表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々は天罰を下す  作者: 杏みん
113/222

知りたくもない事(ジル)

 「マジかよ……マジで神族と行くのかよ……っ」


 一人でぶつくさ言いながら、自分の部屋で身支度を整える。


 ダッシュでシャワー浴びて、着替えて。

 デリは小さい町だっていうし、到着するのは深夜未明。きっと店だって閉まってるだろうから、念の為着替えをワンセットだけ持って、部屋を出る。


 ああ、腹減った。俺夕飯もまだだったんだよな。

 三時頃に帰還したらあんな事になっちゃって……

 

 いつでも食わせてくれる食堂のおばちゃんも今はあの状態だし……ソン・ジュノのあの様子だと、途中でどこか寄ってくれるって事もなさそうだし。


 ぐうぅぅぅぅぅ~。


 「そんなに鳴くなよ……俺だって、お前に何か食わしてやりてぇよ……」


 自分の胃袋に話しかけるとは。俺も色々参ってるんだろうな……。

 そんな風に思っていたら、目の前にサンドイッチが現れた。


 「よかったらどうぞ」


 卵にBLT、バジルチキンにフィッシュフライ……フルーツサンドまで。バスケットの中にはぎゅうぎゅうに、色んな種類のサンドイッチが詰められていた。


 にっこりと笑ってそれを差し出してくれたのは、朝方のウイリアム・キャロル隊長。


 「え? え!? なんで……」


 まったく気配無く現れた隊長に、びびる俺。


 「皆さんお腹を空かせているんじゃないかと、用意しておきました」


 「用意って、え!? いつ!? どうやって!?」


 「ロザリーに聞きました。これから四区に向かう事になったそうで。皆さんで召し上がって下さい」


 こっちの質問にも、キラキラした微笑みと親切だけを返してくる隊長。


 なんだこの人? 神族なんだよな? 敵なんだよな? 

 

 どーゆー神経で俺に話し掛けて来てんの?

 どーゆー神経で敵にサンドイッチ作ってくれてんの?


 「あ……あざっす……」


 とりあえずお礼を言ってバスケットを受け取る。


 いやいや、てか、受け取っちゃっていいのかこれ?

 神族が作ったサンドイッチとか、食っても大丈夫なもん? もーちょい警戒した方がいいんじゃね?


 ああでもそんな事言い出したら、俺らこれから神族二人と、何時間も馬車に揺られて行くわけで。


 「僕が怖いですか? 僕や、ロザリーやジュノ……神族と呼ばれる血統種が?」


 優しい笑顔のまま、こっちの心の中を見透かすウイリアム隊長。


 「いや、怖いっつーか……」


 「それじゃあ、憎い? 今まで必死になって天罰と戦ってきたのに……それを起こしている張本人達が、身内にいたわけですから」


 憎い……。いや、そーゆーのもピンとこない。


 「俺は元々、正義の味方みてぇな気持ちでやって来たわけじゃないんで。憎いとか許せないとか……あんまわかんないっす」


 「そうでした。ジルベルトさんは純粋に、強さに惹かれる方でしたね。でしたらきっと、ロザリーやジュノとは仲良くできますよ。ああ見えて二人共、ゴリゴリの武闘派ですからね」


 「はぁ……」


 「あ、でもそれも今はちょっと違いますかね? 単純に戦闘能力だけを追い求めていても、極みには行けない……最近の色々で、それに気付きましたか?」


 思わず、ギョッとしてしまう。

 なんだこの人。人の心を読む力でもあんのか?


 「素敵ですね。年齢と経験を重ねて変化し、成長する。人生に必要不可欠なプロセス。うん、それでこそ人間です」


 「……はぁ……」


 わからん。なんだこの会話。

 何て答えたらいーの、これ。


 「ふふ、すいません、困らせてしまいましたね。もう出発ですよね? くれぐれも気を付けて行って来て下さい」


 そう。おっしゃる通り困ってました。やっぱり人の気持ちがよめるとしか思えん。

 

 にしても……マジでまぶしい笑顔だな。

 王子様とか呼ばれるわけだ。ピカピカしてて、爽やかで。


 こんな顔で笑う奴が……神族。容赦なく、人を殺しまくってる悪人……。

 なんで? カルラみたいに何か理由があんのか? 通常種にひでえ事された過去がある、とか?


 「あの……ウイリアム隊長は何考えてるんすか? 自分が神族だって暴露したり、ル・テリエ副隊長を俺らに協力させたり……何がしたいのか、よくわからないっす」


 「諸々落ち着いたら、お話ししますよ。どうか、無事に帰還して下さいね」


 ほころぶ事の無い完璧な笑顔のまま、俺の横を通って立ち去ろうとするウイリアム隊長。


 その時、ふんわりと香ってきた。

 百合と林檎のいいとこどりをしたような、甘く濃厚だけれど、爽やかな香り。

 

 ウイリアム隊長の匂いじゃない。

 ついさっき嗅いだ……あの人の匂いだ。


 「あの……! ウイリアム隊長!」


 「はい?」


 振り返るウイリアム隊長を、睨みつける。


 「俺、同僚のプライベートに首ツッコむ気はさらさら無いっすけど……レナをぐちゃぐちゃにするようなマネはしないでほしいっす。あいつは頑固で気が強いけど、何されても平気な顔してられる程、図太くないんで」


 「……ええと……?」


 首を傾げるウイリアム隊長。

 でもすぐに、俺の言いたい事が理解出来たようで。


 「そうか、君は鼻がいいんでしたね。ご忠告ありがとうございます。肝に銘じておきます」


 肝に銘じてくれたとは到底思えない、爽やかな笑顔と軽い足取りで、朝方の隊長は去って行った。


 鼻がいいと……知りたくも無い事を知ってしまう事がある。

 今回のは、そうじゃないといいな……なんて願いながら、俺は待ち合わせ場所の正門に急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