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蔑みの強者たち

――この世界には,能力(アビリティ)というものが存在する。火を噴き水を操り空を飛んで物質を作り出す…。そんなことを行える人間たちがいるのだ。かつては,この力を神により与えられしものだとして崇めたクニもあったが,今では違う――。むしろ,この力は(さげす)みの対象だ。能力を持って生まれた能力者の子は周りから異質な存在,邪悪な存在として扱われ,ろくな名前などもつけられずに”鬼”とだけ呼ばれ,事実上の村八分となってしまうのだ。だが,能力者の殆どはそのような過酷な環境下にいるのにも関わらず,しぶとく生き残る。それも,能力故のことなのだろうか。

ここ数百年の間,能力者は迫害され続けてきた。殆どが,能力者を一括管理する為の閉鎖的都市に収容され,それこそ穢多(えた)非人(ひにん)のような扱いで,人権など皆無であった。だが,そのような過酷な環境下なのにも関わらずただ黙っているだけの能力者は少なくなかった。皆,幼きうちから収容され,自らの置かれた悲惨な環境に一切気づかず,その街で生きることに何の疑いも持たないような,そのような教育をされてきたからであった。

しかし,極稀にある程度の年齢になるまで収容されず,国内の都市を放浪し潜伏していた者も存在した。そのような者の多くは他の収容の妨げになるとして隔離され,多くが短期間の内に処分(・・)なっていた。


それはまるで,能力者にとって地獄のような世界。そんな世界に十数年前,とある一筋の光が見いだせた。ある村から収容されたとある青年が,収容されている他の能力者たちを説得して反乱を起こしたのだ。厳重に警備された都市とは言え,人間を超越した力を持つ能力者の集団の前では警察的戦力は無力に等しかった。

閉鎖都市から解放された能力者たちは,反乱を主導した青年を中心として能力者たちの復権を目指す”能力者解放戦線のうりょくしゃかいほうせんせん”を密かに結成し,幾つかの勢力に分かれて各都市に潜伏,連携して能力者の保護などを行っていた。

俺が彼らに拾われたのも,ちょうどその頃だった――。






「さーてっと…これで今日の見回りも終わりだな」

とある都市のやや寂れた郊外にある街のに建つビルに入り,伸びをしながらそう呟いた。

「お疲れ様。その様子だと今日も特に異常はなかったみたいね」

ビルの3階,小さな事務所のような部屋に入ると直ぐに,特徴的な亜麻色(あまいろ)の髪をした少女が俺に労いの声をかけてくれた。

「……ったく,こういう仕事は専門の警備班でも組んでやってもらいたいもんだよ」

「まあそう怒るなって。今は人数もカツカツなんだよ。それに,歩哨(ほしょう)だって十分良い訓練になるぞ?」

俺の(こぼ)した愚痴を即座に拾い上げ,言い訳にしか聞こえないような理由をあげるスキンヘッドの男。おれはそいつに対し僅かながらの苛立ちを見せつつ意見する。

「人が足りねえってのは百も承知だよ……ってか,足りねえならアンタも行けばいいだろ,親父?」

「無理に決まってるだろう…第一な,リク。お前はまだ経験不足だ。こういう基礎的なところから学んでいってこそ,私みたいな真の一人前になれるんだぞ」

「へいへい…親父の自慢も説教も聞き飽きたよ」

うざったらしい親父の話をそう聞き流すと,俺はソファーに腰掛け机の上に広げてある書類や地図に目を通した。

「これか…こないだ親父が言ってた計画ってやつは。いや〜…こんな壮大な計画がボロい事務所みたいな所で立てられてるとはねえ…」

「そう,これがその計画だ…。こんな貧相な拠点でも,一応は解放戦線の本部なんだぞ?それに同胞たちが集えばそれこそすごい人数だし」

「んなことは解ってんだよ。でも…本当にこれ,計画通りに行くのか?」

大層な文字が並べられた計画書に目を通し,(いぶか)しむような目で親父に尋ねる。

「まあ実際…全てが段取り通りとは行かないだろうな。能力者の中にも私とは意見を異にする者もいる。そういった者たちが素直に従わず,結果計画が崩れるなんてこともあり()る」

