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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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きもいおっさん

「そうなります。厳しい戦いになると思いますが、安心してください。この私が味方なんですから、テリアちゃんを必ずや助け出してみせます」


 ルーナは無い胸に手を置き、凛々しい表情で言い切った。


 ――必ずと言い切れるほど肝の据わった奴だったとは……。御見それしたぜ。



「ルーナ、お前は見かけによらず、逞しい心を持ってるんだな。男に媚び売ってのうのうと生きている女に比べたら、お前の方が俺は好きだ」


「な……。い、いきなり好きとか言わないでくださいよ! ま、まだ出会って二回しか話していないんですよ……。あと、好きとかもっと雰囲気を考えて言ってください。そう、小説の中の綺麗な展望台の上で夕日に照らされながら、抱きしめて愛を囁くみたいな」

 

 ルーナは両手を握り合わせ、瞳を輝かせながら呟いた。


「…………そう言う面倒臭い女は嫌いだ」


「ちょっ! 面倒臭い女ってどういう意味ですか! あと、相手に対して嫌いなんて簡単に言ったらいけませんよ」


 ルーナは表情をころころ変え、いちいち突っかかってくる。ほんとに同年代なのかと思うくらい子供っぽい性格をしていた。


 ――こんな奴に作戦の指揮を任せてもいいのだろうか。


「はぁ。別に陰でコソコソ言うよりいいだろ。そう言うのは俺は嫌いだ。陰で言うくらいなら本人に直接言う。俺はルーナの肝の据わった心が好きだし、面倒臭い性格は嫌いだ。直接言ったほうが伝わるだろうが」


「な、なんか、キースさんは中央区にいる男性とは特色がだいぶ違いますね……」


「そりゃそうだろ、俺は下町生まれ下町育ちの人間だ。中央区で生まれ育った男と何もかも違うのはあたり前だ。だが下町の人間が全員俺みたいなやつだと思うなよ。大半は中央区の男達より質が悪いからな」


「それは私が見て判断します。今日はもう夜遅いですから、仲間集めは明日からにしましょう。キースさんは朝早くに仕事を辞めてきてください」


「は? 仕事を辞めてこい? ちょ、ちょっと待て。そんなことをしたら金が……」


「キースさんは私が指揮官を務める小隊に入ることになりますから、騎士になったようなものです。なので、私の貯金から給料を出します。入団が正式に認められるまで、どれだけ掛かるかわかりませんが、お金の心配はしないでください。私、こう見えてもお金持ちなのでっ!」


 ルーナは親指を人差し指で輪を作り、満面の笑みを浮かべる。


「ルーナ……。金を出してまでしてテリアちゃんを救う手助けをしてくれるのか……。自己判断ってことは、お前には銅貨一枚たりとも支払われないんだろ?」


「ええ、これから私が行う作戦は無償の奉仕活動ですよ。何なら、お金が減るので寄付と言うべき行為かもしれません。でも、テリアちゃんが持っているネックレスが国を揺るがすとなれば、お金を惜しんでいられませんよ。なんせ王国が無くなったらお金の価値はゼロですからね」


 ルーナはすでに作っている輪を持ち上げ、数字のゼロを表す。


「そ、そうだな。国が無くなれば金の価値も無くなる。保険も降りなくなる。妹は絶対に助からない。何なら、テリアちゃんすら失う。くっ、そんな未来は願い下げだ」


「はい。私だって結婚して素敵な家庭を気づきたいですし、騎士団の男どもをぎゃふんと言わせてやりたいです。このままやられっぱなしではいられません。テリアちゃんを必ず助け出して国を裏から救ってみせます! たとえ認められなくても、テリアちゃんの笑顔が守れるのなら本望です!」


