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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
214/222

買い物

 『こんにちは。


 そちらはお変わりありませんか? マリアさん、クオン隊長やお腹の赤ちゃん……ついでと言っては何ですが、アルマンさんやジュノさんはお元気でいらっしゃいますでしょうか。


 こっちは皆相変わらず。元気でやっています。


 天罰と……神族と共存する道を選んで三か月。

 天罰とそれを阻止する為の茶番的任務は、月に数回。


 初めは抵抗がありましたが……僕だって、見ず知らずの人達よりも、今はクオン隊長を助けたい。

 僕や終日の皆……それに、レナさん、サラさん、デニス隊長も、クオン隊長の病気を治す方法を必死になって探しています。


 その為の時間をもてるようにと、共存に賛成したというのもありますし。


 まだ良い報告が出来ていないのが心苦しいですが……

 でもきっと見つけてみせます。

 治療方法を探していれば、もしかしたらクレア先生を治せる能力者にも出会えるかもしれません。


 死者を蘇生できる血統種だっていたんです。

 きっと僕らが知らないだけで、この世に不可能なんてないのでしょう。


 だからお二人も諦めずに、僕らを信じて待っていて下さい。


 お体に気をつけて。

 またお手紙を書きます。それでは。


 追伸


 毎度のご忠告で恐縮ですが……ル・テリエ副隊長にはくれぐれも気を付けて下さい。

 詳しくはお話し出来ないのですが、彼女は危険です。


 副隊長にはアルマンさんとジュノさんが、マリアさんにはクオン隊長がついていますし。心配のしすぎかもしれませんが。                                                                                            ルークより』


 

 とても十歳の子が書いたとは思えない、しっかりとした文章。


 でも文字は……大小まばらだったり、形が不整だったり。

 子供らしく汚い、と言ったら失礼かもしれないけれど。そこがとても可愛らしく、愛おしい。

 

 ルーク君はいつも忙しい合間を縫って、手紙をしたためてくれているのだろう。私とクオンさんを想って。

 そう考えるだけで、何度読んでも心が温まる。


 けれど……どうしてルーク君がロザリーさんをそこまで警戒しているのか……。

 そこがわからないのだけれど。何度読んでも。


 「っと……紅茶、紅茶」


 つい首を傾げて考え込んでしまって、ハッとする。


 あんまり時間を置きすぎると、ぬるくなってしまう。

 季節的にはアイスティーにしても美味しいかもしれないけれど。あいにく、うちには氷がない。

 

 すっかり広がり切った茶葉を濾していると、玄関側のドアをノックする音が聞こえて。


 「あっつぅ~! 姉ちゃん、何か飲み物ちょうだい!」


 汗だくで家の中に入って来たのはアルマンだった。


 「こんにちは~、マリア。今日は暑いね~」


 「お邪魔しますね、マリアさん。今日は東の町で朝市があったので……新鮮な食材がたくさん手に入りましたよ」

 

 そしてアルマンの後に、ジュノとロザリーさんが続いて。


 「こんにちは! いつもありがとうございます!」

 

 お礼を言いつつ、ジュノとロザリーさんが抱えていた大きな紙袋を受け取ろうとしたけれど……二人は『重いから』と言って、そのままダイニングテーブルの上に運んでくれた。


 「ちょっとアルマン。どうしてあんた一人だけ手ぶらなのよ。ジュノとロザリーさんにばかり重い荷物持たせて」


 誰よりも早く椅子に座り、手の平をパタパタと動かして涼んでいる弟を、にらみつける。


 「この炎天下の中、馬で買い出しに行ってあげただけ、ありがたいと思ってよ」


 「そんなの、二人だっめ同じでしょう?」


 「大丈夫ですよ、マリアさん。お買い物の後そのまま寄りましたので。私達が荷物を運んだのは、馬をとめた玄関前からここまで。の、ごく短距離ですから」


 「別に長距離でも俺とロザリーなら、馬ごと抱えて歩けるけどね。アルマンとは格も鍛え方も違うし」


 ジュノにチクリと嫌味を言われたアルマンは、ばつが悪そうにそっぽを向いて。


 「それより姉ちゃん、この匂い……紅茶淹れてたんでしょ? 氷も買ってきたからさ、アイスティーにして飲ませてよ」


 「はいはい」


 まったく、この甘ったれ弟は。

 なんてため息を吐きながらも……実は、少し嬉しかった。

 

 私はアルマンの母親代わり。あれこれ世話を焼くのは決して嫌じゃない。

 本部にいた頃は、こんな時間を持てずにいたから。


 「でもちょっと待って、クオンさんと二人分しか淹れてなかったから、今追加でお湯を…………ロザリーさん達もよかったら飲んでください」


 「いいよ、俺がやるからマリアは座ってて。この前、淹れ方教えてもらったし」


 「それでは、レモンティーにするのはいかがでしょう? ちょうど、今朝採りのレモンを買ってきた所ですし。マリアさん、キッチンをお借りしても?」


 空になったティーポットに水を足そうとする私の手をとるジュノと、紙袋の中から瑞々しいレモンを取り出すロザリーさん。


 「そんなそんな、私がやりますから座っていてください! お買い物から帰ったばかりでお疲れでしょう?」


 「マリアさん、さっきジュノが言った事は冗談ではないんですよ。私達とマリアさんやアルマンさんの体力には、アリと軍艦位の差があると思います。ですからどうか、お気遣い無く」


 アリと、軍艦。


 なんだかすごい例え話にたじろいでいると、ジュノがクスクスと笑いだした。


 「ここは俺とロザリーに任せてさ。マリアはトキミヤ隊長を呼んで来てよ。出かけてるわけじゃないでしょ?」


 「うん、裏で洗濯物干してくれてるの。声掛けてくるね」


 「対天罰部隊最強の男に洗濯物干させるって……姉ちゃんもたいがいだよね」


 ニヤニヤしながら、私の方へ視線を流すアルマンを睨みつけてから、私は再び裏庭へ出た。

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