解決方法
「ちょっと……やっちまったってつまり……もっと遊びたかったのに責任取って結婚しなきゃとか、人生終わったわー!って事?」
そうじゃないと分かっているくせに。
わざとらしく侮蔑的な表情を浮かべ、頭の軽い男風な口調でありえない憶測をする。そんな実兄をジロリと睨みつけた。
「妊娠出産は女の人生を大きく変える。血統を隠して弟との静かな暮らしを望んでいるあいつを……不幸にする事になるかもしれない。そう思うと……慎重さを欠いた行為だったと」
「うん、うん。そっか」
「……でも」
「でも?」
俺に背を向けるように座っているキサラギが、首だけで振り返り、俺の顔を覗き込む。
「でも、泣いた。十四基地からの帰り道。アジノリに乗りながら。一人でずっと泣いた」
あの感情を何と言えばいいのか。未だにわからない。
ただ、とめどなく溢れる涙はとても温かくて。
「あの時、決めたんだ。マリアを本部に連れて来ようと。強引な手を使って、あいつを怒らせて、苦しめても。まずは俺が確実に守れる場所にいて欲しくて」
「ちゃんと説明すればよかったのに。マリアちゃんに、妊娠の事。そしたら色々とスムーズだったんじゃない?」
眉尻を下げて、微笑むキサラギ。
「自然流産の確率は意外と高いらしいから、もし本人が気づかないうちにそうなったら、悲しませないで済むだろう。それに産む事を望まないかもしれない。だから」
「どう転んでも、傍でフォロー出来る環境にしておきたかったって事か」
「あいつからしたら、何も知らされず勝手な事されて、大迷惑だったろうけどな」
自嘲気味に、ふっと息をつく。
異動命令を伝えた時の、かなり怒っている様子のマリアの顔を想い出しながら。
「辛いね、クオン。そこまで考えてあげられる程大切な人を、探しにすら行けないのは」
キサラギは『お前の方が余程辛そうだ』と、突っ込みたくなるような顔で、じっと俺を見つめた。
「そうだな。お察し頂けて有難い限りだ。ついでにこの苦しみから解放される方法を見つけてくれたら、床に額をこすりつけて礼を言いたい所だが」
そんな方法は無いとわかっているのに、こうして嫌味を言うあたり。やはり俺は相当ストレスが溜まっているのだろう。
でもだからと言って、俺の為を想って昼寝を進めてくれた兄に当たるのは違うと、わかってはいるのだが。
「ああ、人格者である我が弟が八つ当たりだなんて……相当メンタルやられてるんだね。可哀想に」
「……悪い。大人げない事を言った。どうにもならないとわかってはいるんだ。ボードは時間が経てば元の体に戻るかもと言ってはいたが……前例がないから確かな事はわからないらしい。マリアも軍も大変なのに、こんな毎日があとどれだけ続くのかと考えるとどうしても――」
「大丈夫。額を床にこすりつけたりしなくても……解決方法、見つかるから」
頭を抱えていた両手から、ふっと力が抜ける。
そうさせたのは、たった今キサラギが寄越した言葉。
それがちらつかせた希望。
「見つかる……のか? 元の体に戻る方法が!?」
「聞けばいいんだよ。俺達の……父親に」