手がかり
「アカネさんが……?」
クオンを救えるかもしれない血統種と、知り合いに?
そんなの、初耳だ。
「キサラギ様はご存知無かったみたいですね。アカネ様は、まだ子供だった私にも色々教えてくれてたんです。私とアカネ様は、いわば同志……大切な人が病に苦しんでいるのを見守るしかできない……そんな痛みを共有できる仲間だったから」
同志。だったら、俺だって……。でもアカネさんは俺を仲間だとは思ってくれていなかったんだ。
後継者である俺を、族長側の……クオンを虐げていた父親側の人間だとカテゴライズしていたのだろうか。
そう思うと、少し、寂しい。
でも今は、そんな感傷に浸っている場合じゃない。
「それで……その人は今どこにいるのかな?」
「……それは……わかりません」
「血統の種類は?」
「それも、わかりません」
「っち……。そういうのは、手がかりがあるって言わねえよ」
苛立ちを隠す事もせず、舌打ちをするデニスさん。
「助かる可能性がある、というだけでも重要情報ですよデニスさん。今まで何の治療法も見つけられず、亡くなる人達を見送ってきた事を考えれば……」
「そうです! キサラギ様に賛同するのは吐く程嫌ですけど、その通りなんです! 彼女の存在は病気に苦しんできた村の人達にとって、希望の光なんです!」
「ん? 彼女? その血統種は女性なの?」
コマチちゃんの言葉を目ざとくすくい上げるサラさん。
「そうです! あと、名前もわかります! ファーストネームだけですけど!」
「なんだよ! それを先に言えよ……!」
「名前が分かるなら、案外簡単に探し出せるかもしれませんよ!」
「すごいじゃんコマチ!」
「教えてちょうだい! その女性の名前を……!」
その場にいる全員が、期待に満ちた目でコマチちゃんを見つめる。
「テレジアさんです! 年齢は当時のアカネさんと同じ位で……お子さん二人を連れて、世界中を回ってるらしいって言ってました!」
テレジア。十区方面の名前だ。
そして、子持ちの若い女性。
思っていたよりも情報が多くて、否が応でも期待が高まる。
十年前は世界大戦真っ只中。夫を亡くして放浪する母親なんて珍しくなかったのかもしれないけれど。
「なんだよヒントザクザクじゃん! これ意外とすぐ見つかるんじゃね!? クオン隊長達が還って来たら、さっそく出発しょうぜ!」
「いえジルさん! 世界を旅している方ならば、まずは各基地に情報収集を依頼しましょう! その程度は構いませんよね!? デニス隊長!?」
「まぁ……その位なら……」
「よし! こうなったら善は急げね! キサラギ君、私の名前使っていいから命令文書作って!」
「ありがとうございますサラさん! じゃあ早速――」
「待ってください!!」
無意識に早口になっていた俺達を止めたのは、アルマン君だった。
「どうしたの? アルマン君?」
クオンの為……というかマリアちゃんの為に、さっきまで息巻いてた彼なのに。
期待に目を輝かせている俺達とは違って、その表情は雲っている。
「あの……探しても無駄だと思います。その人……もう死んでいるので」
「………………ん?」
暗い顔で、うつむくアルマン君。
「おい、シャレット弟。どういう事だ? お前はその女を知ってるのか?」
眉間に皺を寄せたデニスさんに、顔を覗き込まれ……アルマン君は、ゆっくりと顔を上げた。
「テレジアは……俺達の母親です」




