魔女のお菓子が切れる時
ルルリは5歳の女の子。好奇心旺盛で村の男の子に混じって村の周りを嬉々として探検するような子供だった。
「お母さんはちょっとリートの世話で手を離さないから、お外で遊んでおいで」
ルルリの二つ下の弟のリートが熱を出した。どうやらただの風邪らしいが、それでも辛そうな弟を残して遊びに行く事は躊躇われた。
「お姉ちゃんにも移ると大変だからね」
母親のごもっともな言葉に後押しされて、ルルリは家を出たのだった。
ただ、その日は男の子のリーダー的存在の子も熱を出していて探検は開催されなかったのだ。
ならばと、一人で探検を始めたルルリだったが、夢中になり過ぎて林の方まで来てしまっていた。
「あっ、お菓子だ!」
焼き菓子が落ちていた。ルルリはそれを拾おうとする。
「こら! それは獣のにやる為に置いた物だ」
「あっ、魔女のおばちゃま。ごめんなさい」
ルルリを諫めたのは村外れの林に居を構える獣使いの魔女だった。50年前から変わらぬ姿で獣達にお菓子を与えている姿を見た村人からそう呼ばれるようになったのだった。
「謝る事はない。地面に置いた物は汚い、こっちのを一つあげるからね」
魔女はバスケットから一つお菓子を取り出すとルルリに与えた。
「ありがと」
前に貰ったのと同じ干し葡萄が練り込まれた焼き菓子だった。お礼を言うルルリの頭を撫でると、魔女はお菓子を他にも置いて回ったのだった。
〜〜〜
ある日珍しく魔女が村へやって来た。
「済みませんが、干し葡萄を少し分けては貰えませんか」
村人達の大半は魔女のお菓子を子供の頃に食べた事があるのだ。故に干し葡萄が何に使われるかは一目瞭然だった。
「葡萄は今年は不作なんだ。獣に喰わせる余裕はねえ!」
「そこを何とかお願いのだけれど。このままだと大変な事になるのよ」
魔女も中々引き下がらない。
「いつも、肉を提供してくれるあんたには悪いが、本当に余裕が無いんだよ」
「それならば、早くこの村から出て行く事ね」
魔女はそう言い残すと去って行った。気になったルルリは跡を追う。
魔女の家に着くと、魔女はルルリを見て困った顔をした。
「いいかい、ここらの林には狼やヒョウなどが多い。奴らを干し葡萄の中毒で間引いていたのに、それが出来なくなったの。早めに逃げるのね」
魔女は手荷物を纏めると旅立って行った。
その後、一つの村が獣の被害により無くなった。ルルリ一家はルルリの説得により母方の実家に移り住んでおり無事に暮らして行ったとさ。