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第六話 聖塔と俗物②

第六話 聖塔と俗物②


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 強引に、ぐいぐい押されて、私はとうとう階段にまで追い詰められてしまった。

「……どうだ……?」

 んー?


 いや、別に?

「━━あれ、平気っぽい」

 おや、気持ち悪くない。

 呪われてないぞ。

 なんでだ?


「おいで、壽賀子さん」

 聖者様が、階段の上のほうから見下ろしていた。

 そこから私の名を呼び、声をかけてくる。

 彼は、まさに高みの見物といったばかりに階下の光景を眺めては、くすくすと笑っていた。


「やっぱりね。ここに祀られているのは、潔癖なことでも有名な女神様だから。重視する点は、性的経験の有無。つまり、貞操の所持、非所持が判定材料になっているのかもしれないね」


 な、なんだそれ。

 私と聖者様は、処女と童貞だから?

 だから、ここの女神様に気に入られて、塔に入れたってことか?

 ひ、皮肉というか、なんというか。


 日頃、現世での生物としての快楽に興じれない側の立場の私たちが、ここでは選民的優越的な祝福を受けてしまうとかいう。

 なんだ、この、無意識のうちに燻らせていたであろう理不尽な怨恨や復讐感情ルサンチマンを、スカッと浄化カタルシス!展開。


 その話を近くで聞いていた管理者の老人が、大きく頷いていた。

「まさにそのとおり。清い女性ならば俗物などとは無縁。さあ、安心してお進みなされ。しかし今時、そのお年まで純潔を守っておいでとは、稀に見る、超人的な精神力、忍耐力、意志の強さと言えましょうぞ。奔放な娘御が多い昨今、なんとも見上げた身持ちの固さ。いや感心しましたぞ。壽賀子様と申されるか、さすがは聖者様のお供の方であられる」


 は、はあ。

 処女、ていうか喪女っぷりを褒めちぎられる、絶賛、讃美される、その語り口。

 おおいに複雑だぜ。


 こうして私は、聖塔登りに付き合わされることになったのだった……。


 ああ〜嫌だあー。


「さあ行こう、足元に気をつけてね壽賀子さん」

 聖者様は私の手を取って、ある程度は引っ張りあげてくれる。

 とはいえ、この階段である。


 キツイ……。

 長い。

 ぜーぜーはーはー。

 どこまで登らせるんだ、このクソ塔はぁ。

 うう、やっぱり、下で待ってたほうがラクだったじゃねぇかー。

 女神様のお気に召されず、階段下で呪われて追い払われてたほうがマシだったじゃねぇのー。

 くそうー。


 螺旋階段の途中で、私は根を上げた。

「ちょ、ちょっと休憩……」

 踊り場になったところで区切りをつけ、その場の段差にへたり込む。


「壽賀子さん大丈夫?」

 聖者様は、私の前にひざまづいて顔を覗き込んでくる。


「よしよし、ここまでよく頑張ったね」

 私の頭に掌をのせ、ぽんぽんと軽く撫でてくる。


 ああ!頭ぽんぽん!

 やめろ!

 他者との接触は、こんなピュアなねぎらいであったとしても、聖者様にとっては禁忌行為だろう!

 私は払い除けた。


「触るの禁止って言ってるだろう!」

 ま、まあ階段上がる時に、手を引いてもらったのは仕方ないとして!


 そういや聖者様は、常に私よりも上の段に立って、私の体重を引っ張って上ってたんだよな。

 なのに、息一つ乱れていない。

 涼しい顔をしており、まったく疲れていないようだった。


 さ、さすが聖者様だぜ。

 一見、華奢でナヨっとしてるように見えて、意外に頑強で体力もあるんだよなぁ。

 いつも苦行旅してれば、自然と鍛えられてるのかもしれないな。


「二人きりになるのも、久しぶりだね」

 聖者様は、私の前にひざまづいて顔を覗き込んだままだった。


 そして、そのまま身を寄せてくる。

 私の肩に手を置き、至近距離まで顔を近づける。

 おおおぉぉい!


「触るの禁止って言ってるだろう!近寄るな!離れろ!」

「だって今の壽賀子さん、特に、すごく色っぽく見える」

「は、はぁ⁈」


「上気した頬、荒い息……汗混じりの肌……力無く崩れる肢体……」

 な、なんだ、その描写!

 何を連想してるんだ、こいつは⁈


 階段何段も上ってきたんだよ!

 運動後なら、そりゃあ、こうなるだろうが!

 髪振り乱して、なりふり構わず必死の形相で階段上ってきただけだぞ!

 なんでだ!どうしてだ⁈


「すごく魅力的で……触らずにいられない」

 手を伸ばす。


 や、やめろぉ!

 毎回言ってるが、同意を得ろ!

 相手の承諾を得てからにしろ!

 拒否しないならイコール、オッケーってことですね理論は通用しないぞ!


 聖者様が持つ特殊なスキル、魅了、と言おうか、人誑(ひとたら)し、と言おうか!

 勝手に自動発動してるから、こっちは拒絶の言葉や態度がなかなか出せないんだからな!!


 つづく!  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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