敵対者との遭遇
刀を虚空へ仕舞った白と"ライト”の魔法で辺りを照らしたアルスは、単純な構造の洞穴を進んでいた。すると、奥の方からコウモリ型のモンスターが現れた。
「ハウバットが4体ですね、ここは任せてください。」
アルスは自分の目の前に魔法陣を展開し、魔法を放った。
「リースウェーブ」
光の波がハウバット達にあたると、魔法のダメージとそれによる落下ダメージでハウバット達を倒した。亡骸が消滅した所には、羽が落ちていた。アルスはその羽を拾った。
「ほぇ〜ハウバットが飛んでることを利用してあえて弱い魔法で攻撃したんだ〜流石だね」
白はアルスに近づき頭を撫でながら言った。アルスは"また撫でられた”と思いながらも、
「は、早く先へ行きましょう。」
と言うと先へと進み始め、白はもっと撫でたそうにしながらも、アルスに続いて2人で先へと進んで行った。ある程度道なりに進むと、下に降りる階段があった。
「あれ?ここって自然にできた場所だと思ってたけど、誰かが手を加えたっぽいね。」
その階段を見た白は、この先には確実に誰かが居ると思ったが、それでもプライリーの人達のためにアルスと共に建物の3階分程あるだろう階段を降り、先へ進んだ。すると2人はかなり広い空間に出た。真ん中辺りまで進んだ所で、少し奥の方の床に魔法陣が展開されると、洞穴に入る前に逃したリグハウビーストが現れた。
「さっき逃したリグハウビーストがなんでここにいるか分かんないけど、倒さなきゃいけなさそうだね。」
左手の甲の紋章を光らせ鞘に納された刀を出現させた白の横で、
「僕がサポートしますので、白さんは自由にやってください。」
とアルスが言った。リグハウビーストが吠えると、辺りにハウビーストが4体湧き出てきた。アルスを信じてリグハウビーストに一直線に向かっていった白にハウビースト達が襲いかかろうとすると、アルスは魔法陣を2つ展開してハウビーストを狙いつつ、白に補助魔法をかけた。
「カトルペネトレイション!アクアブレッシング!」
放たれた4つの光線は的確にハウビースト達を貫通させて倒し、水属性補助魔法をかけられた白は抜刀し斜めに切り上げたが、リグハウビーストに避けられてしまった。少し距離を離されると、リグハウビーストは風属性"ブラスターショット”を放った。白はその魔法を鞘で上へと受け流し、その流れで斜め上に斬り上げた。再び後ろへ跳び下がろうとしたリグハウビーストだったが、距離を詰められていたこともあり、そのまま斬られ、白に倒された。
「これで解決したんじゃないですか?」
アルスは落ち着いた様子で言うと、違和感を感じていた白は"まだなにか居るはず”と考えていた。
「あ、ボクのペットやられてんじゃ〜ん。」
奥の暗い方から男の子のような声が聞こえた。青緑色の髪で、黒に近い緑色のローブに身を包んだその少年(?)は2人の方へと歩いてきた。2人は冷や汗をかいており、警戒しながらも白は少年(?)に声をかけた。
「あなた、一体…」
すると少年(?)は2人に対して優しそうな声で返した。
「あ、そういえば名乗ってなかったよね。ボクはエラー・ビエント。殲誓天の1人だよ。君たちが思ってる少年って認識であってるよ。君たちは白とアルスって子達だよね。」
丁寧な自己紹介と共に、まだ何も言っていない2人の名前を言い当てた。
「何故僕らの名前を…」
「風が教えてくれただけだよ。」
アルスの疑問に対してもエラーは答えた。白もアルスも殲誓天という名と、実の本人から溢れ出す力に当てられながら、大人しく引いてくれないだろうと感じていた。
「まぁ君たちの名前くらいなら覚えといてあげるけど、ここで死んでもらうよ。」
するとエラーは白たちに掌を向けると、笑顔で魔法を放った。
「ウィンドザージ」
白とアルスはその場からそれぞれエラーの左右へと避けた。だがその威力は明らかに4位階のような中範囲ではなく、広範囲に風が吹き乱れた。