 俺は立ち上がってルーナの前に立った。そのまま手を指し伸ばす。


「まだ、名前をちゃんと言ってなかったな。俺の名前はキース・アンディシュ。一八歳。見かけ通り男だ。これから世話になる」


「キース・アンディシュさんですね。まさか私と同い年だったなんて思いませんでした。もっと大人っぽく見えましたよ」


 ルーナは豆だらけの手で俺の手を握り、聞き間違いなのではないかという発言をした。


「え……。俺が大人っぽい……?」


 俺は動揺した。子供っぽいと言われることは多々あるが、大人っぽいと言われた経験が皆無だったのだ。もしかすると、ミルが俺を大人っぽくしてくれたのか……。


「ええ。初めてあった時から、キースさんは大人っぽい印象でしたよ」


「え、初めて会った時……。五カ月前じゃねえか」


 ルーナは俺と会った時から大人っぽい印象を持っていたと言う。なら、ミルは何ら関係なかった。


 ――いや、騙されるな。こいつの人心掌握術だ。簡単に乗せられるな。


「逆に、私はどうですか。大人のお姉さんっぽく見えますかね。これでも化粧をして香水まで振っているんですよ。大人っぽさが相当醸し出ていると思うんですが」


 ルーナは頬に手を置き、唇を少しだけとがらせ「大人っぽい口紅を塗っています」とでも言いたそうな顔をした。


「全然醸し出てないぞ。大人っぽさの欠片が微塵もない。可愛そうなくらいな」


「…………ぐわ~!」


 ルーナは猫が怒ったような声を出し、俺に飛びついてきた。


 俺は爪で引っかかれると思い、女の細い両手首を持って食い止める。だが、女の膝が顎に飛んでくる。「こんな場所で接近戦を持ちかけてくるなよ」と言いたい。

 ルーナの腕を下におろし、膝が飛んでくる距離を制限して俺の靴裏を膝に当てて攻撃を静止させた。


「嘘。私の攻撃が止められてしまいました。確実に気絶させようと思っていたんですが」


 ルーナは豆鉄砲を食らったカラスみたいな顔を浮かべ、呟く。


「攻撃されたら誰だって防ごうとするだろ。あと勝手に気絶させようとするな」


「一八歳と言う、大人の女性に向って子供っぽいなんて言うのは非常識すぎます!」


 ルーナは俺に手を掴まれた状態で首元に噛みついて来そうなほど吠えた。


「じゃあ、ルーナは自分で大人だと言う自覚があるんだな? 大人の定義にもよるが、胸を張って自分は大人ですと言えるんだな?」


「そ、それは……」


 ルーナは視線を下げ、口をもごもごと動かす。


「まあ、俺はお前が大人っぽいとか微塵も興味がない。あ……、尻の柔らかさだけはいっちょ前に大人っぽかったぞ」


「ぜ、全然嬉しくない褒め方ですね。言動や言葉遣い、行動、何をとっても、キースさんは女性関係が全くないと断言できます。彼女の一人もおらず、どうせ童貞なのでしょう!」


 ルーナは顔を赤面させながら言う。なんなら、耳まで真っ赤にしていた。


「童貞で悪かったな。ルーナの言った通り、俺には彼女の一人もいねえよ。だが、いずれ死ぬ男と付き合おうとする女なんていないだろ」


「またそんなこと言って……。五カ月前にも言いましたけど自殺行為はやめてくださいよ。明日を生きたくても生きられない者もいるんです!」


「目の前で死にそうなやつを助けて死ねるなら俺は本望だ。俺の命は軽いからな。他のやつらを、死力を尽くして助ける。妹を失い掛け、生きる希望が何もない俺の生きがいだ」


「命の重さなんて戦場に行った覚えのないあなたが語らないでください。不愉快です!」


 ルーナは獣のような鋭い眼光で俺を睨む。


 背中がぞくりとした。


「そうだな……。戦争で儚く散る奴らの命を知っているルーナからしたら、下町で不意に消える命の尊さなんてわからねえか」


「ほんと、気に触る言い方をする方ですね。つまり、なにが言いたいんですか……」


「俺は総合的にお前が嫌いだ。強さを持っている者の考え方をしてやがる」


「強さ……。確かに私はキースさんと違って恵まれた環境で育ち、父と母の魔力も豊富に受け継ぎました。ですが、私だってただの人間です。心を持った肉塊にすぎません。そんな、異物を見るような眼を向けるのはやめてください!」


