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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
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キサカイヒメ・ウムカイヒメ

 「俺の母親は、キサカイヒメの血統種だった」


 長話になるであろう、復活経緯説明の冒頭。

 しょっぱなから総司令と各小隊長達の瞳は、驚きに見開かれた。


 「キサカイヒメって……一区神話の神だよな? ウムカイヒメと協力して、オオクニヌシノカミを蘇生したっていう……」


 「さすがデニスさん、よくご存知で」


 すかさず、デニスに笑顔をむけるキサラギ。

 斜めに傾きかけていた元上官の機嫌を取ろうとしているのだろうか。


 「僕も知っていますとも! 死者蘇生の能力を持つ血統種は、いつの時代も需要が多いですから! 対天罰軍だって、フォルトゥナ程では無いけれどずっと捜索を続けて来ましたよね?」


 「でも医療隊隊長であるクレアでさえ……名医アスクレピオスの優秀な血統種である彼女でさえ、死人を蘇らせる事は出来ない。もう現存していないのかもって、調査隊がぼやいていたのを聞いた事があるわ」


 デニスに続いてウイリアムやサラも。

 話が早くて助かる。

 メジャーな神では無いから、『なにそれ』と尋ねられても仕方無いとはいえ。

 ここで首を傾げられたら、貴重な覚醒時間を浪費する所だったから。


 「母も単独では死者蘇生なんていう大それた真似は出来なかった。ウムカイヒメの血統種と協力する事で初めて、力を発揮できたんだ。しかも失われた命を取り戻す……というわけでは無く、自分の命を譲り渡すという形でな」


 「それって……じゃあ今回クオンちゃんが生き返ったのは……つまり?」


 簡潔な解説を急かす、総司令の言葉。その場にいる全員の視線が俺に集まる。


 「母はアルマンの暴走で死んだと思っていたが……俺に万一があった場合、自分の命を使って蘇生できるようにウムカイヒメと手筈を整えていたんだろう。恐らく、あの爆発の寸前に。そう考えれば筋は通る」


 「まだ生きてる人間を、将来蘇生させる能力……! なんだかすごいですね!」


 「そう、すごいんです。だから俺達は今まで話さなかった。そんな特異能力を持つ血統種が一区にいると知られたら……軍も神族も、他のよからぬ輩も、放ってはおかないでしょう? たとえ、本人達の命が犠牲になると知っていたとしても」


 瞳を輝かせて食いついてきたウイリアムに、落ち着いた口調で説明するキサラギ。


 「ふ~ん……だから復活後すぐに事のあらましを報告しなかったわけ。婚約者が失踪したショックで呆けてたわけじゃなく。でも、軍に籍を置く者として軍の利益に反する行動は慎んでほしいわねえ?」


 「軍に籍を置く者とはいえ、故郷の血統種を守る権利はある」


 おっさんはいつも通りニヤニヤしているが、目は笑っていない。

 そんな事気にもしていないと言わんばかりに、俺は奴を睨み返した。


 重苦しい沈黙が横たわる事十数秒。

 おっさんは軽く息をついて、にっこりと笑った。


 「……まあいいわ、とりあえず今はスルーしたげる。で? クオンちゃんがママともう一人の血統種の力で生き返ったのだとして……ねむねむ体質を元に戻す方法を、どうして二人のパパりんが知ってるわけ?」


 「父は俺の母親であるキサカイヒメに、自分を蘇らせるつもりだった。族長である自分に、誰よりもその価値があると思っていたようだから……そういう契約で、母を側室に迎えたんだ」


 「……中々の野郎だな、お前らの父ちゃんは」


 「遠慮なくクズだって言って下さい、リチャード隊長」


 腕組みをしながら苦笑いするリチャードに、キサラギが冷ややかに言う。


 「だが母の命は父では無く俺の為に使われた。ここで疑問なのが、どうしてそれが可能だったのか、だ」


 「どうして? ウムカイヒメの血統種が母親に協力したからだろ?」


 「その、ウムカイヒメの血統種が……俺達の父なんです」


 『は?』と。切れ者揃いである筈の軍幹部達の脳天に、クエスチョンマークが浮かぶ。


 「ちょっと待って待って? 整理していい? トキミヤ君とキサラギ君のパパはウムカイヒメの血統種で。キサカイヒメの血統種であるトキミヤ君のママに、自分を生き返らせる契約をしてて。でも生き返ったのはトキミヤ君で? しかもそれをサポートしたのはパパ自身……て事?」


 でかい釣り目を何度となく瞬かせるサラ。


 「まあ、そこはアレじゃねぇか。親父さんはその……元々はクソ野郎だったかもしれねぇが、お袋さんに頼まれた事もあって、トキミヤに譲る事にしたんじゃねぇか? 結局は我が子を優先する。親なんてそんなもんだぜ? 疑問でも何でもねぇ」


 勝手に良い話を作り上げようとする、バツイチ子持ちのリチャード。

 

 だが、二人とも『疑問』の内容をはき違えている。


 「誤解があるようなんですが……俺達が疑問に思っているのは、今回蘇生が成功した点なんです。キサカイヒメとウムカイヒメの蘇生術は、二人とも死亡した後には発動しません。どちらか一方が命を差し出し、どちらか一方が術の発動させて初めて、蘇生が成功するんです」


 「俺達はずっと、十年前に二人とも死んだと思っていた。だが、俺が生き返ったという事は……父はまだ生きているという事だろう」


 「ウムカイヒメの血統種であるパパりんならば……復活した後の体質の変化についても詳しい筈……と?」


 総司令はでかい机に肘をつき、祈りを捧げるように手指を組んだ。

 その瞳は、獲物を狙う鷹のように鈍い光を放っている。


 「可能性は高い。それに……あの男の事だから現存するキサカイヒメ、ウムカイヒメの血統種の情報も持ってるかもしれない。おっさんが興味あんのはそこだろ」


 言いながら、視線を部屋の隅にある本棚へと移す。

 

 軍発足の時から総司令官室に飾られている、小さな絵。

 幸せそうに微笑む女が、そこには描かれている。


 「……うん! オッケー! 話はわかったわ! すぐにパパリンの捜索始めましょ! てゆーか、こんな話を振ってきたからには……居場所に心当たり位あるのよね?」


 無いなんて言わせない。

 そう圧力をかけてくるおっさんに、俺ははっきりと答えた。


 「あるわけねぇだろ」

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