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1-3 『魔族』と『勇者』

「アルルちゃーん♪愛しのお姉様がき・た・わ・よ♪ウフン」


 その直後、僕の傍を、何か赤い物が横切った。

 それは“火の玉”──恐らくフェンが放った《火球》だった。


 小屋が燃えるんじゃ?と一瞬思ったが、そんな心配は無かった。

 瞬時にそれは、ジュッと言う音と共に掻き消えたから。

 彼女(・・)が、同じく《水球》を作って消した。


「おい!危ねぇじゃねぇか!」


 その声から聞こえたのは、ドスの効いた声。

 先程の第一声に発せられた、甲高い声とは、似ても似つかない声だった。


「·····こんな夜も遅い時間に来る、非常識な者の出迎えなどこれで充分だ」


 その様変わりした声を聞いても、フェンは意にも返さず、逆に彼女(・・)を睨み付けて、尤もな事を吐き捨てるように言う。


「だって~、仕方ないじゃない?唐突にアルルちゃんに会いたくなっちゃったんだも~ん♪」


 そしてまた、甲高い声に戻る。

 それに、フェンの眉がピクリと上がる。

 このままでは喧嘩に発展しそうだったので、僕は苦笑して、フェンを宥めながら彼女に向き直った。


「こんばんわ、ヨルさん」


 彼女は【ヨルムンガンド】。僕は『ヨルさん』と呼んでいる。

 フェンと同様に、彼女もまた、この世界唯一無二の“希少種”だ。


 今は人の姿(・・・)で、フェンと同じくらいの長身で、光沢のある青黒い長髪をリボン(・・・)で一つに括り横に流していた。


「あ~ん♪やっぱ、相変わらずカワイイわ~♪」


 そう言いながら、僕は硬い胸(・・・)に抱きつかれた。

 “彼女”は“彼”。生物的に言えば、一応『男』である。

 しかし、本人は自身を『乙女』だと豪語してるので、僕もそれに倣って彼女を女性として扱う。

 前の世界──『魔界』でも、彼女のような人は居たしね。

 そこでは、彼女みたいな人を『おネエ』と呼んでいたけど。


「ねぇ?そろそろウチに来る(・・・・・)気になったかしらん?」

「駄目に決まってるだろう」


 すかさず、僕はフェンの腕の中に。


 彼女との邂逅は、僕のほんの何気ない一言から始まった。


『そう言えば、フェンってこの世界では唯一無二の希少種なんだよね?他には居ないの?フェンみたいな人』

『さて、な?()るかもしれんが、特に興味は·····否、居ったな』

『え?』

『昔にたった一度だけ会った事がある』

『へぇ~、どんな子だろ?ちょっと気になるね?』

『·····会いに行っても良いが、かなり(やかま)しい奴だぞ?それに、まだそこに居るとは限らん』


 最初、フェンはあまり乗り気ではなかった。それでも、僕の好奇心は刺激され、フェンも渋々ではあったけど連れて行ってくれた。


 向かった先は、僕達が住んでる山から数時間──フェンの脚で──程の海だった。

 その海に向かって、フェンが声を掛ける。


『おい、ヨルムンガンド、()るか?』


 暫くの間があってから、突然海面が盛り上がったかと思うと、そこから出てきたのは、光沢のある青黒い鱗の『大蛇』。しかも、フェンよりも何倍も大きい。


 僕がポカンと見ていると、その大蛇がキョロキョロ辺りを見渡してから、その大きな口を開いた。


『あら~?おかしいわね~·····確かに懐かしい気配がしたと思ったんだけど?』


 と、言いながら首を傾げた。

 そこから飛び出した言葉は、その大きな巨体には似つかわしくない、可愛らしい声だった。


 それから、フェンに漸く気付き、フェンの人の姿に驚き、僕の存在に気づき、僕の“能力”を教えると、自分も!と言って聞かなかったので、フェンにもした、『幾つかの約束事』をお願いしてから、僕達は『お友達』になったのだった。


