召喚に巻き込まれたアラサー女ですが、なんだか殿下が優しいです?
異世界に転移?しかもふたり!どっちが聖女?あ、あたしはアラサーメガネぽっちゃり・・ひえっ!!
@短編91
スピンオフで『やらかし王子の起死回生』
https://ncode.syosetu.com/n5190gx/
『兄が異世界転生してるあたしと、姉が異世界転移してる彼』
https://ncode.syosetu.com/n5796gx/
を書きました。
時系列で言えば、『やらかし王子の起死回生』→この話→『兄が異世界転生〜』の順です。
「きええええええええぇぇぇ・・・」
某明治時代の陸軍将校の様な絶叫が出てしまった・・・
あたしの傍にいる多分女子高生の美少女は、あたしの絶叫に目を見開いて固まってしまった。
だって仕方ないよね?
あたしとこの子、どうやら・・・
異世界に転移した、のだと思う。
「聖女殿を召喚に成功したぞ!!」
なんかあたしたちを取り巻く男の人達が、わっと騒ぎ出した。
成功とか言ってるわよ・・
あんた達からすると『召喚』なわけね?調子のいい・・
・・・・・・。
はっ!!
こ、このシチュエーション!!
ここに、美少女がいるじゃろ?
そのうち王子様とか、なんかイケメンが来るじゃろ?
「其方が聖女か!」
とか言って、美少女だけ連れていくじゃろ?
・・・・・あたしはアラサーで、眼鏡を掛けてて、不摂生とストレスでぽちゃっとした体型で、美人でないです、はい。
メガネもつけてるし。
話の流れでは、その王子だかなんだかが、あたしを見て。
「なんだこいつは!!」
そしてどこかに放り出されるわけよ!森とか荒野とかに!
あ、あ、あたしのステータスを今確認せねば・・どうやって?
よくアニメとか漫画では、『ステータスオープン』とかなんとか、あれ出ない!!
なんてオロオロとしているあたしに、ポンと誰かが肩を叩く。
肩叩き!!リ、リストラでよくある、うわぁ!首切りかーー?
「きええええええええぇぇぇ・・・」
「うわっ!!」
あたしは再び絶叫してしまい、その声に誰かがびっくりしたようだ。
ん?
JK、いねえええええ!!いなくなってる!!
こ、これは・・森か荒野、待った無しイィ!!!
「お、おたすけをぉ・・・還れるんなら還してくだされぇ〜〜」
「君、落ち着いて。名前はなんていうんだい?」
優しく問いかけられ、床に丸まりうずくまるあたしだったが、恐る恐る体を起こした。
そこには銀髪の美男子が、屈んであたしの顔を覗き込んでいるではないか!
でも笑顔じゃない。まあ変な奇声上げる女に困っているんだろうけど・・
ああ!小説とかである展開、待った無し!!こんな奇声を上げる変な女、やばいって思われた!
あたしは役立たずと決めつけられ、死ねと言わんばかり、何もない森や荒野に捨てられるんだ!!
何でこうなっちゃったんだろう・・
仕事を終わらせ、毎週金曜の夜のお楽しみ、ひとりでカラオケでシャウトをする為、地下鉄に乗ったのよ。
ドアが開いて、乗り込んだら、そこは真っ暗闇で・・・
気がついたら此処にいた。
なんでよぉ・・あたし、前世で何か悪いことしちゃったのかなぁ・・・
えぐっという音に正気に戻る。
あたし、ぶさいくなのにエグエグ泣いてる。自分の涙が正露丸くらいの粒でぽたぽた落ちるの、初めて見たわ。
本当、みっともない。涙で同情誘う様な真似、してるんじゃないっての。
そういう奴らが一番嫌いだったくせに、あたしったら。あたしもうアラサーだっての。
目を覆っていた涙が溢れると、視界が良好、傍の美男子の顔も見えた。
困った様な、複雑な顔をしている。
悪うございましたね。ええ、ええ。分かったわよ。
とっととあたしを何処かにやればいいじゃない。森奥深くでも、荒野でも!!
