案の定
「どうも、ソン・ジュノです。そっちの金髪さんは初めましてだね」
「あなたが、ソン・ジュノ……!」
ああ……。
やっぱり。僕が思った通りだった。
一旦退室したル・テリエ副隊長が『彼です』と、連れて来たのは、案の定ソン・ジュノ。
「え!? どーゆー事だよ!? なんでル・テリエ副隊長が、ソン・ジュノの事知ってんだよ!? どーゆー関係!? だって、こいつの事はレナ達以外の遠征組には秘密の筈だろ!?」
「は!? そうなの!? なんで!?」
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着きましょう? ル・テリエ副隊長、説明して頂けますか? なぜ副隊長が、神族である彼に協力を? そもそも、彼の存在をどうしてご存知だったのでしょうか?」
「…………へ?」
クエスチョンマークを頭上に浮かべながら混乱する僕達三人……の、反応を見たル・テリエ副隊長は、僕らの上を行くキョトン顔を浮かべた。
「あ……ええと、イヴレフ副隊長からお聞きになって……ますよね? ウイリアム隊長の事」
口元に手を当て、遠慮がちにレナさんの顔をチラリと見るル・テリエ副隊長。
対するレナさんは、目を見開いて、かなり動揺している様子。
「ウイリアム隊長の事……? なんの事ですか? レナさん?」
「それは……その……」
視線で床に模様を描いているのだろうか。というほどに、ぎこちなく泳ぐ目。レナさんらしくない。
そんな彼女を見て、ル・テリエ副隊長の横に座るソン・ジュノが口を開いた。
「なになに? 話は全部通ってるっていうから来たのに。金髪さんは知ってるんでしょ? ウイリアム隊長が神族だって事」
「「え!!!!!!?」」
衝撃。
ソン・ジュノの爆弾発言に、愕然とする僕とジルさん。
「ま、まじかよ!! おいレナ!! お前知ってたのか!?」
「ごめん……隊長本人から聞かされた。遠征して……ひと月位立った頃に……」
「ひと月って……! もう何か月も前の話じゃねえか! なんで黙ってたんだよ!!」
「ごめん……」
「ごめんじゃねえよ! クオン隊長やキサラギさんにも隠してたって事だろ!? そんなん……あっ! まさかお前まで神族に寝返ったんじゃねえだろうな!? だったら――」
ジルさんに責められ、うつむくレナさん。
嫌だ。こんな二人、見たくない。
「ジルさん落ち着きましょう! ここで僕達までバラバラになるなんて嫌です! レナさんにはきっとワケがあったんですよ! まずは話を聞きましょう!!」
肩で息を切らせながら、ジルさんは言葉を飲み込んでくれた。
でもその眉は、ずっと吊り上がったまま。
そんなギスギスした空気の中、静かに口を開いたのはル・テリエ副隊長。
「あの……イヴレフ副隊長を責めないでください。きっと、ウイリアム隊長が一方的に暴露してきたんだと思います。でも、それを本部のトキミヤ隊長や、各区に散っている仲間に知らせる事は出来なかった。伝令隊を介すれば、もみ消されるかもしれない、外部に漏れるかもしれない。そもそも、真実かどうかも確信が得られない情報で、仲間達を混乱させてよいのか。そう、考えられたんですよね?」
ル・テリエ副隊長の言葉にも、レナさんはうつむいたまま。
その沈黙が意味するのは、肯定なんだろうか。
確かに、ル・テリエ副隊長の言う通りかもしれない。
慎重なレナさんだからこそ、安易に報告する事はせず、数か月をかけてウイリアム隊長が神族だという証拠を探っていたのかも?
「そう、なんですね? レナさん」
「……ごめん」
「な……なんだよ! そーゆー事ならそう言えよ! 俺はてっきり……」
「てっきり。でも、言っていい事と悪い事があるでしょ。仲間なんだから。ちゃんと謝りなよ~」
ソン・ジュノにそう諫められ、ばつが悪そうに口をもごもごさせるジルさん。
「……ごめん、悪かったよ……」
「……いいわよジル、謝らなくて。悪いのは私なんだから」
頭をかきながら、気まずそうに謝るジルさんと、苦しそうに首を左右に振るレナさん。
よかった……。この関係まで崩れてしまったら……僕もいよいよ心が折れてしまう。
しかし……ホッとしたのも束の間。
確認しておかなければならない事が出来てしまった。
「あの、ル・テリエ副隊長……あなたは、ウイリアム隊長の腹心であり、隠れ神族であるソン・ジュノの存在もご存知だったんですよね? という事は……副隊長ご自身も……その……」
「そうですね。ほぼ神族だと考えて頂いて、差し支えないかと」
差支えます。
思い切り差し支えます。
というか何でしょうか、ほぼ神族って。
激動の展開に驚き疲れてしまった僕達三人は、茫然とするしかなかった。
開いた口を塞ぐ気力もないまま……ただ、茫然と――。




