2話 生まれたんだ、卵から!
どれほど時間が立ったのだろうか。
私は意識が浮上してくるのに合わせて、先程の出来事を思い出していた。
普通に家に帰るはずだったのに、怒涛の展開だったな…。
まあ、向こうには心配するような親族や友人はいないし、大丈夫だろう。
そう考えると、寂しい人生だったな…。
心残りといえば、長年遊んだオンラインゲームを断りもなく辞めることになってしまったことくらいだろうか。
神様にそのへんも聞いておけばよかった。
まあ、今からはどうしようもならないので、とりあえず切り替えなければ。
そういえば、最後に神様が言っていた、体が強いというのはどういうことだろうか。
そう思い、自分の体を見ようとして、目があかないことに気がついた。
いや、これは、目が開かないんじゃないのかも。
瞬きしている感覚はあるので、目が開かないんじゃなくて、この場所が真っ暗なのだ。
どういうことだろうかと立ち上がろうとして、尻もちをついてしまった。
地面は岩のようで、ちょっと痛い。
足も普段のものと違う。
手を伸ばそうとしてみると、それが異常に短い。
自分の頭の上に届くかどうかの長さだ。
その時、顔に触れたのだが、どうも肌がゴツゴツしている。
何故だ。
仮面でも被ってるのかと思ったが、感覚があるので、神経の通った私の一部らしい。
一通り体を確認して、自分がどうやら球体状の壁の中にいることが判明した。
いや、これは、卵の中と言うのだろうか。
神様は人間に転生させてくれるはずだったんだけど…。
あの人結構適当なのかも。
いや、でもあの手馴れた感じは相当やばい人だったのでは…?
そんなことを考えてるうちに、だんだん真っ暗なのが怖くなってきたので、目の前の壁を短い手で殴ってみた。
すると、結構力を込めたこともあってか、あっけなくヒビが入った。
意外と脆いんだな、と思ったと同時に、外から声が聞こえてきた。
「うわあ!みてみて!ヒビが!!ちょと!シロも早く来てよ!」
「本当か!ちょっと待ってくれ、このパーツだけ取り付けないと全部バラバラになってしまう…。」
「また、組み立てればいいじゃん!生まれる瞬間は1回きりなんだよ!?」
「分かったからちょっと待ってって…」
「あっ!またヒビが!」
幼そうな男の子と、若い男性の声が聞こえてくる。
男の子は結構近くにいるようで、叫んだりバタバタしたりしている。
声は上の方からするので、私はもしかしたら結構小さいのでは?
本当に私は今どういう状況なんだ。
あまりにおかしい状況なので、段々神様に腹が立ってきた。
男の子が騒いだので、さっきのヒビがパラパラ崩れて、外から光が差し込んできた。
おお、これなら外に出れそう!
そう思った私は、割れ目をもう2回ほど殴って、外を覗いてみた。
すると、同じように覗き込んできた男の子と目が合った。
「え、あ、すごい…。」
男の子はじっとこちらを見つめてくる。
珍しい、紫色の瞳だ。綺麗だな。
でも、そんなに見つめられるとちょっと気まずい…。
5秒ほど見つめあって、なんかいたたまれなくなったので、殻に体当たりして一気に外に出た。
「うわあ!かわいい…!」
目の前で男の子が頭をガバッと上げたので、私はつられてそちらを見上げた。
声の主は、私の方に手を伸ばしかけたり引っ込めたりして、私に触りたそうにしている。
5歳くらいの男の子だ。
私の頭上でしゃがみながら、こちらを伺っている。
色素の少し抜けたような、グレーよりの黒髪をふわふわ揺らしながら、くりっとした紫の目で観察しているのだが、いかんせんこちらより図体が大きいのでちょっと怖い。
私がいる場所を見回してみると、どうやら木製の床の上のようだ。
あたりは色んなものがごちゃごちゃしていて、なにかの工房のようにも見える。
そこまで広くはいが、ものが多いからそう見えるのかもしれない。
奥の方に、先程男の子と会話していた若い男性が見えた。
男性は、工具を持ちながら作業していたようだが、今はこちらを見ている。
彼の、パッと見ただけで髪質が良さそうな白色の長髪が、とても印象的だ。
それに加えて、目は赤なので、アルビノなのかな?
それにしても、本当によく分からないものが沢山ある。
さすが異世界、本当に転生したのだな、と実感した。
そんなふうにあたりをキョロキョロしていると、男の子が興奮した様子で声をかけてきた。
「こんにちは!僕はテオ!で、向こうにいるのがシロだよ!……って、まって!シロ!これ、この子は言語を理解できる種族なの…?」
そう言って、男の子が勢い良く男性が居る方を振り返る。
「さあ…?こんな種類は見たことないしな…。知っていたとしても幼体だと特徴が違うのかもしれない。」
「ええー、じゃあこの子とお話できないの?」
「もうちょっと大きくなれば分かるかもな。」
そう言って、先程シロとよばれていた若い男性はこちらの方へ近づいてきた。
ふむふむ、黒髪がテオくんで、白髪がシロさんね。
シロさん、名前まんまだな。
シロさんは、テオくんの隣までくると、テオくんの頭にポンっと手を乗せながらしゃがんだ。
え、今気づいたけど2人とも顔立ちが整いまくってる…!