あたしは美男子をギッと睨んだ。
「なによ、まだなんか用なの!」
美男子はあたしの手を掴み、引き上げる様にして立たせた。
「もう一人の娘は先に行ってしまったよ。君も行こう。此処は冷えるからね」
立ち上がると美男子はとても背が高く、そのせいなのかだんだん恐ろしく思えた。
手を離そうとするけど、しっかり握られて抜くことが出来ない。
渋々手を引かれ、通路を進む。
「で、君の名は?」
映画タイトルかーー?とツッコミを入れたかったが、冗談が通じないだろうから素直に返事をした。
「おっとん」
「え?」
「おっとん」
あたしはラノベとかアニメとかを熟知してるでなぁ。
本名を気安く教えてはならんのじゃ。魔法で縛られるかもしれんでなぁ、ひゃひゃひゃ。
おっとんは、あたしの飼い猫の名前。
あたしを守れるのは、あたししかいないのだ!!負けねぇぜ!!
本名、知りたい?安芸瑞穂、です。名前負けなんて言うなよ!
「先ほどの娘と、名前がなんか違うな・・」
「ソウデスカー?」
あの子もあたしと同じ日本人だとは思う。
でも本名は死守しますぞ!
「で、どこに行くんです?森ですか?荒野ですか?」
「何だ?行きたいのか?」
「行きたくないですぅ〜〜〜〜〜っ」
「どうしてさっきから森だとか荒野とか言っているんだ?」
「あたしは聖女ではないと思うんでぇ・・・役立たずで不要と捨てられるんですよねぇ」
「おい。どこの人非人だ、それは。否応無しで召喚し、役に立たなければ捨てる?・・・まあ、強引に連れてきたのだ、そう思われても仕方が無いか・・」
美男子は大きくため息をつき、前髪を掻き上げる・・・くっ、かっこいいって思いませんからねっ!!
あたしは身長が145センチ・・・しかもぽっちゃり。眼鏡が本体。引き立て役〜〜〜っ!!
さっきの女の子、可愛かったよね・・身長も160はあったみたい。つやつや長い黒髪。しかもJK。
いや!勝負しようなんて思ってませんからっ!!
よくある『料理で胃袋と一緒にハートも鷲掴み』なんて小技は通用するとも思えませんし!
料理はそりゃアラサーですし、普通に出来ますけどね?
この世界がメシマズとは思えないし!まあまだ知らんけど!
「召喚したら2人いらっしゃった。という事は、2人必要だった、そう思うものであろう?切り捨てなんてしない」
「ほほーーう」
捨てる気はない、と。
いやいや、それなら還してくださいって。
理不尽に連れてこられてこっちは困っているんですって。
聖女、ふたりもいらんじゃん。ふたり必要って、そうだろうけど。そうだろうけど!
ヒデが・・・家で待ってるのに・・・
「ん?なんだ?何か不満でも?」
「不満ありまくりに決まってるだろうが!!勝手に召喚、転移しやがって」
「口が悪いな」
「悪くならいでか!!あんたも召喚でも転移でもされてみればいい!!」
あたしはもう堪えきれず、大声で美男子に吠えた。
ああ、また涙が溢れる。
美青年は目を見張り、口が一度動くけど・・食いしばった。
「このあたしの、憤りがあんたにわかるか!!あたしにだって、生きる場所があったんだ!!」
かわいいおっとん。
あたしが落ち込んでいると、どすんと体に乗っかって。
ぶにゃーって鳴いて。
あたしに似てない弟が、あたしとおっとんを見て笑う。あたしとおっとんが双子だって。
ああ、弟を置いてきた。
両親はもういない。あたしと10も年が離れていて。
弟が、ヒデが一人ぼっちになってしまった。
あの家に、おっとんと弟だけだ。あたしが帰らないと、心配しているだろう。
「還せ!!」
弟のところに帰らなくちゃ。まだ弟は高校生だ。まだあたしが守ってあげなくちゃいけないんだ。
あたしは美男子の服を引っ掴んで揺さぶるが、微動だにしない。
体格が違うのは分かっていても、あたしは怒りで八つ当たりをするばかりだ。
「還せぇ・・・うわああああぁぁ・・・」
そしてあたしは慟哭、大声で泣いた。
両手で顔を覆い、よろよろとしゃがんで体を丸め、嗚咽を漏らして、もう動けない。
「すまない・・すまない・・」
背中を覆う温もりに、抱きしめられているのだと気付いて、体を駄々っ子の様に揺さぶるけど解けなくて、わああと声を上げて手を噛み付いて、でも腕は解けなくて。
暖かさに甘えたくなくて、ただただ泣いて・・・
いつしか寝てしまった。泣き寝入りだ。何と恥ずかしい。
