父親
アレクシス・ゲイラー総司令官。
アルマンと同じゼウスの血統種であり、対天罰軍のトップであり、神族の派閥トップでもある。
ざっと思いつくパーソナルデータを並べただけでも、一筋縄ではいかない、厄介な人物だという事がわかる。
「こんばんは。皆久しぶりね? こんなに夜更かししちゃって……そろいもそろって悪い子ちゃん」
ウインクを飛ばす総司令に、警戒モードの私達。
「何の用だ。こんな時間に」
「そう怖い顔しないでちょうだいクオンちゃん。こんな時間でもないと、本部の上役達の目を盗んでお出掛け……なんて出来なかったのよ」
「俺らは何の用だって聞いてんの! 質問に答えろよ」
「ちょ、アルマン……っ」
総司令に対してクオンさんが敬語じゃないのは、長年のお付き合いだとか、立場を考えると理解できるとして。アルマンのこの態度はいただけない。
師弟関係だったり、神族内での繋がりがあるのかもしれないけど……それにしたって、自分より立場も年齢もずっと上の人に対しては、ふさわしい口のきき方があるんだから。
「いーのいーのマリアちゃん。この子は万年反抗期だから。気に入らないのよね、私みたいなのが、父親だって事が」
「いえ、そうはいきません。私は姉として、弟の年長者への不適切な態度を咎める義務が」
……………………ん?
すんなりと受け答えした後で、ハッとした。
「あの……今、何て……?」
「私がアルマンの父親だって言ったの。あ、知ってるだろうけどマリアちゃんの父親は別にいるからね。でも、マリアちゃんとも少しの間一緒に暮らしてたのよ? 覚えてない?」
改めて聞かされても『あ、そうなんですか』と受け入れる事が出来ない。
父親? 対天罰軍総司令官が? アルマンの? 私と一緒に暮らしてた? なにそれ?
「おい! なに勝手にバラしてるんだよ! 姉ちゃんに嫌な記憶を思い出させるな!」
「でも、クオンちゃん達にテレジアの事を気付かれた以上、バラしちゃった方が話が早いじゃない」
「はぁ? 母さんの事を気付かれたってどういう……」
「あ、あの、ちょっと私混乱してて、うまく整理できないんですが……」
「おっさん、一から説明しろ」
戸惑う私の横から、命令口調でそう言うクオンさん。
総司令は怒りもせず、『まぁ、待ちなさいよ』といって、部屋の隅に置いてあったロッキングチェアに腰かけた。
「私達家族のメモリーを解説するのもいいけど、まずはクオンちゃんとジュノの憶測、合ってるよ~って話について説明した方がいいと思うの。あなた達が言う特異な存在ってのは、ウイリアムの事でしょう? そしてあなた達は、彼と同じ特異性がマリアちゃんにもある事に、今気づいた。そしてある仮説を立てた。つまり……マリアちゃんにもウイリアムと同じ、不老不死の血統種の血が流れているのだと」
「え? 私に、不老不死の血……!?」
「ああ……。マリアの母親は、ウイリアムの知人である不老不死の血統種であり……俺の母親に遺伝病を治すヒントを与えようとした人物。俺は、そう推測した」
「ちょちょちょっと待って下さい! 話が飛躍しすぎて……というか、遺伝病を治すヒントってなんですか!? そんなのが見つかったんですか!?」
クオンさんに未知の情報を追加され、混乱に拍車がかかる。
けれどそんな私に構う事なく、総司令は話を続けて――
「そう……その通り。テレジアはウイリアムと同じ不老不死の血統種であり……マリアちゃんの母親であり、私の妻。全ては……不死のテレジアが死んだ時から、狂い始めたのよ」




