表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々は天罰を下す  作者: 杏みん
212/222

それぞれの道(クオン)

 「クオン、入るよ?」


 ノックをして、部屋に入ってきたのは……キサラギ、レナ、ジル、ルーク。チーム終日の面々。

 いや……正確に言うと、レナはもう昼前の副隊長だったか。


 「お疲れ様でした、クオン隊長! あの……マリアは?」


 「デニス隊長から、マリアさんが体調崩したとうかがったのですが!」


 「大丈夫なんすか!?」


 心配そうな顔で、駆け寄って来るレナとルーク、そしてジル。


 三人の視線は、ソファに腰かける俺……では無く、隣に座るマリアに集中している。


 「耳が早いな」


 俺達が本部に戻ってきたのはほんの十数分前だというのに。

 ついでに言うなら、俺とマリアが終日の作戦会議室に来て、五分もたっていない気がするのに。


 「この三人は色々あって医務室にずっといたんだって。そこに帰還したデニスさんが、エミリオの様子を見に来て……ダイヤ・シティでの出来事を話してくれた。……大変だったみたいだね」


 三人の後ろからゆっくりと歩いてきたキサラギの解説を聞いて、納得した。


 「そうか」


 「心配かけてごめんなさい。私は大丈夫です。赤ちゃんも無事です」


 マリアの回答に、わかりやすくホッとした表情を浮かべるトリオ。


 その顔を見て、気持ちが安らぐのがわかった。

 それはマリアも同じだったようで、思わず互いの顔を見合わせてしまう。


 「今日は本当に……朝からゴタゴタ続きだったな」


 「本当にね。どうして一日足らずでこうも色々な事が起こるんだろう?」


 「カルラが目覚めたり、小隊長達が揉めたり、ダイヤ・シティで天罰騒動があったり……マリアさん達の帰還を喜ぶ暇もなかったですね」


 「私なんてウイリアム隊長の件でパニックになって、一層現場を混乱させてしまって……申し訳なかったです」


 「つ~か情報多すぎて、も~脳がギブサイン出してるっすよ」


 それぞれの顔に滲む疲労感。


 「そうだな……いっそ長い休暇を取りたい位だ」


 「え。クオンがそんな事言うなんて、珍しい」

 

 笑顔で目を瞬かせるキサラギ。

 ボードがあんな事になって、デニスやサラとの関係にもヒビが入って……本来なら、心穏やかではいられないだろうに。


 「お前達も、心身ともにキツかったろう。ここ数か月は」


 「正直、しんどかったですけど……でもそれでも、やっぱりこのメンバーで集まると、回復する感じします」


 凛々しくそう語るのはレナ。

 瀕死のウイリアムを前に取り乱していたのは、ついさっきの事なのに……もう持ち直したのか。

 本当はじっくりと時間をかけて、心の整理をつけさせてやりたいのに。

 

 「レナさんの言う事、わかります。マリアさんも無事保護できましたし……遠征から帰還した時も思いましたが、本部にこのメンバーでいると、ホッとしますよね」


 そう言ってルークは紅い眼鏡のフチをあげるけれど。目の下にはくっきりとクマが浮き出ている。

 マリアの保護から帰還しても、きっといつもの業務は続けたのだろう。ただでさえ短い睡眠時間。それを一層削る事になった、一連の騒動。

 今の軍は……こいつが子供らしく過ごし、子供らしく休む事が出来る環境にない。


 「まぁ色々あったっすけど。で、これからも神族と色々あるんだろうなって感じっスけど。このメンバーなら、きっと何とかなるっすよ!」


 小難しい話が苦手なジルには、負担が大きかったろう。

 同期のレナとの関係にも、心を揉んだだろうと思う。

 それでも自分が目指す血統種になる為に、必死になって色々なものを吸収していた。

 こいつにはただ純粋に、のびのびと……成長できる時間と場所を、与えてやりたい。



 「俺は……お前達を家族だと思ってる」


 言いながら、四人の目を順に見る。


 「うん? なに、クオン改まって」


 「それぞれに幸せになってほしい。それぞれの幸せを、最優先に出来る道を進んで欲しい」


 「どうしたんですか、隊長?」


 「だから俺自身も……自分の望む道を選んで、生きて行こうと思う」


 「えっと? よくわかんないんすけど……要は、隊長は何が言いたいんすか?」


 似たようなキョトン顔で、目を瞬かせる四人。


 俺の大事な仲間。家族。

 世界を守る為……天罰を阻止する為に、命を削って共に戦ってきた。


 これからもずっとずっと、そうしていきたいと願っていた。

 

 だが今は……それがこいつらの幸せに繋がるとは、思えなくなってしまった。


 「俺は……軍を出て行く。だからお前達も……それぞれの望む道を、進んでくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