「ライトブレッシング。ヴェントチュトラリー。…あれは五位階くらいの威力があります。補助はしていきますが気を付けてください。」
アルスは自分に光属性補助魔法、自分と白に風属性防御魔法をかけると、緊張しながらも白を気にかけていた。白は再度刀を抜き鞘を虚空に消すと、エラーの方を見た。エラーは余裕の表情を浮かべながら、楽しそうにこちらを見ていたが、そこに隙は無かった。
「アルス!頼りにしてるよ。…巫!」
白はエラーと距離を詰めると、横に払うように斬ったが、上空に避けられてしまった。地面を強く蹴って再びエラーに近づき刀を振ると、それをエラーは剣で受けた。
「へ〜なかなかやるじゃ〜ん」
未だに余裕の表情を崩さず話すエラーだった。白は刀を剣で受けられながらも全力で妖術を放った。
「渦蒼球」
剣で受けていたこともあり、巨大な水球がエラーに当たりそうになったが、ギリギリで避けた。避けられた渦蒼球は天井に当たると、そのまま地上まで突き破った。
「流石に今の喰らったらヤバかったよ。」
笑いながらエラー剣を振ると、白はそれを刀で受けたものの地面へと落とされた。エラーは追撃しようと白の元へ降りた。アルスはエラーの後ろから魔導書を開き魔法を放った。
「カトルペネトレイション!」
光はエラーへ向かって放たれたが2つは剣で捌かれ、1つは地上へと外れていった。
「アルス君も疲れてるんでしょ?魔法の操作も雑になってんじゃん。白君を殺したら君も殺してあげるから、そこで待っててね。」
再び白の方へ向いたエラーは、フラフラしながらも立ち上がった白の方へと歩きながら言った。そして白の首を切り落とそうと剣を両手で持ち上げた時、エラーの後ろから胸の真ん中にあるコアを光が貫いた。
「くっ…そ、僕が……ふっ、流石は賢者か…………。」
片膝をついて呟いたエラーに対して白は、自分の腕を振り下ろし、先程放った渦蒼球をエラーの頭上へと落とした。それと同時にアルスはエラーの後ろから再び魔法を放った。
「ブライトペネトレイション!」
光はエラーを呑み込み、渦蒼球が頭上から直撃した事で、エラーは文字通り何も残さずに消滅した。凄まじい爆風により2人は壁へと吹き飛ばされたが、洞穴が崩れることを察すると急いで地上へと出た。
「まさか精霊をこっちに飛ばすとは思わなかったよ。」
「魔導書にある不可視の魔法を使って光の魔法と精霊を白さんに向かわせられたのも、あいつが油断していた事と、白さんが気を引いてくれてたおかげですよ。」
「あいつの油断を誘ったのもアルスじゃん!助かったよ〜ありがと♡」
白はアルスにくっつきつつ話しながらプライリーへと戻って行った。
「ちょっと!私のこと忘れてない?結構頑張ったんですけどー!!」
レータはそんな2人を見て、少し嫉妬したかのように言った。空は茜色にそまっており、やがて村が見えてきた。すると1人の男性が村内に入っていき、2人が着く頃には村長を含む村の人々が出迎えた。
「あの轟音は、元凶を討っていただけたのですね。そしてそちらの方も賢者様でございますね。代表して私がお礼を、誠にありがとうございます。それはそうと、宴の準備が出来ております。お疲れでしょうが、今夜は楽しんでください。」
ベルデ村長がお礼を言った。その後ろでは様々な装飾や料理があり、村人たちももてなす気満々である様子が伺えた。白とアルスとレータは疲れてる事を忘れているかのように宴を楽しんだ。
「色んな料理あるじゃん。アルス〜こっちの魚のフライ美味しいよ〜♪」
「ほんとですね!あ、白さん、こっちの装飾綺麗ですよ。」
「ん〜この料理美味しいし装飾も綺麗〜。」
宴は夜遅くまで続いた。そして気絶するように眠った2人が目を覚ましたのは翌日の昼頃であった。するとレータが魔導書から出てきた。
「2人ともすぐ寝たから言い忘れてたけどさ、私は普段この魔導書の中に居るから、なんかあったらまたよんでね。」
ため息混じりに言うと、仕方なさそうにアルスの持つ魔導書へと戻った。2人はベルデ村長の元へ挨拶に行った。