目覚めても食欲も無く、ベッドで上掛けに全身をくるまりじっとして過ごす事3日・・・
ハンストです。ここを動かず、じっとしています、が・・・
喉が渇いた
お腹がすいた
この世界の何もかもに、助けてもらいたく無い
でも死ぬほどの根性もない
死んで意地を張るか
いや
今は屈辱だが、生きる事を考えよう
弟に会うために
おっとんに会うために
悔しいが、耐える
あたしはベッドから這い出し、立ち上がると、朝運んでくれた食事を覚悟して食べる事にする。
よもつへぐひ・・・
ああ、もう水だけは飲んだか。結局、あたしはこの世界を受け入れざるを得なかったか。
テーブルの食事を凝視していると、ドアが開いて美男子が入ってきた。
「ああ、やっと起きたか。ようやく食べる気になったか」
文句を言おうとすると美男子が笑顔を見せるから、ぐぬぅと喉が鳴って言葉が引っ込んだ。
何を笑ってるんだ・・もう。
あたしは目の前の食事に手を伸ばすが、美男子が手を掴んで止める。
「新しい食事を食べろ」
「でもこっちはどうするの、もったいない!」
「私が食べる」
「え」
「おっとんが食べなかった物は、私が食べていたから安心しろ。勿体無い事は私もしない」
「そ・・あんたが責任持って食べるんならいいけど」
この美男子は召喚のメンバーの一人であるとは思うんだけど・・・名前を知らないけど聞く気はない。
「そうだ忘れてた」
「?」
「私はアルティス。この国の第1王子だ」
「んがあっ!!聞かないつもりだったのに!!」
「ははは!さあ、食べよう」
「一人で食べますから!王子殿下はこんなところで食べなくていいですから!」
「ほら、断食してただろう。きちんと食べなさい」
「ぐぬぬ」
「さあ」
椅子を引かれ、優しく座らせられてあたしは美・・殿下を睨んだ。
こいつは敵だ・・・敵なんだから。
食い物で懐柔しようとする酷い奴なんだから。
ぱく。
柔らかいパンと、優しい味のスープが五臓六腑に染みた。
食後、あたしは殿下から召喚の理由を聞くこととなった。
「我がマジェスティ王国はこの世界で一番の大国で、全世界を掌握し統治している。魔物や天変地異を未然に探知し、人民を守る為には大いなる力が必要だ。百年に一度、聖女を召喚して力を授けて戴いている」
「勝手だなぁ・・・あたしたちの都合を考えてない」
「ああ。本当に・・遺憾だ」
「コラー殿下ーー、口だけだぞー。誠意を求めるーーー」
「誠意とは・・おっとんの世界への帰還か?」
「当然」
「だが・・もう一人の娘、江川純香は此処に残ると言っている」
「え!!!うそっ!!!」
ああ、あの子は若いから冒険だなんて呑気に考えれるのかな・・
あたしはそうじゃない。今も戻りたくて堪らないのに。
殿下はあたしを見つめる。何その表情。読めない・・・
「この世界の暮らしが楽しいそうだ。おっとんは思えないのか?」
「楽しいって?冗談でしょ。あたしは還るわよ」
王子は俯いて・・言おうとして言えず、そんなふうに口が何度か小さく動いて・・やっと言葉を吐き出した。
「・・・戻れないと言ったら?元の世界には戻れないと」
殿下の言葉に、あたしは呆然として・・・頭の中がくらくらとして、目眩がして・・・
「危ない!!」
椅子から崩れ落ちる寸前、殿下があたしを受け止めた。
あたしは全身の力が抜け、指を動かす事さえ出来なかった。
「・・・還れないのぉ?殿下ぁ・・あたし、やっぱり戻れないの?」
「すまない・・・」
殿下があたしを強く抱きしめるけど、もう振り解く気力も無い。
「弟が・・弟が一人になっちゃったよぉ・・・日出生が、ヒデが・・ヒデが・・・ごめんね、ごめんね・・お姉ちゃん、あんたをひとりにしちゃったよぉ・・・」
両手で顔を抑え、涙と泣き声を抑えるけど、隙間から涙も嗚咽も溢れる。
ああ、やっぱり。還れないんだ・・・おっとんにも会えないんだ・・・
「おっとん、本当にすまない。私が支えるから」
殿下の言葉にうんと言えるほど図々しい性根では無い。
心ならずとも、お世話になるんだ。やる事はやろう。あたしの出来る事ならば。
殿下はあたしが泣き止むまで、ずっと抱きしめて慰めてくれた。
優しい殿下だね。いい王様になるだろうね。
そんなわけで。
あたしは少しは魔法が使える様なので、積極的に勉強をする事にした。
働かざる者食うべからず、は我が家の家訓!
