呑気
「はぁ……」
思わず零れた、深いため息。
「レナぴょん、そう落ち込まないでよ」
「いや記憶失ってる本人に慰められても」
「だって、どうにもならない事なら落ち込んでも仕方ないじゃん? 俺の記憶障害は能力を使う副作用であって病気じゃないから、医療隊員にはどうにも出来ない。これ、前からわかってたことだからね~?」
そう。
慌てて駆け込んだ医療隊で、得られた回答がそれだった。
「でも……自分の腕がマヒする程の大事件を全て忘れているって……そんなの、今までもあったんですか?」
ベッドに座るエミリオを顔を、心配そうにのぞき込むルーク。
「だから、さっきの隊員さんが言ってたっしょ? 俺はカルラと食堂マダムの夢をのぞきまくったらしいよ。かつてない位ガンガンに。だからその分、しっぺ返しもデカかった。何日も意識不明の状態だったらしいし。目が覚めるまで見守ってくれただけ、医療隊には感謝だよ~」
ひょうひょうと、自身の身に起きた事を改めて説明するエミリオ。ジルは眉間に皺を寄せた。
「感謝だよ~、じゃねえよ。なんでそう呑気なんだお前は」
「だって、何があったかは皆に説明してもらえたし。俺はそれで十分だよ。記憶無くしちゃって凹むより、困った時に助けてくれる仲間がいて良かったな~って喜びに浸る方が、ハッピーだと思わない?」
笑顔でそう応えるエミリオに、私はジルの言う『呑気』とはまた別の感想を抱いた。
「なんかすごいわね……あんた」
「え~うれしい~。レナぴょんに褒めて貰えるなんて」
「……エミリオがヘラヘラしてても、俺は許さねえからな」
『へ? なんの事?』と首を傾げるエミリオを無視して、ジルは医務室から出て行ってしまった。
「レナさん、エミリオさんには僕がついてるので……行って下さい」
「……うん。悪いわね、ルーク」
「ちょっとちょっと~! また俺をおいてけぼりにして話をすすめる~!」
私の背に向けて、若干ぎこちない動きの左手を伸ばすエミリオ。
ごめん。あんたの事は後でしっかりフォローするから。
そう、心の中で呟いて……私はジルを追いかけた。




