる。その後、前方の壁に走って背中を付け、金髪の男に話かけた。


「残りの敵は何人だ?」


「だ、誰だ、お前……。いや、どこかで見た覚えが……。うわっ!」


 俺は事前に金髪の男を壁際に蹴り飛ばす。


 金髪の男が俺の方を見て質問にすぐ答えなかった。そのせいで、寝室の入口の奥にあるトイレから出て来た男が危険を察知し、敵味方関係なく銃を乱射する。コンクリートの壁から砂埃がパラパラと舞い、床に落ちていた。


 俺は息をひそめ、開いている寝室の扉の真横に身を低くして姿を隠す。


「たくよ……。誰だ、俺の気持ちいい時間を邪魔するのはよ……。あ? ぐはっ!」


 何の警戒もせずに寝室に入って来たバカな男の眉間に俺は魔弾を撃ち込んだ。


 魔弾の威力が高く、身長が二メートル近くある巨漢が壁際に吹き飛んだ。巨漢は口から泡を吹き、気を失っている。


 ――こいつらは銃に甘え過ぎだ。安心と安全は全くの別物だと知らないのか。


 俺は警戒を怠らず、全部屋を見て回り、敵がいなくなったのを確認してから入口の扉を閉めてようやく一息つく。


 一室に血を流す死体が無造作に置かれていた。きっとチンピラの仲間だろう。


「おい! おい! タロウ! タロウ! 眼を覚ましてくれ!」


 寝室の方でチンピラが叫んでいた。俺も合流し、様子を見る。子供の体から血を流しているのを見るに、敵の撃った弾が不運にも当たったらしい。


「落ち着け、撃たれているのは腕だ。致命傷じゃない。止血すればまだ助かる」


 俺はチンピラの肩を持ち、冷静さを取り戻させる。


「くっ! お前! タロウの体に弾が当たったらどうするつもりだったんだ!」


 チンピラは俺の胸ぐらをつかみ、今にも殴りつけてきそうな形相で叫ぶ。


 俺はチンピラを間近で見たが、金髪に加え美形、口調からして俺の元仕事場に現れたチンピラと同一人物だった。


「すまない……、光を放たれたせいで場所が割れたのは俺の落ち度だ。弟君を危険にさらす気は無かった。今は敵を捕獲し、弟君を助けることが最優先だ。怒るなら後にしてくれ」


 俺は冷静に話す。怒りは冷静さを失わせるからだ。


「ちっ! くそ!」


 金髪の男は泣きながら弟君の止血箇所より上を縛る。


 俺は気絶している男達から、武器を奪い、丸裸にしてから家の中で見つけた縄できつく縛りあげる。逃げられないよう厳重にな。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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