再会
「きゃああああああああ! 放して! 助けてー!!!!」
「え、ちょ、おい」
俺は困惑していた。
予想していたのとはまったく異なる、マリアのリアクション。
包み込むように抱きしめる俺を、悲鳴をあげながら、ポカポカと殴るわ蹴るわ。
「マリアさん! どうしまし……あ! クオン隊長!!」
「え!? あ、ホントだ! 隊長!! 来てくれたんすか!?」
煙の向こうから、次々と顔を出した、ルークとジル。
二人とも、あちこち負傷しているようだが……命に別状は無さそうだ。
「二人ともご苦労。無事で何よりだ」
マリアに暴行されながら労いの言葉をかける俺に、眉を顰める二人。
「ジルが背負ってるのはアルマンか。無事か?」
「あ、うっす! 怪我はしてるっすけど、気絶してるだけっす!」
「ルークが抱えてる女は?」
「ク、クオン隊長、それよりも今はとりあえず、マリアさんを落ち着かせてあげるべきでは?」
「嫌! 放して! 何なのあなた! 神族!? それ変装!? クオンさんに化けるなんて、悪趣味にも程があります!!」
ルークの言う通りだ。
ポコポコと殴られ続けたままでは、報告も帰還もままならない。
何より、感動の再会が混乱と暴力で終わるなんて、悲しすぎる。
「マリア、マリア、落ち着け。俺だ、クオンだ」
「クオンさんは天国です! もう! さっきの雷神といい、何なの!? 人の心の傷をこれ以上えぐらないで!!」
「生き返ったんだ、詳しく説明すると込み入った話になるんだが」
「死人は生き返りません!! それがこの世の理です自然の摂理です!!」
「マリア、頼むから話を……」
「ジル君、ルーク君! 私はいいから、二人を連れて逃げて!!」
ダメだこりゃ。
相変わらずの頑固さ。いや……死人が生き返るなんて非常識な事を、信じろっていう方が無理なのか?
ルークが背負っている女は顔色が良くない。恐らく急を要する容体だ。
仕方ない。手荒な真似はしたくないが、ここはマリアを失神させて、本部で落ち着いてから事情を……
ガタン。
「え?」
「あ」
色々と脳内で作戦を練っていた時。落ちた。腹に仕込んでおいた、壁掛け時計が。
そして同時に、ポコポコが止まった。マリアの視線は、足元の時計に釘付け。
「これって……クオンさんの……部屋の……」
「そう、そうだ、わかるか?」
「わかります、だって……ずっと見てたから。あの日……隣で寝てたのに何もなくて……私どうすればいいんだろうって……ずっとこれを眺めてて……」
「懐中時計なんて持って無いから、慌てて持って来たんだ」
「……え? じゃあ……え? ほんとに……? え?」
「いや、え? は、こっちの台詞だろ。やっと会えたってのにタコ殴りにされるなんて、思ってもなか」
「きゃあああああああああ!!!!」
俺の言葉を最後まで聞かずに、再びマリアは絶叫した。
でも……さっきのように、助けを求める悲鳴じゃない事はすぐにわかった。
堰を切ったように溢れ出た涙は温かく、俺の背に回された細い腕には……肋骨が折れるのではという位に、力が込められていたから。




