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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
9/222

独白

 十年前。

 父とアカネさんを含む村の精鋭血統種達は、仕事で二区へと赴いていた。


 戦闘能力の無いアカネさんが、戦地に行く事なんて今まで無かったのに。


 実子のクオンだけじゃなく、彼女を母のように慕っていた俺や他の弟妹達は心配でたまらず……長男の俺が引率する形で、こっそりと二区へ向かったのだ。


 戦地は想像していたよりもずっと、危険な場所で。

 俺は弟妹達を廃墟となった家屋に残し、一人で村の皆を探しに行った。


 そして――そこら中に死体が転がっている戦の最前線で、既に息絶えたアカネさんを発見したのだ。


 俺が彼女の体を抱え、泣き叫んでいると。どこからか、消え入りそうな声が聞こえてきた。



 「キ……サ……」


 声の主は、瀕死の父だった。


 父は血を吐きながら、地べたを這い、俺の方へ寄って来て。



 「だいじょ……安心、しなさい。アカネの、命は……」


 そう語りかけてきたかすれ声を聞いた瞬間、俺の脳裏によぎったのは、ある日の父の言葉。



 『大切なお前に贈り物がある。本当は私が手に入れる契約だったが……変更した。お前に、二つ目の命をやるぞ。何かあっても、アカネの命を使って生き返らせてやるから安心しろ』



 アカネさんは両手を広げた状態で仰向けに倒れていた。

 他の大人達も父を取り囲むように、同じ体勢で息絶えていた。


 きっと、父を守って死んだのだ。

 いや、守らされて、死んだのだ。


 大切な弟を羽虫のように傷つけられたあの日以来――抱き続けて来た父への憎しみが、爆発した。


 

 「ふざけるな……アカネさんの命なんて、いらない……っ! どうしてあんたは俺の大切な人達を……そんなにも、ぞんざいに扱うんだ!!」


 こんな男、死ねばいい。

 いや、俺の手で確実に殺さなければ。


 こいつが死ねば、俺の蘇生は成功しない。

 アカネさんの命を、こいつの好きにさせる事は許さない。


 けれど……楽に死なせてなんか、やるものか。




 「……それで……お前は何したんだ」


 珍しく、動揺した様子で俺の腕をつかむクオン。


 「傍に……捕虜なのか、拘束されたままの遺体が横たわってて。その腕に巻き付いてた鎖をあいつの首につけた」


 昔、あいつがクオンにしたのと同じように。


 「それから兵士達の隠れ家らしき小屋まで……引きずって行って……置き去りにした。逃げられないよう、鉄格子に……繋いで」


 その時クオンから返って来たのは、息を呑む音だけ。


 「敵兵に見つかって、酷い殺され方をすればいいと……思っ」


 けれど、次の瞬間に飛んで来たのは、固く固い拳だった。

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