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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
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今更

 「というわけで。対天罰軍最強の男……の本調子を取り戻す事は、神族と戦う上でも、天罰阻止の要となるフォルトゥナを捜索する上でも、必要不可欠な急務であると考えます。ですからマリアちゃん捜索と同時に、父の捜索にも兵力を投じて下さいますようお願いしたく、総司令と対天罰部隊小隊長方にお集り頂きました」


 「ちょっと……素朴な疑問いい?」


 光沢さえ放っているように見える艶やかな手を、スッと挙げる昼前小隊長・サラさん。


 「サラさん、なんでしょう」


 「全てにおいて理由がわからな過ぎて、話についていけないのあたしだけ?」


 悩まし気に首を傾げるサラさんに、デニスさんが『全くもって同感だ』と賛同する。


 「まず、なんでトキミヤは生き返れたんだ? そしてなんでお前の父親が元の体に戻る方法を知っているんだ?というか、父親は世界初の天罰……いやシャレット弟の暴走で、死んだって言ってなかったか?」


 眉間に皺を寄せるデニスさんの顔は、怖い。

 本人に悪気が無い事は、彼の下で働いていた俺には理解できるけれど。

 

 左目には紅い眼帯、アッシュグレーの眉は鋭く吊り上がっているし、軍指定の黒シャツがピッチピチになる程にたくましい腕は胸の前で組まれていて、威圧感満々。

 この感じが、彼の通常営業なのだと知らない人がこの場にいたら、何も悪い事をしていなくても思わず謝ってしまうのではなかろうか。


 もっとも、デニスさんと長い付き合いにも関わらず、それを理解していない人間もいるのだけれど。


 「デニスさん! そんな……答えなきゃ殺すぞ! みたいな顔で迫ったらキサラギさんが萎縮してしまいますよ! キサラギさん、リラックスして頂いて大丈夫ですよ! この方は顔は怖いですが本当は不器用で優しい、ただのおじさんですから!」


 「あ……ありがとうございます、ウイリアム隊長。しかし、お言葉ですが私はデニス隊長の元部下ですから。ご心配頂かずともそういった事は理解してい」


 「いやだなあ! 敬語はやめて下さいっていつも言ってるじゃないですか! いくら僕が小隊長でキサラギさんが副隊長でも、人生の先輩であるキサラギさんに敬語を使って頂くのは申し訳ないです! 僕は、その、あ、あの美しいレナさんと同じく、まだ十八歳なんですからぁ!」


 勝手に照れて、勝手に赤面して、高らかに笑い声をあげる、朝方隊長ウイリアム・キャロル。


 サラサラの金髪を流した斜め前髪。白い肌、白い歯。黒シャツの上に着ている青い軍服は、きっちりと首までボタンがとめられていて。腰には柄に太陽の飾りが施された紅い剣を携えている。


 まるで絵本から抜け出した王子様だと表したくなる程、爽やかな青年なのだけど……相変わらず、ちょっとずれている。


 「おいおい、ウィル坊! その人生の先輩とやらの話の腰を折っちゃあいけねえぜ! キサラギ、俺もサラやデニスと同じく、イマイチよくわかってねえんだ。まずトキミヤがなんで生き返ったのか。簡単に説明してくれねえか?」


 興奮気味な後輩を笑顔で諫めたのはリチャード・ミラー未明隊長。

 軍でも一、二を争う程の大柄な男性で、全身を筋肉で武装している屈強な軍人だけれど……人を恐縮させる事がないのは、その豪快で寛容そうな笑顔故だろう。


 ウイリアム隊長と、リチャード隊長。

 俺やクオン、そして他の対天罰部隊小隊長達と同じく、軍の発足を支えた血統種。


 年齢も性格も境遇も。まるで違う二人だが、いつだって彼らは友好的だった。


 ちょっとずれた事を言うウイリアム隊長に、リチャード隊長がつっこみを入れ。

 リチャード隊長の大胆さに苦言を呈する同僚達に、ウイリアム隊長がフォローを入れる。

 

 デニスさん、サラさん、クレアの仲良し同期トリオのような、気の置ける友人同士……とは違うのだろうけれど。何と言うか良いコンビで。


 でも……地下牢で彼らと対峙してからは、微笑ましい気持ちで二人を見る事が出来ない――。



 「話を本筋に戻して頂きありがとうございます。リチャード隊長。では……」


 「復活した経緯は俺から説明する。知っての通り、今日はあと二時間程度しか起きていられねえから。ガタガタ言わず、スムーズに理解してくれ」


 少々苛立った様子で、隣から口を挟むクオン。


 「っち……お前よりもキサラギの方が、よっぽとわかりやすく説明できそうだけどな」


 それに対し、遠慮無く苛立ち返すデニスさん。


 ああ。クオンに残された時間が短いからこそ、波風立てずに話を進めたかったのに。


 副隊長の苦労、隊長知らず。な上官に、俺がこっそりとため息をついた時、ようやく総司令官が口を開いた。


 「てゆーか、普通そういう大事な事って復活してすぐに報告しない? 今更なんなの感が否めないの、あたしだけ?」


 これにはさすがのクオンも、一瞬返答に困っているように見えて。

 少しだけ胸がスカッとした事は、秘密にしておいた。

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