1-6 さよならなんて言わせない
何やら頭が重い。
何だろう?昨日は確か、朝から町に降りると言う話で、ヨミさんも一緒に·····で、何故か朝から『魔族』についての話になって、その後、町に降りて警備隊長さんや奥様方や町の人達といっぱいお話して、町長さんのお家でお昼ご飯をご馳走になったんだ。楽しかったなー。
それから、それから····················ああ、そうだった。思い出した。
町が盗賊に襲われて、そのせいで町が燃えてて、僕の力が暴走しちゃったんだっけ。
··········嫌だな。起きたくないな。でも起きないと。二人にちゃんと伝えないと。
そう決意した僕は、重い瞼をそろりと開けて──。
ぬっ。
「っ?!うわあぁぁぁあ!!」
いきなり黒い物体に襲われ飛び起きて壁際に後ずさった。
「きゃはは!いい驚きっぷりー」
バクバクバクっ!
跳ねる心臓を抑えながら、しっかりとその正体を確認する。
そこに居たのは、真っ黒な──【双頭の鴉】。
僕はポカンと口を開けて、その鴉をじっと凝視する。
「おはよー!アルル!てかもうとっくに昼過ぎてるぞー。お寝坊さんだなー」
「え?あ、うん。おはよう。え?あ、もうお昼過ぎちゃったんだ?て、え?てか、誰?」
僕は絶賛混乱中です。
僕の事知ってるっぽいし、何処かであったっけ?そんな筈ない。こんなキャラの濃い子、出会ってたら早々忘れそうにないし。
双頭の鴉の(右側の)子が、そんな僕の様子を見て可笑しそうに目を細めている。
しかし、次の瞬間──。
むんずっ。
「こーら。アルルちゃんをあんまからかうんじゃないの」
ヨルさんが、双頭の鴉を持ち上げていた。
「別にからかってねぇーよ!つか、離せよ!このカマやろ、ぐぇっ!」
「お早う。アルルちゃん」
「あ、うん。おはよう、ヨルさん」
今、双頭の鴉から聞こえてはいけない声が聞こえたんだけど、良いんだろうか?
「今、フェンは『魔獣』を狩りに·····と、丁度戻ってきたみたいね」
その言葉と同時に、扉が軋んだ音と共に開かれた。
「·····何をしている?」
入って来て早々、フェンの眉間に皺が寄る。
僕は布団から壁際で固まり、ヨルさんはまだ双頭の鴉を片手で鷲掴んでるし、その双頭の鴉は何処と無くグッタリしてる気がする。
えっと、大丈夫かな?
僕がそんな事を考えてると、フェンがこっちを向いて僕と目が合った。
「·····目が覚めたか。食事は食べられそうか?」
いつも通り、僕の大好きな澄んだ青い瞳が優しく細められる。
そう、いつも通りに·····。
僕が呆けていると、フェンが「どうした?」と首を傾げて聞いてきたので、僕はヘラりと何とか頑張って笑顔を作って「何でもない」と答えた。
昨日の事は夢?ううん。そんな筈ない。
あまりにも二人がいつも通りで、そんな気になってしまったけど、あれが夢な筈がない。
あの感覚は昔に一度経験してるもの。だから、ちゃんと覚えてる。あれは間違いなく、昨日起こった現実だ。
だから、僕は逃げちゃ駄目だ。ちゃんと二人と向き合って、ご飯を食べ終わってからでも伝えよう。
そう僕が心の中で改めて決心し、自分の事で手一杯だった時、フェンとヨルさんが二人で何やらアイコンタクトをし、双頭の鴉の二対の瞳がじっと黙って僕を見詰めていた事に、この時の僕は気付いてなかった。
「改めて!オイラの名前は『フギン』で、コッチのボーッとしてるオイラの相棒が『ムニン』ってんだ!ヨロシクな!アルル!」
僕が食卓に着くと、復活(?)した双頭の鴉が自己紹介をして来た。
「あ、初めまして。僕はアルルです。·····知ってるみたいだけど。えっと、『フギン』と『ムニン』?は種族名?」
「いんや、違うぞ?オイラ達二羽は、所謂『変異種』って奴さ。ちゃんと、別の種族名はあるけど、オイラ達みたいな双頭の鴉は、オイラ達だけ!唯一無二なんだ!だから、オイラ達はそいつらとは無関係だぜって意味で、お互い名前を付けたんだ!」
「へぇー、面白いね?」
「だろだろ?アルルお前話分かんなー。大体の奴はこの話すると、バカにすんだぜ?基本『魔物』は名前なんか付けないかんな。ま、『魔物』で喋れる奴なんて、この二人みたいな“上位種”とか、あとは余っ程長生きした『魔物』くらいだろうしなー。この前なんて、ゴブリンに話しかけたらさー·····」
