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ジビエ料理「潮吹亭」  作者: 白くじら
クロエ・ノーム
18/114

現在⑫ 答え合わせ

「あ~立ち話でもなんだから、ひとまず座れよ。お腹へってないか?煮込みぐらいなら出せるぞ」


 イシュメールの提案に、クロエは「じゃあ」とだけ答えて席についた。何となく緊張感がただようのは、気のせいではない。


「何か飲むか?ワイン好きだっただろう?」

「誰のことですかそれ。私は昔から麦酒派です」


 いきなり減点1。「あ~そうだったな~」などと取り繕っても、後の祭りだ。仕方が無くカチャカチャとカウンターで作業を進める。


「そ、それにしても久しぶりだな。元気だったか?」

「ええ。とても」


 だったら、元気な顔をしろや!!――とも言えないのは、黙って騎士団を辞めた引け目があるから。


「クロエはもう主槍長を任されてるみたいじゃないか。オガに聞いたぞ~」

「4年も立つんです。当然ですよ」

「いやいや、4年で頭角を現すなんてなかなかできないぞ?立派なもんだ」

「新しい隊長に良くしてもらってますから」

「ああ、モリッチが次の隊長になったんだよな。奴なら安心だ。指示も的確だし、何よりミスが少ない」

「そうですね。先日の戦闘でも、適切な部隊配置で魔獣を仕留めてました。人望も厚いし、言う事ありません」

「そうかそうか――」

「それに、指示間違いがないので、隊員達は信頼して動けています。上層部の覚えもいいので、備品の調達も苦労しません」

「何よりだな!」

「イケメンですし」

「そ、そうか。まあ、そうかもな」

「優しいですし」

「おう、それは助かるな」

「紳士です」

「そこは俺も同意する。彼は、獣騎士団における数少ない良心の一つだ」

「………」

「……なんだよ……目が怖いぞ……」

「もともとです」

「まあ、目力は強い方だよな。よく『クロエ光線にやられた』とか、隊員がふざけて――……なかった気がするな。うん、なかった。気のせいだ」


 減点2。

 もう、わざとやっているのではないかという疑いすらある。


「……まあ、いいですけど。もう隊長になにを言われても、関係ありませんから。私の隊長はモリッチさんです」

「はははは、それはそうだ。でも、良かったよ、新しい部隊にもなじんでいるみたいで。ホラ、お前も人間関係得意なタイプじゃなかった気がしてさ」

「今はバッチリですよ。モリッチ隊長ともラブラブです」

「ラブラブなの!?」

「もうそりゃあ、ラブラブのもちもち(?)です。今日も、ベッドで二回戦してきたばかりなんですから!!」

「そ、それは隊規的にどうなんだ!?」

「問題ありません。王国騎士規則に恋愛禁止なんて書いてありませんから」

「そ、それもそうか。まあ、ひとまずはよかったって言っておくけど、上手くやれよ?同じ職場って、難しい事もいろいろあるからな。それも、上司と部下だと余計にな」

「…………」

「……どうした?」

「…………嘘です」

「ん?」

「………いや、モリッチさんとラブラブは嘘です……」

「お、おう。そうか……。で、でも、気持ちは持っていてもいいと思うぞ。節度ある行動さえできれば、それこそお前がいうようにダメと書いてあるルールはないんだし」

「………別に好きじゃありません。っていうか、どちらかというと苦手です」

「お、おう。そ、そうなのか。でも、それも言わない方がいいと思うぞ」

「ええ。ですので、表向きは素っ気ない態度を取ってるだけです。私もそれくらいは成長しました」

「ならよし!ギリギリだけど、よしとしよう。そんでもって、これがウチの煮込みだ。隊の味付けそのまんまだから、きっと口に会うと思うぞ!」


 イシュメールがカウンター越しに出した椀からは、暖かそうな湯気が立っている。クロエは、おずおずとその椀に口を添えた。


「……なつかしいですね」

「ははは、お前はいつも食べてるだろう?」

「いえ、食べてませんよ。最近は、行動食ばっかりです」

「そうなのか……。でも、それも時代なのかもな」

「………あの頃が懐かしいです。みんなが元気で、優しくて……」

「昔の事は良く思えるもんなんだよ。人の脳はそうできてる。だけど、実際は大抵の事が昔より良くなってるもんなんだ。俺は実際に今の騎士団のことを知らないけど、感情に任せないでじっくり観察してみると違う結果になるかもしれんぞ」

「かもしれません……」

「ははは、素直だな」

「私は素直ですよ。でも、いつも素直にさせてくれない人がいるんです」


 ジロリとクロエが再びイシュメールを睨む。

 しかし、今度は人を射すくめる光線など出ていない。むしろ、その目は弱々しく、今にもこぼれ落ちそうだ。


「………戻って来てとはいいません。でも、理由ぐらいは聞かせてください」


 二人だけの店内。

 もう逃げ場はない。



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