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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

超即暖!使い捨てカイロの恐怖

作者: 斉藤寅蔵
掲載日:2023/01/28

 しいな ここみ様主催『あつまれ自信作企画』に3年前の旧作(改訂版)で参加させていただきました。

 SFコメディミステリホラー。


注:『自信作』=『(投稿したときには)自信(あったけど受けなかった)作』

「あ?何だこれ?」


 ドラッグストアでの買い物を部屋で整理しているときに気付いた。

 使い捨てカイロの30個入りを一箱買ったのだが、よく見るといつも買っているメーカーのカイロじゃなかった。

 箱の色が似ているので気付かず買ってしまったようだ。

 案外店の方でも間違えて置いてしまったのかもしれない。

 箱を良く見ると、なんかクリエイター系の連中の名刺みたいにやたらデフォルメ効かせた字体で商品名がプリントされていることに気付く。

 あいつらの名刺ホント読みにくいんだよな……

 それはともかく苦労して読んでみると、『FAST』と書いてあるようだった。ファスト?すぐ暖まるってことか?


「ま、どこのメーカーでもカイロの品質なんてそう変わらんだろ」


 と、その時は、あまり気にもしなかったのだが。


 ◇◆◇


 翌日、俺は職場で一人残業をしていた。

 俺の職場では定時で暖房を切ってしまうため、冬の夜7時過ぎには風邪をひきそうになる程オフィスの室温が下がってしまう。

 そうなる前にカイロをポケットにでも入れておけばいいのだが、俺の悪癖で、何かに集中すると他のことに無頓着になってしまうのだ。

 そのため、今日も作業に夢中になって気が付けば身体が冷え切ってしまっていた。


「寒っ。あ~、今からでもカイロ使うか」


 カバンを開けて前日購入したカイロを一つ手にとり、袋を開けて中身を取り出した。


「え!?」


 びっくりして声が出る。即暖タイプとかいうカイロでも充分温まるまで数分は掛かるものを、一瞬でほぼ最高温と思われる温度に達してしまったのだ。

 改めて袋を見ると『急激に高温に達しますので使用の際はご注意ください』との注意書きがあった。

 似たような注意書きは見たことあるが、本当にここまで急激に温度が上昇するものは初めてだ。

 これならカイロが温まるまでの時間を考えて予め封を切る必要もない。

 思わぬ当たりを引いたもんだと喜んで、残業の続きに取り掛かったのだった。


 ……先に身体を冷やし過ぎたせいか、軽く頭痛がしてきて、やがて息切れの症状まで出たので、早々に帰宅することになってしまったが。


 ◇◆◇


 翌週の休日、俺は冬のキャンプ場で持参した折り畳み式のリクライニングチェアに座り、タブレットで動画を見ていた。

 

 俺の仕事はシフト制なので、平日が休日になることも多い。その日も世間的には平日だったので、キャンプ場のその一帯を貸し切り状態で満喫していた。


 季節が季節なのでフード付き防水防寒ツナギの防寒着を着用している。

 使い捨てマスクを装着してフードを被り、顎元でフードの紐を結んで寒風をシャットアウトして、同素材の手袋をはめているため、顔の一部だけが外気にさらされている。

 まあ、ちょっと知り合いには見られたくない格好だ。


 動画に夢中になってふと気づくと気温がかなり下がっている。焚き火台の炭もほとんど灰になっていた。

 防寒着で寒風を防いでいるとはいえ、ここまで気温が下がればさすがに寒い。急いで焚き火台に炭を足した。

 しかしそれでも寒いので例の超即暖カイロを一気に十数個袋から出した。

 フード紐の結び目を解いて防寒着の襟元から背中側と腹側にそれぞれ数個ずつカイロを放り込んでまたフードを被り顎下で紐を結びなおす。

 ツナギはウエストをベルトで締めているのでそこにカイロが留まっていた。

 ついでに手袋の中にもカイロを入れて一息ついてると、早速カイロが温まってきた。


「いやあ、こういうときに便利だよな、これ。ほんと、こういうの欲しかったんだよ…………!?」


 突然、吐き気と頭痛に襲われ、息切れがした。

 何だ!?インフルエンザかコロナか?それにしても急すぎる。


 立っていられなくなり、倒れそうになったところ、かろうじて焚き火台前の椅子に座り込む。


 ……何だ……以前似た経験したことがあるような……昔登山に付き合わされて……あ、そうだ、酸欠?……馬鹿な平地の屋外で……!


