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散歩


 窓辺のカーテンが揺れる。

 優しく光が差し込み、眠っている僕は目を覚ました。

 僕はゆっくりと背伸びをして、時計を確認すると『06:28』とデジタル数字で表記されている。

 平日の朝は六時半に目覚ましを設定しているのだが、毎日設定している時間に起きているせいか習慣化して目覚まし時計が鳴る数分前に起きる癖がついていた。

 遅刻しなくて済むのでありがたい習慣だと思う反面、休日にまでこの習慣で目覚めるのは不便だと感じていた。


 僕は顔を洗い、歯を磨き等の身支度を済ませるとリビングに入る。

 今日は土曜日、休日ともなれば六時代に起きる程内の家族は早起きではない。

 そういう僕も休日はいつも二度寝をするので偶々早起きしただけだ。


 リビングのドアを開けた音に反応したのか、奥から金属がこすれる音がする。

 恐らくケージが揺れた音だろうと近寄ると、やはりココが起きた音だった。


 「おはよう、ココ。 僕のせいで起こしちゃったかな」


 「ワンッワン!」


 ココは元気に吠える。

 僕に「気にしないで」と言いたいのだろう。

 ココは三年前から買い始めたペットだ。

 白い肌、真っ白の毛並み。

 安直だが、ココナッツのように白いからココと名付けた。

 ちなみに、この名づけた理由を友達に話すと「ココナッツなら茶色だろ」と言われた。

 確かに言われた時にココナッツなら茶色だと僕は衝撃を受けた。

 ココナッツの実を買ったことはなく、いつもココナッツジュースしか飲まないので実の部分を想像してしまい、『ココナッツ=白色』と勘違いしてしまったのだ、思い込みとは恐ろしいものだと当時は感じたものだ。


 ココは僕の誕生日に買いに行ったのに、父親が一目惚れしてココを選び飼うことになった。

 僕は動物に関して特に詳しいわけでもなかったので父親が選ぶことに抵抗はなかったが、父親が気に入ってココ選んだことによって、誕生日プレゼントを貰った感じは薄れるわけで、当時は追加でゲームソフトも買って欲しいと不満に感じていた。


 「よし、ココも朝ごはん食べるか?」


 ココは「ワン!」と元気に返事をする。

 僕はココのご飯を用意して、自分も朝食を食べた。

 七時になると親もリビングに集まり、ご飯を食べ始める。

 僕はソファーに寝ころびながら携帯を弄っていた。


 「今日は何処か出掛けるの?」


 母親が僕に話しかける。

 僕はココを連れて散歩に出ようと考えていたことを伝える。


 「散歩に連れて行くの?」


 母親はココを散歩に連れて行くのに抵抗があるようだ。

 昨今マナーの悪い飼い主が多く、排泄物をそのまま放置する者や大衆の前で自分のペットに躾だといって暴力を振るう者もいる。


 正直こういう輩は注意したいし、できることなら通報して捕まえてやりたい気持ちはある。

 だが、僕たちとは違って動物は『物』扱いになる。

 だから極端な話、他人のペットを殺した場合でも器物損壊罪になる。

 

 気になって調べたこともあるが刑法によれば、『三年以下の懲役又は三十万以下の罰金若しくは科料に処す』と記載されていた。


 相当悪質でどれだけ頑張っても懲役三年で終わる罪。

 実際は罰金を払って終わりか、大体が示談で終わるだろう。

 動物の命とは数十万の金と同等の命というわけだ。

 

 なので、マナーの悪い飼い主を通報した所で相手には大したダメージにならないことが高校生の僕でも理解できる。


 「行ってきます!」


 母親は心配して言ってるだけなので、ココを連れて散歩に行くことを反対しているわけではない。

 僕はココの首輪にリードを付けて、散歩に出る。


 「いい天気だな」


 今は十一月、空気は寒いが晴れているので服を少し着こめば散歩にうってつけの日だといえる。

 ココを連れて歩いていると、早速マナーの悪い飼い主を目撃する。


 あろうことか服を着せてないのだ。

 時々服を着せないことが一般的だと勘違いしている人間もいるが、大きな間違いだ。

 マナーの問題や、寒い時期だから防寒の意味でも着せた方がいいのは勿論あるが、アレルギー等の皮膚病を防ぐためにも服は着せたほうが良い。


 まぁ、ああいう変人は放置するのが得策だろう。

 僕は無視して散歩を続けているとのぼり旗が目に入った。

 『本日、開園無料』

 近所の動物園が今日で二十周年を迎えるということで無料で開園しているようだった。 

 限られた小遣いの中で無料で動物園の中で入れる情報を知れば行くしかない。


 「折角だし行ってみようか」


 「ワン!」


 ココも乗り気なようだったので僕は動物園に向かう。

 ここの動物園には小さい頃に行ったきりなので覚えてなかったが、ここの動物園はライオン、キリン、狼、猿とおよそ動物園にいるだろうな思いつく動物は大体いる。

 歩いていると、女の子がこちらを見ていた。 

 顔の幼さと背丈からして中学生ぐらいだろうか、彼女はポケットに手を入れてココに視線を向けた後に僕を見る。


 「チッ!」


 鋭い眼光で睨みつけながら舌打ちをすると、女の子はその場を去っていった。


 「……なんだあいつ」


 彼女の名前も知らないし当然会ったこともない。

 だが、睨みつけたことに加えて舌打ちも完全にこちらに向けたものだ。

 怒りで呆然と立っていると、リードが引っ張られて現実に意識が戻る。

 ココがリードを引っ張っていた。

 ココの表情は不安げに僕を見つめている。


 「そうだな、気にしても仕方ないな」


 これ以上ココに心配をかけたくない、そう考えた僕は他の動物を見に行こうと歩くと――


 「お!」


 ココと同じ動物を見つけて、ふと気になり立ち寄った。

 檻の中では客を楽しませるためにパフォーマンスをする動物もいれば、寝ている動物といろいろな行動をしている。


 「そういえば、ココは何の種族になるんだ?」


 ここの動物園には檻の近く看板がついている。

 その看板には檻の中にいる動物の生態や種族が事細かに記載されている。


 僕は檻の近くにあった看板を読む――











 『脊椎動物門ほ乳綱霊長目ヒト科ホモ属サピエンス種』


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