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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
208/222

仲間

 「ジル! 待ってよジル!」


 広く長い廊下を速足で歩く同期の名前を、繰り返し呼ぶ。

 でも、ジルが振り返る事は無い。


 「待たねえよ! つーかそんな事言えた立場かお前? 俺達との約束を破っておいて。せめて頭から水かぶってから来いや! その胸糞悪いニオイをキレイさっぱり洗い流してからな!」


 「私が傍にいれば、もう死にたいなんて思わないって言ってたの! だから」


 「は? あいつは神族のお偉いさんなんだろ? 敵が死んで誰が困るわけ?」


 「神族の幹部であると同時に、軍の幹部でもある! どちらの実権も握る血統種の命を、軽んじるべきじゃない!」


 「もっともらしい事言って……単にあいつに死なれたらお前が困るってだけだろ?」


 「ちょっとジル! ちゃんと話を聞いてよ!」


 歩を止める事無く、冷たい声だけを返してくるジルの腕を、強引につかんだ。


 「今は、神族と軍とのこれからを決める重要な分岐点なのよ? 今隊長達が何を話してるかわからないけど……内輪もめしてる場合じゃないでしょ?」


 「積極的に揉め事発生させてるお前が、それ言うか? お前は俺らとの約束よりもあいつを選んだ。軍と神族がどうなろうが、俺がお前と仲間になる事はもうねえから!」

 

 「それって……どういう事よ?」


 仲間になる事は無いってなに?

 仲間にならないと、どうなるの?


 眉間に皺を寄せてジルの顔を覗き込む。

 すると、言った本人も、首を傾げだした。


 「あー……どうって……言われると……ええーと」


 仲間ってなんだろう。

 ジルと私って、なんなんだろう。


 目的達成の為に協力し合う同僚?

 苦楽を共にした同期の桜?


 仲間じゃなくなると、その関係はどう変わっていくの?


 「うまく言えねえけど……俺はもうお前を助けねえし、頼らねえ。お前が誰とどこでのたれ死のうが、どうでもいいんだよ!」


 吐き捨てるようにそう言って、ジルは再び速足で歩き出した。

 

 「ま――」


 って。

 と、言おうとして、言葉を飲み込んだ。


 引き止めなきゃ。今こいつを行かせたら、私は取り返しのつかない何かを失ってしまう気がする。

 でも引き止めたところで……何て言っていいかわからない。

 何を言えば、元に戻れるのか。ジルを説得できるのか。


 どうしよう、どうすればいい。

 どうすればジルを止められる?


 迷っている間に、ジルの背中はどんどん遠ざかっていく。


 でも――通路の向こうからやってきた人物が、奴の歩を止めてくれた。


 「あらジル君、そんなに急いでどうしたの?」


 身も心も光沢を放つ程に美しい、私の憧れの人。

 昼前の、サラ隊長が。

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