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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
215/222

三ヶ月前

 三ヶ月前――クオンさんと私は軍を出た。


 その決断に、終日の皆は驚いていたけれど……無理に止めたりはしなかった。

 クオンさんが、病気の事を打ち明けたから。


 大切な終日隊長に、一番幸せな道を進んで欲しいと……皆、快く送り出してくれたのだ。


 軍に残ったデニスさんとサラさんはキサラギさんやレナさん……部下の皆さんと話し合って、神族と共存して行く道を選んだらしい。

 

 あの日――ダイヤ・シティで血統種の子供達が処刑されるのを目の当たりにして。

 『とにかく今は、世界大戦再開を防止するのが最優先だと判断したのだろうな』と、クオンさんが言っていた。


 それに、真剣に神族と対峙していた頃と比べ、茶番で天罰を阻止するフリをするとなれば、時間的にも心身的にもゆとりが生まれる。

 そうすれば、クオンさんの病気の治療方法を探す事も出来るから。と……言っていたのはキサラギさん。


 皆、まだ諦めてない。

 ルーク君も手紙で知らせてくれたように、今この瞬間も世界中を回って、調べてくれているんだ。


 本当にありがたくてありがたくて……涙が出る。



 「それにしても……まだ三ヶ月しか経ってないんだね。もう何年もここに住んでる気がするけど」


 よく冷えたレモンティーを飲み干し、アルマンが言う。


 「ここの暮らしは穏やかで……時間がゆったり流れている感じがしますものね」


 それに穏やかな笑顔で応じるロザリーさんと


 「中央区の端っこに、こんなに過ごしやすい場所があったなんてね。最近は流石に暑くなってきて、しんどいけど。マリアは? 暑さでやられてない?」


 私を気遣ってくれるジュノ。


 「大丈夫。ジュノやロザリーさんが買い出しをしてくれているお陰で。もうお腹も随分膨らんで来たし、馬でしょっちゅう出掛けるのはしんどくて。本当に助かってます。ねえ、クオンさん?」


 「ああ。この借りは必ず返す」


 普通にありがとうと伝えればいいのに。

 堅苦しい事を言うクオンさんに、少し笑ってしまう。


 すると同じ事を思ったのか、ロザリーさんとジュノもクスクスと笑い出して。


 「借りだなんて。少しでもお役に立てているなら幸いです」


 「そうそう。その為についてきたんだからさ」


 「……そう言って貰えると、ありがたいです」


 だけど。


 軍と神族にとって重要なポジションにいるであろう二人が、本部から何時間も離れたこの土地に移り住むなんて。

 ウイリアムさんや総司令だって、良い顔はしなかった筈。二人とも、その苦労を決して口に出しはしないけれど。


 「大丈夫だよ、マリア。ウイリアムさんは、俺やロザリーがここに来るの、反対なんかしなかったから」


 「え?」


 まるで私の思考を透かし見たかのような、ジュノの言葉。思わず目を丸くしてしまう。


 「わかるよ。俺達の事、心配してくれたんでしょ? でも気にする必要ないよ。トキミヤ隊長は自分とマリアの幸せを最優先に動き、軍と神族とは休戦して茶番を共に演じてる。どっちも、とりあえずはウイリアムさんの望む通りに事は運んでるんだから。俺達を手元に置けなくても、文句言ったりしてないよ」


 「そう……なの? 二人に悪い影響が出てないなら何よりだけど……」


 探りを入れるように、ジュノの顔を覗き込む。

 私を気遣って嘘をついてくれてる……わけではないかな? なんて不安はぬぐい切れなくて。


 「ジュノはともかく、ロザリーは引き止められなかったのか? 腹心の部下というか……公私ともに不可欠なパートナーだろうに」


 「“公”に関しては、今は神族と軍とが共存関係にあるわけですし、副隊長の仕事は少ないと思いますよ。それに“私”では……イヴレフ副隊長との関係にヒビをいれない為にも、前妻は近くにいない方が良いでしょうし」


 大切な仲間の名前が出て来て……反射的にその顔を思い浮かべてしまう。


 「あの……レナさんはウイリアムさんとうまくいってるんでしょうか?」


 「俺らが知るわけないじゃん。姉ちゃんと同じで、本部を出てからずっとここで暮らしてるんだから」


 何やら不機嫌そうに答えるアルマン。別にアルマンに尋ねたわけじゃないんだけど。


 「マリアさん、残念ですが、イヴレフ副隊長との事は私も詳しくは聞かされていないんです。けれど……無沙汰は無事の便りといいますか。副隊長との関係が終わってしまったら、ウイリアム隊長としては色々と計画が狂って心穏やかでいられず、私に何かしら訴えてくると思いますので」


 「計画……やっぱりウイリアムさんは、純粋にレナさんを想ってるわけでは……無いんですね……」


 ロザリーさんは私を安心させようとしてくれているのに。

 

 言葉の中の、負の部分に気を取られてしまう私は、三ヶ月前のレナさんとの会話を想い出していた。

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