そうして・・
この世界に来て3ヶ月が経つ頃には、あたしもちょっとした魔法が使える様になっていた。
食生活や環境の変化のせいかな?ストレスとかも関係しているかも。
ふくよかだった体型もいい感じにスリムになった。
侍女さんやメイドさんとも仲良くなって、あたしの服とかあれこれ構ってくるのだ。
「おっとん様、このドレスはどうでしょう」
「ローブばかりお召しにならず、ああ、お待ちください、おっとん様!」
「や〜〜めぇ〜〜〜てぇ〜〜〜」
魔法を使い、脱兎逃げる!!シュバッ!!
あたしは魔法で弟と交信出来ないものか、研究をする事にしたのだ。
還れないならせめて一言でいい、話だけでも・・
お姉ちゃんはね、弟が大学に行ける様に貯金してたんだ。
銀行じゃ無いよ、へそくりだよ。
家の鴨居にこっそり隠してたんだ。それだけでも教えたいんだ。
あたしは最近のお気に入り、図書室の窓際で魔法書を読み耽る。
そこに殿下がやってきた。・・そろそろくるとは思っていたんだよね。
「また逃げられたと侍女が言っていたぞ」
「あ、殿下。またお越しで。暇なんですか?」
「君はどうしてそう憎まれ口を」
そしてくすくす笑うんだけど・・・
「何しにきてるんですかねぇ」
「私にだって休憩は必要だよ。おっとん、きみはお茶の相手だ」
「本読んでますからお相手出来ませんよ〜」
んーーーー・・・
視線を感じるぅ〜〜〜。あたしをガン見ですか?殿下・・
・・・・
あーーもうっ!!!
「集中出来ないですけどっ!!」
殿下を睨めば、視線が合って。
にこ。
何を笑ってやがる・・・
「集中が出来ないのを私のせいにしないでくれたまえ」
「むきいぃ」
「ほら、お茶を飲んで」
「はいはいーいただきますっ」
「君は勤勉だねぇ、おっとん。もう一人は遊んでばかりだ」
もうひとり・・・江川純香、ぴちぴちの女子高生。
ドレスを取っ替え引っ替え、宝飾品も買いまくり、騎士や文官にちょっかいをかけたり。
城勤務の騎士や文官は育ちがいいぼっちゃまが多い・・大半は婚約者がいたりする。
だから大問題だ。
現代日本の様に振る舞ったら拙いよね・・
『好きになってしまったんだもの!』理論は通用しないのが貴族社会。
婚約期間は清廉潔白に過ごすものだ。この大事な時期だけでもお相手を大事に出来ない人間は、お相手・友人・その他親族などに『信用』出来ないと烙印を押されてしまう。
だから関わらない様にしているのだが、なにせ聖女様だ。拒否して不興を買いたく無いので、対応に苦慮しているとか。
「あらまー」
贅沢と身分・地位を知ってしまったら、浮かれて調子に乗ってしまうものだ。
彼女はまだ高校生、あたしの世界では『子供』だもの。
「その点、君は貞淑のようだ」
「てっ?な、何をいうかなぁ」
貞淑って言われることって普段無いわよね。なんか、どきっとするなー。
ちら、と殿下を見るとまだ私を見つめて微笑んでいる。なんやーその甘い顔はー。もー勘違いするぞー。
手で眼鏡をつい弄ろうとして・・指が空振りした。
そうなのだ。魔力が増えて、メガネが必要無くなったのだ。
ついでに言えば、体型もすっきりとしてきた。驚くべき事に、身長がアラサーになったのに伸びているのだ。
だから最近、物凄く不安だ。
まさか、あたしが聖女なのかって。
えー。あたしはアラサーで、ちびでぽっちゃり・・
違う。
身長が155センチになってるし、体重も減って、ウエストも54センチになっている。メガネも無し・・
聖女って、体型まで変わるの?