「だろ?そうなった時のカバーリングはどうするんだ?まさか何も無いとか言うなよ?」

「あるさ…それも決定的なね。まあ,今ここで教えられるわけではないが」

何やら含みのある言い方をした親父は,クルッと後ろを向いて椅子に腰掛けると,どこから取り出したのか紙飛行機を俺に向かって投げた。

「うわっ!?何するんだよ親父!」

「悪い悪い,ちょっと見てほしいものがあってな。ユナも一緒にだ」

「私も?わかっわた」

キョトンとした彼女だが,直ぐに亜麻色の髪を揺らしながらこちらへ来た。

「これはこの街に駐留(ちゅうりゅう)する軍から盗み出した資料なんだが…どうやらこの拠点の存在が勘ぐられているようだ。奴ら怪しい所は容赦なく叩くタイプだからな。そう遠くない内に部隊を派遣してくると思ったんだが…運の良いことにそれを入手してね。その紙飛行機を広げてご覧」

そう言って,親父は俺たちに紙飛行機を広げるよう指示する。言われた通りに広げると,俺はそこに書いてあった内容に目を丸くした。

「襲撃計画…ってこれ,今日じゃねえか!どういうことだよ!?」

「落ち着きたまえ…時間が書いてあるだろう。襲撃は今日の夜だ。最も,もう見張りの一人や二人は張っていると思うがな」

「そうかい…で?俺に何をしろと?」

核心を言わぬ親父に,やや怒ったような態度で尋ねる。

「そんな目すんなって…リクにやってほしいことは1つ。敵部隊の殲滅(せんめつ)だ」



「ったく…あの野郎俺らを(おとり)にして自分だけ逃げようってか?」

「文句言うなよ…ジュンさんにだって考えがあるんだよきっと…」

俺らに敵部隊の殲滅とかいう無理難題を押し付けてきたクソ親父ことジュンイチへの愚痴を,薄銀の髪をした少年に零していた俺だったが,状況はと言うと巫山戯(ふざけ)てられるようなものではなかった。

「なあ,リョウ」

「どうした?」

「俺達は今ここにいる,たった十数人でここを守っているんだろ?んで,そのうち近接戦闘が可能なのは俺だけ。勝ち目あるか?」

「どうだかね…正直僕も怪しいとは思うけど,戦いの目的がジュンさんやリーダー(・・・・)の脱出だからね…」

「やっぱ囮だよなあ…ったく,人使いが荒いんだから…」

「程々にしなよ…戦闘に集中できなくなるよ」

襲来に備えて急造された土嚢壁(どのうへき)の内側で,そんな雑談を繰り広げている内に,どうやらお相手さん(・・・・・)もやってきたようだ。

既に陽は傾き,家屋や木々の隙間から差し込む(だいだい)色の矢は,まもなく闇に飲まれる街を美しく照らし出していた。

――突如,空間を引き裂くような轟音(ごうおん)が鳴り響き,それを知覚すると同時に頭上で何かが炸裂(さくれつ)する。

「クソッ!いきなり撃って来やがったぞ!?」

「大丈夫だ,防壁は機能してる。…敵の砲撃だ!陣地前方の大通り方面からの攻撃だ!各砲座(ほうざ)は反撃開始ッ!」

リョウが素早く指示を出し,陣地内の砲座からの反撃が始まる。どうやら,敵は榴弾砲(りゅうだんぽう)を用いて俺たちの陣地を制圧しようとしていたようだが,生憎こちらは防御系能力者が陣地周辺に防壁を敷いてる為攻撃は防げた。だが,敵とて1斉射(せいしゃ)で砲撃の手を止めるほど甘くはない。続けざまに2斉射目,3斉射目が放たれる。

