独白
十年前。
父とアカネさんを含む村の精鋭血統種達は、仕事で二区へと赴いていた。
戦闘能力の無いアカネさんが、戦地に行く事なんて今まで無かったのに。
実子のクオンだけじゃなく、彼女を母のように慕っていた俺や他の弟妹達は心配でたまらず……長男の俺が引率する形で、こっそりと二区へ向かったのだ。
戦地は想像していたよりもずっと、危険な場所で。
俺は弟妹達を廃墟となった家屋に残し、一人で村の皆を探しに行った。
そして――そこら中に死体が転がっている戦の最前線で、既に息絶えたアカネさんを発見したのだ。
俺が彼女の体を抱え、泣き叫んでいると。どこからか、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「キ……サ……」
声の主は、瀕死の父だった。
父は血を吐きながら、地べたを這い、俺の方へ寄って来て。
「だいじょ……安心、しなさい。アカネの、命は……」
そう語りかけてきたかすれ声を聞いた瞬間、俺の脳裏によぎったのは、ある日の父の言葉。
『大切なお前に贈り物がある。本当は私が手に入れる契約だったが……変更した。お前に、二つ目の命をやるぞ。何かあっても、アカネの命を使って生き返らせてやるから安心しろ』
アカネさんは両手を広げた状態で仰向けに倒れていた。
他の大人達も父を取り囲むように、同じ体勢で息絶えていた。
きっと、父を守って死んだのだ。
いや、守らされて、死んだのだ。
大切な弟を羽虫のように傷つけられたあの日以来――抱き続けて来た父への憎しみが、爆発した。
「ふざけるな……アカネさんの命なんて、いらない……っ! どうしてあんたは俺の大切な人達を……そんなにも、ぞんざいに扱うんだ!!」
こんな男、死ねばいい。
いや、俺の手で確実に殺さなければ。
こいつが死ねば、俺の蘇生は成功しない。
アカネさんの命を、こいつの好きにさせる事は許さない。
けれど……楽に死なせてなんか、やるものか。
「……それで……お前は何したんだ」
珍しく、動揺した様子で俺の腕をつかむクオン。
「傍に……捕虜なのか、拘束されたままの遺体が横たわってて。その腕に巻き付いてた鎖をあいつの首につけた」
昔、あいつがクオンにしたのと同じように。
「それから兵士達の隠れ家らしき小屋まで……引きずって行って……置き去りにした。逃げられないよう、鉄格子に……繋いで」
その時クオンから返って来たのは、息を呑む音だけ。
「敵兵に見つかって、酷い殺され方をすればいいと……思っ」
けれど、次の瞬間に飛んで来たのは、固く固い拳だった。