こんな姿じゃ、日出生もおっとんも、あたしとわかってくれない・・
この世界に来て半年。
突然あたしの髪が・・金色に変色した。
召喚された時は、ボブカットだったあたしの毛は肩甲骨に届く長さになっていて。
朝目を覚ましたら、キラキラと光る糸が顔に掛かっていて、手で払うけどまたさらりと流れる。
邪魔だとばかり、掴んで引っ張った。
「痛っ!!・・え?」
手につかんでいる金色の糸、それはあたしの髪だったのだ。
な、なんで?何が起こったの?何が、な、な・・・
「きゃあああああああぁぁ!!」
あたしは頭の中が真っ白、体をガタガタ振るわせて・・・
「おっとん!!大丈夫か!!」
殿下が駆け付けて、あたしを抱きしめてくれて、ようやくあたしは正気を取り戻した。
「で、殿下、髪が、髪が」
「ああ・・・綺麗だよ。綺麗な金髪だ」
「こんな頭じゃ、日出生もおっとんもあたしって分からない!身長が伸びて、体型も変わってきて・・分かってもらえないよ・・・」
「泣かないで。おっとんが分からないって、君は本当はなんて名前なんだい?」
バレた。
だからなんだって言うのよ、今更・・・
もういい。もうバレたって、隠したって意味が無い。
「瑞穂・・安芸瑞穂・・」
「ふぅ・・おっとん・・いや瑞穂。名前を偽っていたのかい?」
「名前は知られてはいけない、そう思ったから・・」
「慎重だね。それでこそ相応しい」
「?」
「やはり君が聖女だったんだ。金髪になったのが証拠だ」
なん・・だ、と・・?
「え・・・?あたしはただ巻き込まれただけじゃ無いの?」
殿下は優しく微笑んで説明をしてくれる。
「召喚された者は、大なり小なり聖女になる素質を持っている。瑞穂は真剣に学んだが、あの娘は遊んでばかりでちっとも魔法を扱うことが出来ない。彼女には、学ぶ期限というものがあることも教えておいたのだがな」
「え?あたし、それ聞いてないよ?」
「瑞穂は正しく聖女だし、きちんと学んでいたからね。この世界に来て半年以内にきちんと学べば、君と同じく金髪になり、聖女として才能も開花出来たんだが・・元の世界の体とこの世界で出来た体の均衡が、この世界の方が大きくなった時点で終了、その後学んでも聖女にはなれない」
「それって・・・よもつへぐひ・・・」
あたしの言葉に、殿下は目を瞬かせて笑った。
「そうそう、それだよ。よく知っているね、さすが瑞穂だ。君のいうところの『巻き込まれた』のは、あの娘の方だから」
「ええ?でもあたしはアラサーで平凡で」
「歳なんか関係ないよ。最初から、私は君が聖女だと分かっていた。でも君が本当の名を言わないから色々手間が掛かったけれどね。どうしてそんなに頑なに自分は聖女でないと言っていたの?」
「だ、だって・・・あの子の方が若いし、可愛いし、スタイルも良いし」
「君も綺麗だと思うんだけど?」
綺麗というか・・聖女だから身長も、体型も、髪型も変わったんだ・・・あたしが聖女・・・
今あたしは殿下の腕の中だが、いつもの様に暴れるのを忘れてぼーっとしていた。
ふと、気になった事を殿下に聞く。
「ねえ、殿下。聖女って何をするの?」
「まあ、詳しい事は落ち着いてから説明するよ、今はゆっくり休むと良い、おやすみ瑞穂」
あたしをベッドに寝かせ、殿下は行ってしまった。
あたしが聖女って・・・うそぉ・・・
そうだったの??えええ???