なんてこった!
そういえば、さっきテオくんが種族とか言ってたな。
あの適当神様のことだから、人間じゃないのはなんとなく察してるけど…。
そう思いながら視線を下に向けてみる。
それと同時に、上から声が降ってきた。
「こんにちは。私はシロといいます。初めまして、小さなドラゴンさん。」
え、ドラゴン?
今、ドラゴンって…。
彼の言葉通り、私の視界にはドラゴンっぽいシルエットの私の体が映っていた。
爬虫類みたいな鱗を覆われた、白いお腹に、手や足は水色。
手にはちょこん、と申し訳程度に爪が生えている。
人間ではないと思ってたけど、ドラゴンって…。
そう思いながら、手をグーパーしたり、足を上げ下げしたりしてみる。
後ろをみると、水色の尻尾が見えた。
あ、これ尻尾も動かせるのね。
一通り体を動かして、テオくんとシロさんの方を向き直ると、テオくんはキラキラした目で、シロさんは暖かい目でこちらを見ていた。
自分の動きをそんなに見られてると思うと、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
声は出せるのかな?と思ってあ、あ、と言おうとしてみると、
「ガァ、ガァ」
と、予期していなかった音が出てしまった。
なんだ今の間抜けな音は。
2人ともちょっとびっくりしてるじゃないか。
「ガゥゥグァア…」
こんにちは、と言ったつもりなのにまた変な声が出た…。
気まずくなって2人から目をそらすと、シロさんがフフっと笑った。
「どうやら、そこまで敵対的な子ではないみたいだ。これならうちで飼ってもいいと思うよ、テオ。」
「ほんとに!僕、ちゃんとお世話するね!」
「ああ、この子のご飯は私が用意できるから心配しないで。この子とちゃんと仲良くするんだよ?」
「もちろん!だってこんなに可愛いんだもん!」
「ふふっ、それは良かった。」
そう言うと、シロさんはちょっと離れていってしまった。
ここで飼ってくれるということは、ペット生活ができるということか!?
前世で家猫になりたいと思ったりしたが、まさか夢が叶うことになるとは…。
こちらに向き直ったテオくんは、私に話しかけてきた。
「君はね、シロがお仕事から帰ってきた時に拾ってきたんだよ?あのままだと死んじゃうところだったんだって。でもね、シロが見つけて、僕があっためてたら、君が生まれたの!まさかこんなに可愛い子が出てくるとは思わなかったけど!」
はえー、そうなのか。
あれ、じゃあ私の今世の両親はどこに行ったのだ。
捨てられてたのか?
それはちょっと寂しいな…。
「僕ね、君が産まれたらなんて名前つけようってずっと考えてたんだ。でね、いくつか候補とかあったんだけど、君を見た時にね、パッと頭に浮かんできたんだよ!いっぱい考える必要なかったんだね!だからね、君のお名前、レイ、とかどうかな?君にピッタリだと思うんだ!」
レイ、か。
人に名付けられるのってちょっと変な感じだ。
でも、素敵な響きだ。
結構気に入った。
そういう意味を込めて、テオくんに向かって首を縦に振った。
テオくんは嬉しそうに顔を微笑ませて、
「じゃあ決まりだね!改めてよろしくね、レイ。」
そう言って、こちらに手を伸ばしてきた。
自分よりの大きなものがやってくるのが怖くて、目を閉じたら、頭を撫でられた。
うわぁ、気持ちいい。
頭を撫でられるのはいつぶりだろう。
なんだか安心する。
「結構人懐っこいのかな。あんまり嫌がらないね。」
しばらく撫でられていたら、いつの間にかシロさんが戻ってきていたようだ。
手が離れていったので、そちらを見上げてみる。
シロさんは湯気の上がったお皿を目の前に2つ置いた。
1つ目のお皿には豆とか、野菜とか色々入っていた。
2つ目はお肉が色んな種類、綺麗に焼いて置いてあった。
めっちゃいい匂いがする。
「ドラゴンは基本的になんでも食べるらしいけど、好き嫌いもあるだろうし、ちょっとしたチェックをしとこうと思って。」
そう言って、彼はどうぞ、というふうにお皿を勧めてきた。
食べ物を前にして、いつの間にかお腹が空いていたことに気づく。
卵の中にいる間何も食べてなかったのだ。
そりゃあお腹も空くか。
「シロ、僕ね、この子にレイって名前つけたの!だからシロもレイって呼んであげてね!」
「おや、今考えた名前にしたのかい?ふふっ、あんなに候補が沢山あったのに。」
「うん!それがいいなって思ったの!」
「そうかい。いい名前だね。」
そう言って、シロさんはテオくんの頭を撫でた。
そういえば、2人の関係ってどんな感じなのだろう?
