仲間
「ジル! 待ってよジル!」
広く長い廊下を速足で歩く同期の名前を、繰り返し呼ぶ。
でも、ジルが振り返る事は無い。
「待たねえよ! つーかそんな事言えた立場かお前? 俺達との約束を破っておいて。せめて頭から水かぶってから来いや! その胸糞悪いニオイをキレイさっぱり洗い流してからな!」
「私が傍にいれば、もう死にたいなんて思わないって言ってたの! だから」
「は? あいつは神族のお偉いさんなんだろ? 敵が死んで誰が困るわけ?」
「神族の幹部であると同時に、軍の幹部でもある! どちらの実権も握る血統種の命を、軽んじるべきじゃない!」
「もっともらしい事言って……単にあいつに死なれたらお前が困るってだけだろ?」
「ちょっとジル! ちゃんと話を聞いてよ!」
歩を止める事無く、冷たい声だけを返してくるジルの腕を、強引につかんだ。
「今は、神族と軍とのこれからを決める重要な分岐点なのよ? 今隊長達が何を話してるかわからないけど……内輪もめしてる場合じゃないでしょ?」
「積極的に揉め事発生させてるお前が、それ言うか? お前は俺らとの約束よりもあいつを選んだ。軍と神族がどうなろうが、俺がお前と仲間になる事はもうねえから!」
「それって……どういう事よ?」
仲間になる事は無いってなに?
仲間にならないと、どうなるの?
眉間に皺を寄せてジルの顔を覗き込む。
すると、言った本人も、首を傾げだした。
「あー……どうって……言われると……ええーと」
仲間ってなんだろう。
ジルと私って、なんなんだろう。
目的達成の為に協力し合う同僚?
苦楽を共にした同期の桜?
仲間じゃなくなると、その関係はどう変わっていくの?
「うまく言えねえけど……俺はもうお前を助けねえし、頼らねえ。お前が誰とどこでのたれ死のうが、どうでもいいんだよ!」
吐き捨てるようにそう言って、ジルは再び速足で歩き出した。
「ま――」
って。
と、言おうとして、言葉を飲み込んだ。
引き止めなきゃ。今こいつを行かせたら、私は取り返しのつかない何かを失ってしまう気がする。
でも引き止めたところで……何て言っていいかわからない。
何を言えば、元に戻れるのか。ジルを説得できるのか。
どうしよう、どうすればいい。
どうすればジルを止められる?
迷っている間に、ジルの背中はどんどん遠ざかっていく。
でも――通路の向こうからやってきた人物が、奴の歩を止めてくれた。
「あらジル君、そんなに急いでどうしたの?」
身も心も光沢を放つ程に美しい、私の憧れの人。
昼前の、サラ隊長が。