「迎撃急げ!まずは敵榴弾砲を破壊するんだ!」

「リョウ!俺が前に出て潰すッ!支援は頼んだッ!!」

そう言い残し,俺は自らの背中に一振の(つるぎ)生成(・・)し,地を蹴って低空を滑るように駆け出す。リョウの驚くような声が聞こえたような気がしたが,きっと気の所為であろう。


「…ッ!」

俺に向かって,1発の銃弾が放たれた。大型の銃だな…12.7mmだろう。まともに知覚する頃にはきっと,俺は弾丸に貫かれ激しい痛みと恐怖を同時に味わっているだろう。

感覚よりも早く――一種の勘のようなものだけを頼りに,俺は剣を振った。

―――刹那,剣先が弾丸に触れ――甲高い金属音とともに,高速のエネルギー体は2つに分割され後方に飛び去った。


それから僅か数十秒で,敵の榴弾砲は全て俺の手によって切り裂かれ沈黙したが変わって歩兵部隊の激しい反撃を受けた。さすがの俺でもファイアレートの高いSMG(サブマシンガン)やフルオート射撃中のAR(アサルトライフル)に狙い撃ちにされていはひとたまりもない。一度退くしか無いか…。

後退し,リョウへと連絡を入れると,どうやら俺が敵を掻き回している内に撤退の時間稼ぎは成功したようだった。まあ,置いてあった装備は土嚢壁から迫撃砲に至るまで全て能力によって生成されたものだ。撤去などほんの一瞬,問題なく撤退できたのだろう。それと,事実上殿(しんがり)になった俺の為に対戦車砲を1門,用意してくれたようだった。敵のいる方向を見れば,数両の装甲車を引き連れた1両のMBT(主力戦車)が,戦車砲をこちらに向けて走ってきている。

「でかい獲物だな…やってやるッ!」

敵戦車に向けて,対戦車砲を放つ。同時に砲を離れ,迅速に撤退をした。




拠点のあった街から数キロ離れたとある村落の一角で,解放戦線本部及び周辺地域から避難した能力者たちが集合していた。

俺も遅れて,その地まで撤退することができた。

「…リク?…リク!よかった,無事だったのね!」

「ああ…奴らに一泡吹かせてやったぜ」

俺のことを余程心配していたのか泣きつくユナをあやしつつ,親父に生還及び敵情の報告をした。

「親父…戻ったぞ。少なくとも俺らが交戦した部隊はそれなりに装備も破壊したし,立て直すために撤退しただろう。それと戦果未確認だがMBT1両にも直撃弾を与えた。今すぐに敵が襲来する可能性は高くないだろうが,新たな部隊を派遣すれば1時間もせずに包囲される可能性もある。今すぐ移動を開始したほうが良くないか?」

「そうか…分かった。今はまだ集合した軍勢も少ない。ここで負傷者を出すのも数を失うのも今後を鑑みれば避けたい。できる限り早く出発しよう」

「了解だ…じゃあ俺は哨戒に出る,ユナたちを頼んだぜ親父」

そう言い残して,俺は疲れの残る体に鞭打って村落周辺の哨戒に乗り出した。



村落からの撤退は,何事もなく無事に完了した。その先進むは無人の荒野,数十キロの行軍だった。

最初の休憩地点として選んだ町に着いたのは,闇が藍へと変遷(へんせん)する黎明(れいめい)時をやや過ぎた頃であった。

ひとまずの戦闘々(たたかい)を終え,なんとか無事にここまではたどり着けた――。だが未だ,奴らは俺たちを追っているだろう。圧倒的な数的不利の上に逃げられる場所も少ない…。絶望的とも言える状況でも,俺は諦めたくない。俺の力を必要とし,解放を待つ同胞たちがいるから――その気持ちを裏切らない為に―――。

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