親子?にしてはあんまり似てないような…。
テオくんはシロさんの事呼び捨てだし…。
「レイ!好きなだけ食べていいんだよ?」
おっと、結構考え込んでしまっていたらしい。
でも、目の前に並んでるものに不味そうなものは無い。
とりあえず、片っ端から全部食べてみることにした。
豆類や野菜は、茹でてあるようで、柔らかかった。
どうやら、地球のものとあまり変わらないようだ。
大豆、レタス、じゃがいもなど、普通の食材。
お肉は、豚肉っぽいのと、鶏肉、あとよく分からないお肉があった。
とりあえず口に入れてみる。
「レイ、美味しい?」
テオくんが食べている私に話しかけてくる。
結構美味しかったので、2回ほどコクコクと頷いた。
「レイは僕らの言葉が分かるみたいだね。生まれたばかりなのに知能が高いのは種族の特徴なのかな?」
シロさんがちょっと驚いた様子で言った。
言われてみれば、私はいまさっき卵から出たばっかりだし、人間の赤ちゃんだったとしてもおかしいよな…。
ドラゴンの子供はどうなのか知らないが、おそらく普通ではないだろう。
なんせ、精神的にはもう大人だし…。
「レイ、このお肉好きだってよ!」
そんなシロさんを意に介さずテオくんが言った。
「ふふ、じゃあご飯はできるだけこのお肉にしようか。」
「うん!このお肉、僕も好きだからレイと一緒に食べれるね!」
そんな会話を聞きながら、お腹が空いていた私はお皿のお肉を全部食べてしまった。
「なにか嫌いなものはあったかい?」
シロさんが聞いてきたので、首を横に振って否定する。
「それは良かった。お腹すいたら、私に言ってね。小さい子は1日3食じゃ足りないかもしれないし。」
そう言って、シロさんはニコニコしながらお皿を片付けにどこかへ行ってしまった。
その後、テオくんは私に色んな話をしてくれた。
それをまとめると、まず、この世界は魔法があるらしい。
やったね!
そして、主な大陸が3つあること。
1つは今私がいる、人間や生き物が沢山住んでいる大陸。
2つ目は、神様が言っていたような、他の世界に穴が空いた時に落ちてきたものが、一年中振り続ける大陸。
他の世界から落ちてくるものを抽象して、"星"の降る大陸と呼ばれるらしい。
ここは、ほかの世界の道具や、生き物が降ってくるので、住むには不向きだし、危ないこともあるんだそう。
3つ目は、危険な魔物が沢山住んでる魔の大陸。
凶暴な生き物が多いけど、その分資源や素材は豊富なんだそうだ。
それにしても子供って意外と物事をちゃんと理解してるんだなあ…。
言葉は拙くてちょっと分かりずらかったけど。
あと、テオくんはシロさんについても教えてくれた。
シロさんは、星が降る大陸で、他の世界から落ちてきたものを集めたり、修理したりして、それを売って生活しているそうだ。
落下してきたものは、この世界じゃまだ再現出来ないものとかもあって希少価値が高いんだとか。
再現出来ないものをどうやって直してるかは謎である。
そして、テオくんは、家出少年なのだそうだ。
それをシロさんが保護して、お店に置いてくれているらしい。
家出って…、家に帰るべきなのでは?と思ったが、なんか複雑な事情があるらしい。
そんなこんなを話していると、外が暗くなってきた。
窓の外は、私の背が低いこともあって、空しか見えない。
私とテオくん、そしてシロさんは、1階のリビングでご飯を食べた。
どうやらさっきの部屋は2階にあったようだ。
リビングは、キッチンと一緒になっているようで、長机の周りに椅子が何個か置いてある。
奥にも部屋があるようだが、暗くてよく見えなかった。
明かりは、ランタンのようなものが天井から下がっていた。
普通の電気にも見えるが、光源がなんなのか私には判断がつかなかった。
夕飯は、さっきの美味しかったお肉がまたでてきた。
やったね!
ちなみに階段を降りる時にはテオくんが抱えて降りてくれた。
移動もしなくていいなんて、ペット生活最高では?
食べ終わって、階段を上がる時も抱えてくれた。
そのまま、さっきとは違う部屋に到着する。
見た感じ、テオくんの部屋みたいだ。
簡素なベットと机が置いてある、ちょっと狭い部屋。
「あ、どうしよう。今までレイが卵だったから抱っこして寝てたけど、今日も抱っこしたまま寝て大丈夫かな…?」
テオくんがベットを見つめながら考えていたので、肯定の意思を込めて、グワッ!と鳴いたら、テオくんの顔が明るくなった。
「え、一緒に寝てもいいの?」
テオくんに向かってコクコクと頷く。
「えへへ。じゃあ一緒に寝よう!」
そう言って、そのまま2人でベットに潜り込んだ。
新しい環境に疲れていたのか、すぐに眠気が襲ってくる。
「それじゃあ、おやすみ、レイ。」
「グルガァ…。」
背中にテオくんの体温を感じながら、そのまま眠りに落ちていった。
投稿頻度に悩んでます…。
そして、今回、この世界の設定が出てきましたが、分かりにくいようだったらもっと頑張って文章考えるので気軽をお教えください〜。