「もう旅立つのですね。この度は本当にありがとうございました。ファストパーロンにいる者には既に伝えております。あとなにか私達にできることがあればしたいのですが…」
ベルデ村長が2人にそう言った。白は特に思いつかなかったが、それを察したのかアルスが答えた。
「僕の出身であるレースアルカーナの南に精霊の泉があるのですが、そこにある神天像に、毎日でなくても大丈夫ですので、祈りを捧げて貰えないでしょうか?詳しいことはそこにいる僕の祖父が知っておりますので、お願いします。」
「承知致しました。貴方の祖父、シーダは私の旧友ですので、彼の事は知っております。」
ベルデ村長はそれに応じ、アルスは「(おじいちゃんと旧友ってことは…)」とベルデ村長が何者なのかを何となく察した。そして村人達に見送られながら、2人(+1)はファストパーロンを渡り、セントラルへと向かった。
白とアルスはザフトユークからファストパーロンを渡り、セントラル諸島中央に位置するセントラル王国へ来た。城門に入ろうとした2人は兵士によって止められた。
「ここはセントラル王国。何用でここに来たのだ。」
「私達は賢者で、王様に用があってきました。」
白は自分の左手の甲にある賢者の紋章を見せながら言った。アルスは特に何も言わず、"白に全部任せる”といった感じで横にいた。
「これは申し訳ありません。ですが今王様は会議中でして、その間は城下町を回ってみては如何ですか?まずはワールドギルドへ向かうことをオススメしますよ。」
警戒を解き、優しい声でそう言うと兵士は白に地図を渡した。その地図には王国内の様々な施設のある場所が描かれていた。
「ありがとうございます。」
白はアルスと共に地図に描かれたワールドギルドへと歩き始めた。城壁内は北に城があり、一周り外にはギルドが運営する施設や住宅街があり、最も外側には
様々な国との交易により色々な物品か入ってきていた。
交易エリアを抜け住宅街を通っている時、アルスは家の裏の暗い場所に誰かが倒れているのを見つけた。
「あの〜大丈夫ですか?」
アルスはしゃがんで話しかけた。白も後ろからついてきていたが、何やら震えているようだった。
「ち、血が…欲しい……で、す。」
金髪赤眼のどこか幼げの残る少女は、今にも死にそうな声でそう返事をした。アルスはそこで"吸血鬼族”だと気づくと、その少女の口元へと腕を差し出した。少女は飛びついて腕に牙を立て血を吸いはじめた。しばらくすると腕から口を離し、アルスの方へ目を向け自己紹介を始めた。
「すいませんありがとうございます。私はエリス・スピネル。ミッドナイトから来た吸血鬼族の賢者だよ。」
「僕達も同じ賢者で、僕はレース・アルカーナから来たアルス・レーヴ。後ろの人はルナール出身の白さんです。」
エリスの自己紹介に合わせてアルスは自分と白の自己紹介もした。アルスとエリスはそれぞれの瞳を見て、同じ紋章がある事で賢者と気づいた様だった。エリスは自分の仲間に出逢えたことが嬉しかったようで、アルスからみてもそれが分かった。
「アルスに白。これからよろしく!」
「うん、よろしくお願いします!」
「…………………」
挨拶を交わした2人だったが、後ろが妙に静かなことに気づいた。後ろでは白が文字通り真っ白に燃え尽きた様に涙を流して固まっていた。アルスは慌てて白の体を揺さぶると、白はハッと意識を取り戻した。
「あ、ごめん。2人が尊すぎてつい…//。白お姉ちゃんだよ〜エリスちゃんよろしくね♡」
いつも通りかわいいものに目がない白は目をハートにし涎を垂らしながら挨拶をした。アルスは「それにしてもなんか違うような…」と謎の違和感を感じたが、やれやれとエリスに近づく白の服を掴み離した。
「白お姉ちゃん!私の事は呼び捨てでいいからね。」
エリスがそう言うと白は鼻血を出しながら再び固まった。そんな白を面倒くさそうに起こすと、3人はギルドへと向かった。