混乱する頭の中は真っ白、目が回って・・
寝落ち、しちゃいました。
殿下side ********
聖女を召喚。
これは大体100年置きに行われる。
我がマジェスティ王国がこの世界を統治して既に1000年。
これだけ長く世界を統治出来ているのは、聖女を召喚し、王家に嫁いでもらい、その力を子孫に継承させているからである。
私アルティスも例外無く聖女を娶るため、召喚室で未来の妻を待っていた。
「お越しになります!」
魔法使長が声を発した瞬間、魔法陣が床に現れ大きく拡大・・
煌めく魔法陣中央に、人影が現れた。
魔法陣の光が収まり、人影は人の姿を現し・・・
「聖女殿を召喚に成功したぞ!!」
と、喜びの声・・が、それはすぐに収まった。何故なら・・
「な、何!!ふたり、ですって?」
「どういうことだ?!」
召喚室にいる魔法使いたちがざわめき出した。
妻として迎える聖女はひとりでいいのだ。なのに、ふたり?
私は二人に視線を向ける。
ひとりは少女。この国の成人は16歳、多分そのくらいだろうか。
もうひとりは背が低い、そして年齢は・・・不明?
顔は童顔、ふっくらとした肢体、胸も大きめ、ならば子供ではないだろう。
不思議なものを顔につけている。ガラスを何かの枠に嵌めた・・・
見たことがないな。どんな容姿か分かりにくい。後で取って見せてもらおう。
「きええええええええぇぇぇ・・・」
・・・吃驚。
いきなり大声で絶叫。
それはそうだ、いきなり知らないところに来たのだ、驚いただろう。
体を丸め、床に伏せる彼女の体がほんのり光を帯びているのを見て確信した。
聖女は彼女だ。
なんだろう、胸が熱く高まる。
私の、私だけの番なのだ。
「殿下、こちらの娘は」
「丁重に持て成せ」
もう片方の娘が私をチラチラ見ているが、聖女で無い者に愛想を振り撒く気はない。
さっさと他の者達と一緒に連れ出させ、私は聖女と二人きりになった。
私は生まれる前から、聖女を娶るのが運命付けされていた。
ちょうど100年の区切りに生まれた王家の男の宿命だ。
別に不満は無かった。王侯貴族の婚姻などそんなものだと理解していた。
女遊びをしたければ、自由に出来る身分だ。
正妻を蔑ろにしない程度なら、誰も文句は言わない。
現に我が父であり、現国王も寵妃を4人囲っている。
女同士の争いは、本当に醜い。
私はこんな環境だったから、どうにも女が苦手だった。
・・・別に男色ではないぞ?
王城には王家代々の肖像画が飾れている回廊があって、当然代々の聖女様も描かれて飾られている。
聖女は皆美しい金髪で、顔の造形も美しい。究極の美。だが、驚く事に皆同じ姿形だ。
聖女になると、皆元の姿では無くなってしまうのだ。
気持ち悪いと思う者もいるだろうが、私はその姿に恋してしまった。3歳の時に初めて見初めてから、もう聖女以外心を揺さぶられる女はいない。
今目の前にいる彼女も、聖女になったら肖像画の聖女の様な風貌に変化する・・そう思うと喜びが身体中を駆け巡る。
だが・・
おっとんは私を睨んで大粒の涙を零す。
お前が憎い。目がそう伝えてくる。
森か荒野に捨てるつもりだろうとか言い出し、ついには『還して』と叫ぶのだ。
涙で濡れた顔に付いているヘンテコな物をそっと外すと、潤んだ瞳からぽたぽたと涙が次から次へと滴る顔が現れた。
真っ赤に染まった頬も涙でべしょべしょに濡れ、だけど眉はキリッと吊り上げて、私を睨んでいる。
こんな目で睨まれた事など、一度もなかった。
意志の強い、眉と瞳に計らずも私の心は射られたのだった。そして、心を占めていた聖女の姿は四散した。
おっとん・・・きっと偽名だ。変な名前だしな。
彼女は元の世界に、弟を残してきたと言った。
年が離れた未成年の少年だそうで、心から心配をして泣いた。
でも還すわけにはいかない。彼女は聖女で、私の番なのだから。