 ルーナは金色瞳の涙を溜め、叫んだ。俺も言い過ぎたと思い、反省の色を見せる。


「すまない。確かにお前も同じ人間なんだよな。別世界の生き物みたいに感じていた。そのことは謝る。だが俺は無理してお前を知ろうとも好きになろうともしない」


「はい、別に好いてもらわなくても結構です。指揮官と部下という関係さえあれば、戦えます。では、寝ましょう。もう、日をまたいでしまいそうです」


 ルーナは振り子時計を見て床に寝ころぶ。気絶するように眠り、眼を覚まさなかった。


 俺はルーナの入眠の速さに目を疑う。


「たく、聖騎士様に床で寝られちゃ、部下の俺はどこで寝ればいいって言うんだ」


 俺はルーナの体に付いている無駄な鎧を取る。すると、鎖帷子を着ているものの細い腕に脚が見えた。肉の柔らかさは女だが、子どものそれだ。

 軽い体を持ち上げ、開いているベッドに移動させる。シーツを肩まで掛けてやった。鎧は油を指し、乾いた布で拭き上げる。ルーナの寝ているすぐ近くの小さな棚に鎧をまとめて置いた。


 俺は部屋を出て、メイの眠る病室に向かい、椅子に座りながら眠る。朝に「お兄ちゃんっ! おはよう!」と大きな声で言い、起こしてくれると信じて。


 早朝、俺は日の光を浴び、眼を覚ました。結局メイは今日も目を覚まさなかった。


「じゃあなメイ、お兄ちゃんは仕事を少しの間、辞めてくるよ。でも安心してくれ。金は気前のいい女が払ってくれるみたいだ。行ってきます」


 俺はメイの額にキスをして病室を出る。そのまま、工場に走った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「おい、クソガキ! また、食い物を盗みやがったな! たく! 貴重な商品を腹の中に隠しやがって! ガキに食い物を盗まれるとイライラして仕方ねえんだよ! お前、女だよな。その小さな体でパン代でも払ってもらおうか。最近、男ばかりで溜まってんだ……」


 朝っぱらから、裏路地で子供をいたぶっている大人がいた。


 ――パン屋の店主か。あいつ、パンを盗みやすいようにわざと屋台で販売してんだよな。子供をいたぶって何が楽しいんだ。


 子どもは店主に髪を掴まれ無理やり上を向かされている。そのままどぎついキスをされており、吐き気がした。そう思った時には、俺の体が動いていた……。


「気持ち悪いんだよっ! 糞がっ!」


 俺は店主の横顔をぶん殴っており、下町では珍しく脂が乗った頬が波紋を生じさせる。そのまま顎が拉げるほどの威力で拳をこれでもかと押し込んだ


「ぶひゃっ!」


 殴られた肉塊はゴム玉のように弾き飛び、豚のような鳴き声を上げながら地面を転がり、時おり跳ねる。土砂を白いエプロンに付着させながら、一五メートルほど先で野垂れている。口から唾液塗れの舌を垂らし、土を舐めているように見えた。全体像は不潔さを増し、泥に落ちた豚以下に見える。


「おえっ……」


 ガキはキモイおっさんにキスされ、相当嫌だったのか、口内の唾液をすべて吐き出した。加えて胃液まで出しやがった。食べ物は出てこず、酸性の酸っぱい臭いが空気を漂い、俺の鼻に入ってくる。


 俺は持っていた水筒をガキに渡した。


 ――いつの水か忘れたが……、口を濯ぐくらいなら大丈夫だろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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