それぞれの道(クオン)
「クオン、入るよ?」
ノックをして、部屋に入ってきたのは……キサラギ、レナ、ジル、ルーク。チーム終日の面々。
いや……正確に言うと、レナはもう昼前の副隊長だったか。
「お疲れ様でした、クオン隊長! あの……マリアは?」
「デニス隊長から、マリアさんが体調崩したとうかがったのですが!」
「大丈夫なんすか!?」
心配そうな顔で、駆け寄って来るレナとルーク、そしてジル。
三人の視線は、ソファに腰かける俺……では無く、隣に座るマリアに集中している。
「耳が早いな」
俺達が本部に戻ってきたのはほんの十数分前だというのに。
ついでに言うなら、俺とマリアが終日の作戦会議室に来て、五分もたっていない気がするのに。
「この三人は色々あって医務室にずっといたんだって。そこに帰還したデニスさんが、エミリオの様子を見に来て……ダイヤ・シティでの出来事を話してくれた。……大変だったみたいだね」
三人の後ろからゆっくりと歩いてきたキサラギの解説を聞いて、納得した。
「そうか」
「心配かけてごめんなさい。私は大丈夫です。赤ちゃんも無事です」
マリアの回答に、わかりやすくホッとした表情を浮かべるトリオ。
その顔を見て、気持ちが安らぐのがわかった。
それはマリアも同じだったようで、思わず互いの顔を見合わせてしまう。
「今日は本当に……朝からゴタゴタ続きだったな」
「本当にね。どうして一日足らずでこうも色々な事が起こるんだろう?」
「カルラが目覚めたり、小隊長達が揉めたり、ダイヤ・シティで天罰騒動があったり……マリアさん達の帰還を喜ぶ暇もなかったですね」
「私なんてウイリアム隊長の件でパニックになって、一層現場を混乱させてしまって……申し訳なかったです」
「つ~か情報多すぎて、も~脳がギブサイン出してるっすよ」
それぞれの顔に滲む疲労感。
「そうだな……いっそ長い休暇を取りたい位だ」
「え。クオンがそんな事言うなんて、珍しい」
笑顔で目を瞬かせるキサラギ。
ボードがあんな事になって、デニスやサラとの関係にもヒビが入って……本来なら、心穏やかではいられないだろうに。
「お前達も、心身ともにキツかったろう。ここ数か月は」
「正直、しんどかったですけど……でもそれでも、やっぱりこのメンバーで集まると、回復する感じします」
凛々しくそう語るのはレナ。
瀕死のウイリアムを前に取り乱していたのは、ついさっきの事なのに……もう持ち直したのか。
本当はじっくりと時間をかけて、心の整理をつけさせてやりたいのに。
「レナさんの言う事、わかります。マリアさんも無事保護できましたし……遠征から帰還した時も思いましたが、本部にこのメンバーでいると、ホッとしますよね」
そう言ってルークは紅い眼鏡のフチをあげるけれど。目の下にはくっきりとクマが浮き出ている。
マリアの保護から帰還しても、きっといつもの業務は続けたのだろう。ただでさえ短い睡眠時間。それを一層削る事になった、一連の騒動。
今の軍は……こいつが子供らしく過ごし、子供らしく休む事が出来る環境にない。
「まぁ色々あったっすけど。で、これからも神族と色々あるんだろうなって感じっスけど。このメンバーなら、きっと何とかなるっすよ!」
小難しい話が苦手なジルには、負担が大きかったろう。
同期のレナとの関係にも、心を揉んだだろうと思う。
それでも自分が目指す血統種になる為に、必死になって色々なものを吸収していた。
こいつにはただ純粋に、のびのびと……成長できる時間と場所を、与えてやりたい。
「俺は……お前達を家族だと思ってる」
言いながら、四人の目を順に見る。
「うん? なに、クオン改まって」
「それぞれに幸せになってほしい。それぞれの幸せを、最優先に出来る道を進んで欲しい」
「どうしたんですか、隊長?」
「だから俺自身も……自分の望む道を選んで、生きて行こうと思う」
「えっと? よくわかんないんすけど……要は、隊長は何が言いたいんすか?」
似たようなキョトン顔で、目を瞬かせる四人。
俺の大事な仲間。家族。
世界を守る為……天罰を阻止する為に、命を削って共に戦ってきた。
これからもずっとずっと、そうしていきたいと願っていた。
だが今は……それがこいつらの幸せに繋がるとは、思えなくなってしまった。
「俺は……軍を出て行く。だからお前達も……それぞれの望む道を、進んでくれ」