日々のんびりと過ごすことが出来ないおっとんは、魔法を習い始めた。
魔法の力で、なんとか弟と交信出来る様にならないかと努力をする姿を見るにつけ、私も頑張ろう、そう思った。
私を嫌っていたおっとんだが、徐々に聖女としての片鱗を見せる様になっていく。
背が伸び、身体つきも変化していく様になったのだ。あの肖像画の聖女へと変化し始めたのだ。
「聖女って、体型まで変わるの?こんな姿じゃ、日出生もおっとんも、あたしとわかってくれない・・」
小さな声でぽつりと呟いて、また涙を零して・・
ここで彼女が偽名を使っていたことがバレたわけだ。
やっと本名が分かった。これで儀式を進める事が出来る。
それから・・遂に彼女は苦渋の選択をした。
この世界に残り、聖女として生きると。
ああ、よかった。私の側にいてくれる。いや離す気はなかったけれど。
・・・実は・・・元の世界に帰るのは簡単な事だ。
だがそんなことを教えようものなら、瑞穂は帰ってしまう。
だから教えるわけにはいかない。婚姻式を済ませ、私の番になるまでは、ね。
きっと憤慨してしばらく口を利いてもらえなくなるだろうが、なあに。
弟君と再会すれば、機嫌は戻るだろう。よければ弟君もこの世界に来れば良い。
ああ、そうだ。あの迷惑な小娘。
本当はさっさと元の世界にお帰り頂きたかったのだが、還れる事を瑞穂に知らせるわけにはいかなかったので我慢して滞在させていた。そろそろちょっと別荘に遊びに行ったとか瑞穂には嘘を言って、とっととお帰りしていただく事にしよう。
最近あの娘の素行には目も当てられない。
その点、我が番、本当の聖女は真面目で貞淑で、本当に好ましい。
瑞穂を召喚してそろそろ一年・・
この世界に来た当初の反抗心も治り、私にようやく心を開いてくれて・・
今ではすっかり蜂蜜色の髪となった瑞穂は、未だに私が側に立つだけで顔を真っ赤にして照れるのだ。
初々しくて本当に可愛い。ついついちょっかいを掛けてしまうのだが、度を越すと、
「きええええええええぇぇぇ・・・」
あの奇声を上げて逃げてしまう。まあ逃さないけど。
瑞穂の名前を神殿で奉り、聖女として神々に認めて頂いた。これでようやく瑞穂を娶る事が出来る。
数ヶ月前から求婚し続け、やっと数日前に承諾してくれた。うん、頑固だ。
今だに『いいんですか?あたしなんかが、殿下の妻になっちゃって!』なんて言っているのだから・・
既に聖女の力を覚醒していると言うのに、全く。瑞穂は自己評価が低すぎる。
まあ、そこが良い所でもあるのだが。
「瑞穂」
今はすっかり歴代聖女の姿になった彼女を呼ぶと、
「アルティス様」
こちらに振り返り、大きな琥珀色の瞳が私を射抜く。
ああ、なんて綺麗なのだろう。聖女の美しさは、瑞穂が歴代ナンバーワンだな。
顔は満面の笑顔、頬は薔薇色で、両腕を広げて駆けてくる彼女の体を抱きしめて受け止める。
いつか・・私と瑞穂の子がこの国を納め、更に安寧な世の中になっていくだろう。
婚姻の儀式が済んで暫くして・・
怒りでコテンパンにされる事を覚悟して、瑞穂に還れる事を伝えたところ、
「知ってたわよ」
と返答された。
なんでも聖女をあの娘にしたい一派がいて、還れる方法を教えてきたそうだ。
こっそり弟君のところにも戻り、事情を説明もしていたとか。
なんということだ・・
元の世界に還れたのに、また戻って来てくれたのか。
「還れる方法を知っていたとはね」
「そーよ。何かあったら、また還っちゃうからね!」
「何だい?それって・・私のところにいたかったから、戻って来た・・そういうことかな?」
「ぐぬぅ・・・」
真っ赤な顔で、瑞穂は上目使いでこちらを見る。おやおや、本当に瑞穂は愛らしい。
ああ、良かった。
私は愛されて、望まれて結ばれたのだ!!
こんな喜ばしい事はない!!
短編だけでも90以上ある。笑う。
ここに投稿するようになって、早一年!これからもぼちぼち上げていきます〜。