僕はクスリと笑った。
どうやら右頭の鴉──フギンは、お喋りさんのようだ。
「·····出来だぞ」
「あ、ありがとう。フェン」
フェンが目を細める。
その後も、フギンの話は続いていたが、途中でうるさいとヨルさんの手で再び聞こえてはいけない声がして握り潰されていた。
良かった。最後のご飯がこんなに楽しくて。フギンとムニンのお陰だね。後でお礼言わないと。
このフェンが作ってくれたご飯だって、今日で終わりなんだ。しっかりと味わって食べなきゃ。
そんな僕を、三対の瞳がじっと見詰める。
「ん?何?」
「·····いや、美味しいか?」
「うん!とっても!」
「·····そうか」
僕はいつもよりも時間を掛けて、ご飯を食べたのだった。
それでも、やはり終わりは来て──。
「·····ご馳走様でした」
とうとう、食べ終わってしまった。
まだ名残惜しさはあるが、いつまでも引き伸ばしておく訳には行かない。
僕は食器を流し台に持っていくと、それをしっかりと綺麗に洗い、再び椅子に座り直す。
大きく息を吸って、心を落ち着かせる。
そして、口を開いた。
「あのね、二人に大事な話が·····」
「あ!そうだわ!アルルちゃん!釣りってした事ある?」
しかし、僕の出鼻はヨルさんによって挫かれてしまった。
「え?!し、したことない·····けど?」
「そう!なら丁度良かったわ!今からしに行きましょ?」
「え?今から?でも、僕大事な話が·····」
「こう言うのは、思い立ったら吉日、よ!善は急げ!さあさあさあさあ!」
「えぇ?!ちょ、まっ」
いつになく強引なヨルさんに、僕は戸惑うばかりだ。
フェンに助けを求めようと彼を見ても、どうやらフェンも一緒に行くようで、扉に向かっていた。
「お?面白そうだな!オイラ達も着いて行くぜ!」
こうして、何故か突発的に全員で釣りをする羽目に。
向かった先は、ヨルさんの寝所。初めてヨルさんと出会った場所だった。
どこからともなく、ヨルさんが釣り道具一式を取り出して、僕に説明しながら渡してくれる。
「いい?これが『釣竿』で、『餌』は多岐に渡るけど、簡単に説明するわね?主に『疑似餌』や『練り餌』や、または『小エビ』や『小魚』や『ミミズ』とかも使用するんだけど、時には捕まえたい魚によっても変わってくるから·····」
「ふむふむ」
僕は真剣にヨルさんの説明に耳を傾ける。
「それと、針は危ないから、投げる時はなるべく周りに居る人に気をつけるのよ?素人は、態々遠くに飛ばす必要はないの。何事も堅実が一番」
「「成程」」
いつの間にか、フェンも僕と同じに、ヨルさんの説明を真剣に聞いていた。
僕達はお互い顔を見合わせて、声を出して笑う。
僕は、ヨルさんに教えられた通りに、釣り針を海に落とす。
「いい?釣りってのは、のんびりするのもまた楽しみの一つでもあるのよ?焦っちゃダメ。心を落ち着かせて、ただ待つだけでいいの。一応、プロならそれなりのテクニックは要求されるけど、あたし達は素人なんだもの。そこまでは必要ないは。だから、ゆっくりのんびり、魚さんが餌に食いついてくれるのを待ちましょ?」
「はーい」
それから僕達は、思い思いに座ったり立ちながらだったりして、釣りをし始めた。
それから、少し経ってから、ポツリとヨルさんが語り出す。
「·····本当はね、あれこれ知ったかぶりをしちゃったけど、あたしが釣りを覚えたのはここ最近なのよ?」
「え?そうなの?」
「そうよ?当然でしょ?あたし元々『魔獣』よ?」
「あ·····」
そう言えばそうだった。
「一応これでも海の『魔物』だし、長生きもしてるから、勿論知識だけはあったわ。だけどね?私は元は、あんなかなりの巨体でしょ?そのせいで住める場所も限られてくるし、あまりその姿を人前に出せない。パニックにさせちゃうもの。だから、いつもは遠くから、ほんのちょっとだけ顔を出して見てるだけ」
「·····うん」
「そんな毎日に変化が訪れたのは·····アルルちゃん、あなたに出会ったからよ?」
