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神々は天罰を下す  作者: 杏みん
202/222

多数と少数

 デニスに胸ぐらを掴みあげられ、強引に起立させられるウイリアム。


 「ちょっと。よしなさいよ。話し合いは穏便に」


 「うるさい!!」


 他人事のように仲裁に入るおっさんの言葉を、一蹴するデニス。


 「お前……っ! お前も総司令も、ソフィアがやろうとしてた事を知ってたんだろ!? どうして止めなかったんだ! お前らが手を回せば、サラはあんな事をしなくて済んだのに!」


 「僕らのせいにしないでください。あの場で彼女を殺す事を選んだのはサラさんです。自分の願いを叶えたい、その為には軍を守らなければ。そう考えたんでしょう? あなたは女性の不幸を減らしたいのではなく失くしたい、なんていいながら……多数を救う為の少数の犠牲を、自ら生んでいるんじゃありませんか」


 「ウイリアム……それ以上続けるなら……!」


 「やめてデニス。ウイリアムの言う通りよ」


 一層血の気を増していくデニスを、サラが口だけで止める。

 デニスは渋々、といった表情でウイリアムの胸元から手を離した。


 「僕はサラさんを責めているわけじゃないんですよ。ただ、願いを完璧に叶える事って、本当に難しいんです。ですから、妥協点を探るのは悪い事じゃない」


 「……そうね。でもそんな茶番、ずっと続けられるとは思えない。ウイリアム、あなたは通常種を皆殺しにしたいんでしょ? いつか私達との約束を反故にして……軍だの平和だのに構う事なく、暴走する日が来るんじゃないの?」


 それなら、今この場で天罰と軍との共存を選んでも、意味は無い。

 サラの意見はもっともだ。

  

 ウイリアムは、人には妥協が大事だと言っておいて、自分は絶対に妥協しない。全て思い通りに操ろうとする。

 そんな奴と取引は出来ないと主張するのは当然だろう。


 「安心して下さい。僕自身だってもう、望むもの全てを手に入れようなんて思っていないんです」


 俺の思考を見透かしたかのような受け答えをするウイリアム。


 「どういう意味だ」


 「僕が死ねる方法を探してくれれば……もう誰も殺しません」


 意外な言葉に、その場にいた全員が目を見開く。


 「ちょっとウイリアム、それ本気?」


 「本気です。そもそも僕は、老い、死ぬために通常種を滅ぼそうとしているわけですから」


 「そんな方法無いってわかってて、言ってるんじゃないだろうな?」


 「長年探し続けても発見に至っていないのは事実ですが……最近新たな可能性を見つけまして」


 「可能性? なんだそれは。もったいぶらずにさっさと言えっ」


 デニスは苛立ちを隠しもせず、ウイリアムに詰め寄る。


 「っと……その前に。そろそろ出発しましょうか。ダイヤ・シティの警察組織から是非立ち会って欲しいと、招待されているので」


 「は? なんのことよ?」


 首を傾げるおっさんに、ウイリアムは『ああ、言い忘れてました』と言いながら、わざとらしく手をポンと叩いた。


 「ダイヤ・シティの侵攻に関わった血統種を、公開処刑するそうです」

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