第八話 女囚と仲間たち②
第八話 女囚と仲間たち②
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この可憐な美少女は、ミュリュイちゃんだ。
ふわふわでくるくるの柔らかい巻き髪をツインテールにした、とっても可愛らしい女の子である。
わああ、なつかしいなあ。
「同じ房にいた子だよ、ミュリュイちゃんって言うんだ」
ちょうど、私の隣にグエンがいた。
さっそく、ミュリュイちゃんを紹介する。
すると。
「そうか、こっちの世界で友達ができてたんだな……おまえ、よかったなぁ、壽賀子!」
グエンはうんうんと、大きく頷きながら、私の肩をぽんぽんと叩いた。
ほころばせたその眼差しは、とても優しくあたたかいものだった。
な、なんだよ、誰目線だよ。
こいつってば、私の素性に相当同情してるらしいからなぁ。
まるで自分のことのように肩入れして、私の人生や交友関係に対して、いちいち心配したり見守ったりしてきやがるぜ。
「よろしく、ミュリュイちゃんさん、俺はグエン」
グエンはにこにこと、愛想よく自己紹介する。
だが。
「……………………………」
ミュリュイちゃんは、ガン無視を決め込んでいた。
その大きな瞳を、あからさまに、意図的にグエンから外すようにしている。
ぷいっと、そっぽを向くのである。
ああ、そういや。
この子、男嫌いなんだった。
「あ、あの、ミュリュイちゃん……」
見かねて、私が声をかけると。
途端、射抜くように私のことをじっと見つめてくる。
そうして、がばっと大きく両腕を広げたかと思うと、そのまま抱きついてくるのだった。
私の胸に顔を埋めたり、ぎゅうぎゅうに強い力で腰に手を回して締めてきたり。
「壽賀子ちゃぁん!会いたかったぁ!」
「わ、私も、また会えて嬉しいよ……」
ああ、ミュリュイちゃん……。
男嫌いが、またひどくなっとる……。
真面目で優しくて、気遣いもできて、ものすごくいい子なんだが。
元々なんというか、女子校育ちの女子会大事な女子社会大好きっ子なかんじの子だったんだけど。
そういう意味で彼女にとっては、男がいなくて女ばかり、という女子刑務所の居心地は、そう悪くなかったみたいなのだが。
同性同士でつるむのが大好きで、距離感もバグってるかんじでベッタベッタに触ってきたり、朝から晩までずーっとどこに行くにも一緒についてきたり、っていう。
あの頃は、あんまり接触がひどいと看守に引き剥がされて警告受けてたりしたから、まだ自制が効いたのだろうけど。
しかし今は、止める奴がいないわけで。
ひ、ひどくなってない?
ガン無視されたグエンは、自分が何か失礼なことでもしてしまったのかと、しばらくオロオロするばかりだった。
だが、そのうちに。
他の男に対するミュリュイちゃんの辛辣な態度を見ているうちに、自然と色々と察したようである。
尼僧様の隊の者や警護兵団のみんなへももちろんのこと、あの聖者様に対しても、なのである。
あの聖者様に対しても、ミュリュイちゃんは、興味を持つどころか見向きもしなかった。
そればかりか。
あからさまに睨みつけたり、嫌なものでも一瞥するかの如くな、氷のように冷たい塩対応を見せるという、筋金入りの男嫌い。
一本芯の通った、ぶれない娘さんなのだった。
逆に、同性相手には、とても従順で親切で、善意に満ち溢れた天使のような存在なのだが……。
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「壽賀子ちゃん、甘いもの好きでしょ?お花の蜜を抽出しといたの。お粉を練って焼いたものに混ぜてあげる」
難所が続く、苦行旅。
昼休憩のため、食事の支度をしている時のことだった。
薄暗いホラーな谷底道中とは、もはや思えない。華やかなミュリュイちゃんと、ときめきの、その台詞だった。
「え、それって、焼き菓子?蜂蜜クッキー?お、お菓子を作ってくれるってぇ?」
ワーイワーイヤッターヤッター!
私は思わず両手を上に広げて、三回ジャンプして喜びを全身全霊で表現してしまった。
「ありがとう!ありがとうミュリュイちゃん!」
お菓子だお菓子だ!
甘シャリだ!嬉しい!
