挨拶
諸々の事情を終日の皆に説明した翌朝。
明け方の作戦会議室を訪れた俺とジルを、ソファにふんぞり返っているデニスさんは、不機嫌そうに睨みつけた。
「俺はトキミヤやキサラギと違って甘くない。ヘマしたら容赦なく潰すぞ」
「うす……」
しょっぱなから、威圧感満載な挨拶をかましてくれたデニスさん。
対するジルは、心底居心地が悪そうに目を泳がせている。
しまった。
デニスさんは朝が苦手……というか、寝起きの機嫌が最悪だという事を忘れていた。
「大丈夫だよジル。デニスさんなら、ジルの能力を存分に活かせるよう、指揮してくれるから」
この程度のフォローじゃ、この重苦しい空気を変えられないとわかってはいるけれど。
猛犬を前に、萎縮しきっている子犬を、なんとかかばってあげたくて。
「俺とお前で三区を担当する。出発は三時間後。ちんたらしてたらおいて行くぞ」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、口早に今後の予定を説明し始めるデニスさん。
「えっ……! 三区担当って……一ペア一国すか!? クソ広い大陸を、たった二人で!?」
「それが対天罰部隊だ。お前は自分が精鋭血統種だっつー自覚があるのか?」
無謀だ、そう表情で訴えるジルを一蹴するデニスさん。
「三区には血統種部隊が常駐している基地は十か所しかない。俺達はそこを順にまわり、フォルトゥナとキサラギ父の捜索を指示する。勿論、俺達自身も天罰に備えながら捜索にあたる」
「うえ~……姉と親父さんの事は伝令とかで知らせりゃいいんじゃないっすか? わざわざ出向かなくても……」
珍しく、効率的な提案をするジル。
緊張がほぐれてきたのか、それとも緊張ゆえにいつもより頭がさえているのか。
「お前ならどっちが嫌だ? 敵から命令が書かれた紙きれが届くのと、敵が直接乗り込んでくるのと」
「は? 敵? ちょっと意味わかんねーっすけど……」
いや、やっぱりいつものジルだった。
首を傾げる彼に、デニスさんの眉がぴくりと動く。
「キサラギ、お前の部下は噂通り頭が切れるな?」
「ええ。自慢の部下です。純粋で単純で、腹黒い所が一切無い」
「まあ、軍じゃそういう人間の方が貴重か……」
俺のフォローが効いたのだろうか。ため息を吐いてから、ジルの方を真っ直ぐに見る。
「いいか。もはや神族はどこに潜んでいるかわからない。対天罰軍幹部が直接出向けば、血統種部隊に潜む神族にプレッシャーを与えられる。ボロを出すきっかけになるかもしれない。もし連中が尻尾をだしたら、一網打尽にする。たとえそれが、身近な人間であってもだ」
含みのある言い方。
それで察する。恐らくデニスさんも、俺やクオンと同じ疑惑を抱いているのだと。
「やっぱりデニスさんも、同じ事を?」
「……あいつらだけじゃない。もう誰が裏切り者でもおかしくない。考えたくはないが、総司令さえ、俺は信じちゃいない」
「え、総司令もっすか? 軍のトップまで神族だったら、何の為の対天罰軍だよっつー話じゃないっすか」
「そんな事はありえない、っつー考えを捨てろって事だ。哪吒、俺と組むからには気を引き締めて行け。どんなに善人でも、俺以外は信用するな」
「……でも、あんたが神族じゃないっつー保証もないっすよね」
「ジル」
諫めるつもりで、名前を呼ぶ。
するとジルは、心底意外そうに目を見開いた。
「だって! クオン隊長も言ってたじゃないっすか! 終日メンバー以外は誰も信じるなって!」
子供のように、声高らかに言い訳をするジルに、苦笑いを浮かべるしかない。
さすが、純粋で単純な、自慢の部下。
しかし、今の発言をそう好意的にとらえてくれる筈が無いデニスさんの眉間には、一気に皺が寄って。
「あんのクソガキはそんな事言ってたのか」
「クオンもピリピリしてるんですよ。身重のマリアちゃんは見つからないわ、自分は寝たきり生活になるわで、超警戒モードで。許してやってください」
「……キサラギさん、この人信じて大丈夫なんすか?」
それ、本人の前で聞くかね……。
俺の顔を覗き込むジルに、そうツッコミを入れてやりたい気持ちを抑えて。
俺はデニスさんとの思い出話を、可愛い部下に披露する事にした。




