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ジビエ料理「潮吹亭」  作者: 白くじら
なつかしい顔
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過去④ 故障

 ここは、潮吹亭の裏庭にある射撃場である。

 

 イシュメールは、あさっての方向に着弾した弾痕を見て、途方に暮れていた。どうやら、照準に若干のゆがみが出ているらしい。

 原因は明らかだった。先日のクロカエカロテス駆除の際、最後の突進を銃で受け止めたからである。あの時、ああしなければ命が危うかったとはいえ、この状況を見ると後悔を禁じ得ない。

 

 魔銃は、数ある武器の中でも、かなり特別な部類に入る武器だ。

 魔導と物理の力を融合するこの武器は、どちらが欠けても正常に作用しない。多少刃こぼれしても魔力でカバーできる刀剣とは違うのだ。


 だから、イシュメールは困ってしまっている。


 狙いがずれるくらいならまだしも、魔導紋が正常に働いていないのは大問題だった。事実、発射された弾丸は、本来の威力からすると7割程度に抑えられてしまっている。これは、魔銃撃ちには十分に致命傷なレベルだ。

 これを解決するには、魔銃を直しつつ、魔導紋を入れ直す必要がある。しかし、それには都にある騎士団本部に頼み込まなければならない。もちろん、タダというわけにはいかないだろう。

 

 正直、都には行きたくなかった。

 心に病を抱え、逃げるように出て来たのだ。今更、どの顔を下げて戻れるというのか。

 

 ――ひとまず、ジモグリさんのところに持っていくか……。


 ダメかもしれないが、わずかな確率を抱いて、イシュメールは射撃場を後にした。

 実をいうと「彼ならば」という期待もある。





 ………………




「こんにちは――」


 イシュメールはジモグリ爺のところに顔を出した。

 ジモグリ爺は、ネッコ村の金物を一手に扱う鍛冶屋()金物屋()修理屋だ。昔は都で働いていたこともあるらしく、びっくりするぐらい手先が器用なので、ことあるごとに皆から頼られている。


 自宅兼店舗の建物は飾り気が皆無で、入口に「万の事」という何とも不親切な看板が出ているだけだ。

 しかし、中に入るとビックリするぐらい物が溢れている。どれもキチンと手が行き届いているが、所狭しと不思議な物が置かれている様は、ちょっと異様である。「清潔でワクワクするようなゴミ箱」というのが、最も適切な表現かもしれない……。


「――おお、イシュメールさんかい。久しぶりだね」


 荷物の影から小さな、気の良さそうな爺さんが出て来た。首にタオルをかけていて、いかにも作業の途中でしたという雰囲気がある。


「すいません、作業中でしたか」

「いや、休憩するところだから丁度良かったさ。どれ、あんさんのところのコンロは上手く起動しとるかね?」

「おかげさまで絶好調です。中古とは思えないくらいですよ」

「あの時代のモンは単純でええ。単純なのは頑丈だし、修理すればずっと使える」


 ジモグリは奇妙な形をしたキセルを加えると、紫煙が周囲を覆った。


「――そいで、今日はどうなすった。この前、すんごい魔獣を駆除してくれたようだし、修理するにしてもうんとまけてやるぞ」

「ありがとうございます。じつを言うと、今日相談に来たのはその魔獣とやりあった時の件でして……」


 イシュメールは持って来た魔銃をテーブルに置いた。


「こりゃあ、あんさんの魔銃じゃないかい」

「魔獣の突進を受けた際、コイツで防御してしまったんです。撃ってみると、照準がズレているのと、威力が落ちているようで……」

「う~ん、魔銃か……」


 ちょっと、見させてもらうよ――と言って、ジモグリは魔銃をいじくりまわす。意外にも、その所作が堂に入っていて、イシュメールは驚いた。


「たしかに歪みが出とる。でも、銃身じゃあなくて、照星の方だわ。だもんで、威力が落ちているのは魔導紋の方だろうね」

「直りますか?」

「照星はすぐにでも直せる。だけんど、魔導紋の欠損は専門家じゃないと無理だな……」

「そうですか……」


 思ったよりも状況は悪くなかったらしい。しかし、魔導紋の加工は特殊技術がいる。いずれにしても、都入りは確定事項になりそうだった。


「……ちゅうなら、ちょっと今からモンドのところ行こうかい」

「はい?」

「魔導紋をなんとかせんといかんのだろう?」

「ええ、そうですけど……」

「そんなら、モンドの兄ちゃんに頼まにゃ直らんよ。奴さん、今の時期は祭りの準備じゃなんかで忙しいかもしれんが、村の恩人のためならイヤとはいわんさ」

「え~っと、モンドさんて、あのモンドさんですよね?」


 モンドは、代々ネッコ村で神事を取り仕切っている家系の長男だ。

 ただ、モンドが簡単なお守りなんかを魔導紋を使って作ることは知っていたが、こんな複雑な魔導紋を加工できるとは思えなかった。


「モンドのヤツは、帝都大学で魔導紋の研究をしとったんよ。オヤジさん言われてしぶしぶ戻って来てはいるが、今でもコソコソ研究しては、成果を大学へ送っとる」

「帝都大学……」


 言わずと知れた王国最高学府である。


「今でこそ、あんな芋みたいな顔をしちょるが、若い頃は秀才で通っていたんよ。ウチの娘も、ヤツが来るとキャーキャー言っとたわ」

「二重の意味で、びっくりです」

「だから、心配しなさんなって。魔導紋がまるまる()()なったらダメだったかもしれんが、これくらいの欠損ならなんとかなるだろうさ。逆に、なんともならんかったら、ヤツのケツを引っの叩いてくれる」


 そういうと、ジモグリはイシュメールの銃を片手に立ち上がった。あっけにとられたイシュメールは反応が遅れてしまい、慌てて彼の後を追った。




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