「僕?」
海に向けていた視線を、いつの間にか僕に向けていたヨルさん。
その金色に光る瞳は、海のように穏やかで、全てを包み込むような優しさを含んでいた。
「アルルちゃんに出会って、あたしは世界が広がったわ。こうやって、興味のあった釣りも学ぶ事が出来た。
それにね、さっきのフギンじゃないけど、私もこんなんじゃない?男のくせに心は乙女、なんて言ってるけど、自分でも分かってるのよ?普通じゃないって」
「そんな事ない!」
僕は咄嗟にそう叫んでいた。
「ヨルさんはヨルさんだよ?寧ろ、普通の女性より女性らしいって言うか·····」
「ふふ。ありがとう。でもね、皆が皆、アルルちゃんみたいに思ってくれる訳じゃないの。一応“上位種”でもあるし、直接には何も言ってこないけど、目だけは雄弁に語ってくるのよ。『気持ち悪い』ってね。
フェンみたいに、興味無さそうにしてくる者も珍しいけど、アルルちゃんみたいのも本当に希少なの。
初めは、確かに『人間』になってみたいって気持ちの方が強かったわ。『人間』になったら、やってみたい事も山程あったし、実際『人間』になったらなったで、夢は更に広がったわ。
まあ、ちょっと色々しがらみも多くて面倒な事も多いけど、それらを差し引いても、今は今まで長く生きてきた中で、一番充実してる。それは本当」
「··········」
「そんな、本来ならあたし達が進む事が出来ない筈の道を示してくれたのは、間違いなく·····あなたのお陰よ?アルルちゃん」
「僕は·····そんな、事·····」
「ううん。そんな事あるのよ。自分を卑下してはダメよ?あなたはもっと自分に自信を持たなきゃ。私達の『お友達』なんでしょ?」
「っ」
「あたしは·····あたし達は、何一つ後悔していないわよ?あたし達は、あたし達自身の意思で、ちゃんとあなたと一緒に居たいと望んでるわ。
ね?フェン?」
「当然だな」
唐突に、後ろから暖かなものに包まれた。
「逆に其方は、我らと『お友達』になった事を悔いておるのか?」
フルフルと僕は首を振った。
喉が張り付いていて、言葉がハッキリと口に出せない。
瞳に膜が張って、ヨルさんとフェンの顔が滲んでしょうがない。
「私は、其方と共にありたい。この命尽きる、その瞬間まで。其方はどうだ?其方の偽らざる本音を聞かせておくれ?」
はくはくと、僕は何度も口を開いては閉じて、呼吸を整えてから絞り出すように声を出した。
「ぼ、くも、おなじ·····」
漸く出せたのは、そんな拙い言葉。
二人にはそれで充分だった。
僕は、フェンの胸に埋まり泣いた。
多分、生まれて初めて、これでもかってくらい泣いた。
泣き出したら止まらなくなって、止め方も分からなくって、気付いたら、フェンの腕の中で眠っていた。
それでも、フェンはそんな僕をずっと優しく抱きしめてくれていた。
一応の補足として、フェンとヨルの事を、『最強種』だの『希少種』だの『上位種』だのと、言っていますが、勿論全て意味は同じです。人によって呼び名が変わってくるだけです。
『最強種』と『希少種』は、主に人間。特に『最強種』と呼ぶ人達は、彼らに畏怖や敬意を持ってそう呼びます。
『上位種』は、主に『魔物』側(?)ですかね。
それと、気付いてる人も多々おられるかと思いますが、アルルの『お友達』は、全て【北欧神話】で出てくる幻獣?神獣?をモデルにしております。
ですが、自分なりの解釈とイメージ(?)で当作品では描いてるので、名前だけ拝借してほぼオリジナルとなってる·····筈(笑)
因みに、当初は【ヘル】も出す予定でした。
だけど【ヘル】ってどこを調べても人の姿だし、一応この作品では【友達魔法】なんて言ってるけど、ぶっちゃけただの【魔物使い】だし(←おい)。それに、『魔物』が人の姿になるって言うのが、この魔法の一番の強み(?)みたいな所もあるので、ここでは半人半魔的なものを出すのは『今の所』予定はしていないので、結局【ヘル】はボツと言う運びになりました( ̄▽ ̄;)
他に聞きたい事とかあればお気軽にどうぞ。
本編の根幹に関わる所だと流石に無理ですが、作者が答えられる範囲であれば、お教えします。