焼き上がると途端、私は満面の笑みで、さっそく夢中でむしゃぶりついた。
ミュリュイちゃんは、料理上手で家庭的なのはもちろんのこと、とても有能な子だった。
目端が効いて、旅のついでに、めぼしいものを片っ端から採集してくるアウトドア関連のシゴデキでもある。
尼僧様にも、とても信頼されており、厚遇されて可愛がられていた。
女官たちにも人気者で、なにかと頼りにされている。
この昼休憩の間も、ミュリュイちゃんはくるくると軽快に皆の間を飛び回っていた。
様々な雑事を積極的にこなして、細やかで優しい気遣いを見せてくれるのだ。
端のほうで座り込んでいた女官の姿に気づくと、すぐに温かい飲み物を差し出しに向かった。
その女官に、そっと手渡したのは、柔らかそうな小さい布地の小物だった。
「こないだ、野生の綿花の群生地を見つけたんで収穫しといたんです!すごく質がいいんですよ、これなら吸水性も高いし、肌にも優しくて、かぶれにくいですから!」
ぬ、布ナプ!
すげえ裁縫能力!手作り生理用品!
ナチュラル自然派コットン100%布ナプキン!
ミュリュイちゃんは、自らこしらえた高機能の布ナプキンの束を、女官たちに分け与えてくれていた。
ミュリュイちゃんは、働き者だー。
私は、ただただ眺めていることだけしかできない。
簡易的な組み立てテーブルの前で体育座りをして、食後の白湯をすするだけであった。
そうしていると、ミュリュイちゃんがお茶を片手に隣に座ってきた。
詰めてくる。
みっちり、ぎゅうぎゅう密密に幅寄せしてくるのだった。
仲良しな二人の、お茶の時間。
それはいいが。
きょ、距離が近すぎるなぁ。
隣に座ってくるのはいいんだが……。
「壽賀子ちゃんは今までどうしてたの?官物支給のものって粗悪品ですぐにボロボロになるじゃない?かぶれるし漏れやすいし、数も全然足りないし」
あー、官物の生理用品なぁ。
たまには作業報奨金を使って、私物として既製品を買ったりもしたけど……。基本、いらない端切れや、ありあわせで間に合わせたものを適当にあててるだけだった。
「衣類用の布地は、どうしても染料や仕立て用の薬剤使ってる物が多いのよね。絶対お肌によくないんだから。はいこれ、壽賀子ちゃんの分」
「わ、私の分まで?悪いよ、ミュリュイちゃんの分がなくなるし」
「いいの、いいの。またすぐに作るから、遠慮しないでー」
言ってる間に、手芸が始まった。
針と糸がセットになっている裁縫小道具ポーチを懐から素早く取り出し、テーブルの上に広げたかと思うと、高速のチクチクまつり縫い、かがり縫い。
端のほうにはワンポイントで可愛いお花のマーク。
刺繍まであしらってあることに、私はさらに感動する。
「わあ、この刺繍も可愛い。なんか癒される、ほっこりするなあ」
「月のものの時って、どうしても憂鬱になっちゃうものね。ちょっとでも明るい気分になれるようにね」
また別の端っこには、リボンや蝶々などをモチーフにした刺繍があしらわれていた。
目にも止まらぬ針捌き。
あっという間に、また一つ、また一つと、布ナプキンが出来上がっていった。
軽快なおしゃべりで、みんなを楽しませたり和ませたり、場の空気を明るくさせる。
それとほぼ同時に、段取りよく、手際よく、効率よく、色んな作業を同時に並行して行えるスーパーマルチタスク。
喋りながら、すべてを高速でやってのけるのだった。
刑務所での作業も、工場勤務の時とか何度も表彰されるくらい質も量もすごい生産能力だったし、とにかく優秀な子なんだよなあ。
ああ、そうだ。
ミュリュイちゃんって、優秀な囚人、そのものだったな。
囚人にも階級があって、昇級審査などを経て、全部で四段階に分けられるんだけど。
たしかミュリュイちゃんは、一級の模範囚だった。
苦行旅のお供は、訳ありの俗物や罪人が常とはいえ。
やはり、大半のみんなは、そこまでの問題児は引き受けたがらないのが実情。
特に尼僧様なんかは、ミュリュイちゃんみたいな優等生、一級の模範囚のみを厳選して受け入れているようだった。
たぶんなぁ。私は、尼僧様のお気に召されてないかんじが、ぷんぷんするなぁ。
囚人の中でも劣等生。
プリズナーカースト最底辺の四級だしなぁ。
受け入れを拒否される問題児ぽい。異界人てのもあるし。
思想犯てのも、煙たがられるんかな。
そう思うと、改めて。
うちの聖者様って、懐広いよな。
うちの、あの聖者様って。これまでの旅でも、けっこうな問題児も極悪囚も、構わず旅の同行者に選んでいたという。
旅を終える頃には、そんな彼らでも、すっかり別人のように改心し模範的になっているとも聞く。
聖者様のありがたい指導や教えを賜り、心を入れ替え更生の道に導かれたゆえに、みたいな流れらしいが。
えー、私も?私もそんな流れになるんか?
つづく! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━