 『酸欠』の単語でふと気づく。

 カイロが熱を発生するのはその素材が酸化する……つまり酸素と結びつくことで発熱する。

 しかし俺の防寒着の中は外気を遮断しているので発熱するのに十分な酸素がない。

 だが防寒着内のカイロは発熱している。

 もしかして


「……俺(・)の(・)血(・)中(・)に(・)溶(・)け(・)て(・)い(・)る(・)酸(・)素(・)を(・)取(・)り(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)のか!?」


 慌てて顔のマスクを下ろすも症状が治まらない!

 とにかくカイロを取り出さねばと焦るが、既に身体のコントロールが利かず、細かい作業ができない!

 顎元の紐の結び目が解けない!ベルトを外すこともできない!……クソッせめて先に手袋を外しておけば……目が、もう、見えな……


 最後の力を振り絞って前方に左腕を伸ばす。

 次の瞬間、力尽きた左腕が下に落ちる……


「ギャアアアア!」


 焚き火台の上に落ちた腕が焼かれる激痛に絶叫する!


 よ(・)し(・)!(・)こ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)!(・)


 炎の熱により防寒着の袖に穴があき、そこから空気が入る。

 空気からカイロに酸素が補給されて俺の血中からの取り込みが鈍ったのであろう。

 呼吸が楽になり、少し身体が動かせるようになった。

 椅子ごと横に倒れ込み、腕の火傷の激痛に耐えながら地面を這うように移動する。

 少し離れた所に置いていた調理用のナイフを右手に掴んで、袖の穴から一気に防寒着を引き裂いて中のカイロを掻きだすようにして防寒着の外に出した。


 助かった!

 一か八かで腕ごと袖を焼いて穴を開けた訳だが、その判断が当たって良かった。

 少し呼吸が落ち着いたところでポケットから右手でスマホを出し、救急車を呼んだ次の瞬間に俺の意識は飛んだ。


 ◇◆◇


 こうして俺は一命を取り留めた。

 腕の火傷も後遺症なく完治する見込みとのことで一先ず安心した。


 こうなった原因のカイロについてだが、いくつか気になることがあり、誰にも話してはいない。


 あの後、カイロを購入した店はもちろん、回れる限りのドラッグストアやコンビニを回ってみたのだが、どこにもそのカイロは売っていなかった。

 ネットでメーカー名を検索してみたりしたが出てこない。


 それに、後でよく考えてみると、外気を通さない素材の防寒着だからといって中が完全に密封されるわけではないし、それで血中の酸素が取り込まれるはずもない。

 そんなことが起きるんだったら、靴の中用のカイロなんて販売されてないだろう。


 はじめて会社でカイロを使用したとき、体調不良で帰宅した。

 軽い頭痛と息切れで。

 あのときは風邪をひきかけているのかとおもったが、あれは酸欠の初期症状だ。


 思うにこれは周囲の酸素が不足してなくても、使用者の血中から酸素を取り込んで積極的に命を奪いに行く暗殺呪具ようなものなのだろう。


 今、俺の目の前には、あの日以来使用していないカイロの箱がある。


 箱にプリントされた商品名は『FAST』(ファスト)だと思っていたが改めてよく見ると『FAUST』(ファウスト)だった。

 悪魔がその魂の対価として、現世の栄華を与えた男の名だ。

 

 もしかしたらこのカイロはただの暗殺呪具というだけではなく、俺の魂を得るつもりだった悪魔か何かが俺に用意した対価だったのだろうか……




 ……あれ?俺の魂の対価、使い捨てカイロ30個分?税込900円くらい?


 何かムカついた俺は残りのカイロごとその箱を燃えるゴミの袋に入れて固く口を縛り、全力のオーバーハンドスローでそれをアパートのゴミステーションにブチ込んだのだった。


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― 新着の感想 ―
 斉藤寅蔵さん、こんにちは。 「超即暖!使い捨てカイロの恐怖」拝読致しました。 『あつまれ自信作』企画参加作品。  辛口評価でいいんですよね?(主催者がそう言っている)  自信もって投稿するから自…
血中酸素を消費するカイロってのは怖いと思います ただジャンルがホラーならホラーらしい最後(オチ)にして欲しかったな、捨てるなんて勿体ない、例えば会社のライバルや自分に残業を命じる上司などにカイロを…
私も寒がりなので冬はカイロが手放せないのですが、このカイロは怖すぎます……! FAUST、うまいなぁと思いました。 むちゃくちゃ呪われてる……(´・ω・`) 面白かったです✨ 斉藤さん、ありがとうござ…
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