多数と少数
デニスに胸ぐらを掴みあげられ、強引に起立させられるウイリアム。
「ちょっと。よしなさいよ。話し合いは穏便に」
「うるさい!!」
他人事のように仲裁に入るおっさんの言葉を、一蹴するデニス。
「お前……っ! お前も総司令も、ソフィアがやろうとしてた事を知ってたんだろ!? どうして止めなかったんだ! お前らが手を回せば、サラはあんな事をしなくて済んだのに!」
「僕らのせいにしないでください。あの場で彼女を殺す事を選んだのはサラさんです。自分の願いを叶えたい、その為には軍を守らなければ。そう考えたんでしょう? あなたは女性の不幸を減らしたいのではなく失くしたい、なんていいながら……多数を救う為の少数の犠牲を、自ら生んでいるんじゃありませんか」
「ウイリアム……それ以上続けるなら……!」
「やめてデニス。ウイリアムの言う通りよ」
一層血の気を増していくデニスを、サラが口だけで止める。
デニスは渋々、といった表情でウイリアムの胸元から手を離した。
「僕はサラさんを責めているわけじゃないんですよ。ただ、願いを完璧に叶える事って、本当に難しいんです。ですから、妥協点を探るのは悪い事じゃない」
「……そうね。でもそんな茶番、ずっと続けられるとは思えない。ウイリアム、あなたは通常種を皆殺しにしたいんでしょ? いつか私達との約束を反故にして……軍だの平和だのに構う事なく、暴走する日が来るんじゃないの?」
それなら、今この場で天罰と軍との共存を選んでも、意味は無い。
サラの意見はもっともだ。
ウイリアムは、人には妥協が大事だと言っておいて、自分は絶対に妥協しない。全て思い通りに操ろうとする。
そんな奴と取引は出来ないと主張するのは当然だろう。
「安心して下さい。僕自身だってもう、望むもの全てを手に入れようなんて思っていないんです」
俺の思考を見透かしたかのような受け答えをするウイリアム。
「どういう意味だ」
「僕が死ねる方法を探してくれれば……もう誰も殺しません」
意外な言葉に、その場にいた全員が目を見開く。
「ちょっとウイリアム、それ本気?」
「本気です。そもそも僕は、老い、死ぬために通常種を滅ぼそうとしているわけですから」
「そんな方法無いってわかってて、言ってるんじゃないだろうな?」
「長年探し続けても発見に至っていないのは事実ですが……最近新たな可能性を見つけまして」
「可能性? なんだそれは。もったいぶらずにさっさと言えっ」
デニスは苛立ちを隠しもせず、ウイリアムに詰め寄る。
「っと……その前に。そろそろ出発しましょうか。ダイヤ・シティの警察組織から是非立ち会って欲しいと、招待されているので」
「は? なんのことよ?」
首を傾げるおっさんに、ウイリアムは『ああ、言い忘れてました』と言いながら、わざとらしく手をポンと叩いた。
「ダイヤ・シティの侵攻に関わった血統種を、公開処刑するそうです」