 二人は、僕を挟んでまだギャーギャーと騒いでいる。と言うよりも、一方的にヨルさんが騒いでるだけだけど。


「あ、そうだ。明日、久し振りに町に行くんだけど、ヨルさんも一緒に行く?」


 喧嘩を止める為にもそう聞いたんだけど、それを聞いた二人の顔は対照的だった。


 片や眉間に皺を寄せて嫌そうに。

 片やパァと嬉しそうに顔を輝かせて。


「本当?!行く行く!絶対行くわ!あ!こうしちゃいられない!あたし準備してくるから、もう帰るわね!じゃ、また明日~♪」


 そう言って、ヨルさんは手を振りながら速攻で帰っていった。


「·····何をしに来たのだ?奴は」


 はぁーと、大きな溜息をつきながら、フェンが愚痴を零す。


「あはは!ヨルさんて面白いよね?」

「·····(かしま)しいだけだ」


 僕は苦笑した。


「それよりごめんね?勝手にヨルさん誘っちゃって」

「·····構わん。ほら、そろそろ寝るぞ。明日起きれなくなっても困るだろう?」

「うん!」


 僕とフェンは、一つしかない布団に入ると、寄り添うように眠った。






 翌日──。


「おっはよ~♪朝よ~ん♪」


 遠くの意識の中で、ヨルさんの声が聞こえた気がした。


「·····早すぎるだろう」


 フェンが、呆れたように大きな溜息をしている。


「あらん、そうかしら·····て、アルルちゃんはまだお眠なのかしらん?」

「·····昨夜(ゆうべ)誰かのお陰(・・)で夜更かししたからな」

「·····そう、ダレカシラネー」


 何か、棒読みっぽい。


「んん·····」

「·····目が覚めたか」

「·····んにゅ」


 流石にこれだけ騒がしければね。

 けどまだ眠い。

 僕は目を擦りながら、大きな欠伸をした。


「ほら、顔を洗うと良い」

「ん、ありがと·····」


 桶の中には、恐らくフェンが魔法で用意してくれた冷たい水。

 布団が濡れるといけないので、何とか這って布団から抜け出し、顔を冷えた水で洗う。


「·····ぷはっ」


 少しは眠気が引いた。


「うふふ。アルルちゃんもまだ子供ねぇー」


 ヨルさんが、そんな分かりきった事(・・・・・・・)を言いながら、僕の頬っぺをうりうりとついてくる。


「むぅ。確かに僕はまだ二千年程度しか(・・・・・・・・)生きてないけどさ·····」

「「は?」」


 何故か二人が、僕の言葉を聞いて同時に固まる。


「?どうかした?」

「いやいやいや!え?二千歳って大人じゃないの?!てか、『魔族』ってそんな長生きなの?!」


 ああ、と僕は頷く。

 僕は二人が何にそんなに驚いているのか分からなかったけど、ヨルさんの驚きの声で漸く理解した。


「うん、そだよ?より『人間』に近い『魔族』ならその限りじゃないけど、大抵の『魔族』は『魔力』の“保有量”で寿命が決まるんからね。

 大体二十歳くらいまでは、普通の『人間』と変わらず成長するけど、そこからピタリと成長も止まる。それは、あらゆる面(・・・・・)で。それこそ『魔力量』も。

 だから、それまでに『魔族』は『魔力』を増やしたりして、自らを鍛え上げとくんだ。


 そんな中でも、僕はこれでも一応『魔神の子供』だからね。僕自身は実際大した事無くても、それでも他の『魔族』達とはやっぱ少し違う。

 二十歳まで成長して、そこで成長が止まるのは変わらないけど、例えば初めから、『魔力』の保有量がずば抜けて高かったり、その『魔力』も二千歳から五千歳まで成長する。それは、その人の才能?にもよるから、何処まで『魔力』が伸び、何処まで強くなるかは分からないけど。


 但し、ある日を境に、何故か急激にそれらは衰える。その理由は、はっきり言って分からない。『魔神』だからとしか言えない。

 そこで、我こそは!って言う、自分の力に自信がある『魔族』が(こぞ)って『現魔神』に戦いを挑むんだ。まあ、大抵は結局『魔神の子供』なんだけどね。『現魔神』を万が一倒せたとしても、すぐに倒されては本末転倒だし。

 そんな訳で、『魔族』の中でも、『魔界』を統治するのは最強(最凶)と言われる『魔神』ではあるけど、一応ちゃんと“世代交代”だってあるんだよ。


 実際、あの男(・・・)だって、五万年くらい長生きしてるんじゃなかったかな?

 だから僕は一応二千歳だけど、『魔族』全体から見れば、まだまだひよっ子もいい所なんだ。

 僕より長生きしてる人なんてざらだし」


 僕は、フェンが用意してくれた、野菜増し増しの大きなサンドイッチを食べながら話す。


「ほへぇ~·····何だか、話に聞く限り、『魔族』って案外強そうなのね?この世界にも稀に『魔族』が現れるけど、何かあんま強そうに見えなっかったけど·····?」

「そうだな。私も、あの程度なら問題ないと思ったものだ」


 モグモグゴックン。


「ああ、僕も聞いた事あるけど·····この世界での“伝承”だと、『魔族』が現れたら『勇者』を送り出すんだっけ?

 最初はこの世界の『勇者』を、その人が勝てない場合は、次に“異世界”から態々“召喚”して·····だったっけ?」

「そうそう」

「んー·····それを聞いた時も、僕からすれば違和感しか無かったんだけど·····正直言って、二人はその『勇者』っての見た事あるの?どうだった?強そうだった?」


 モグモグ。


「そうねぇ~·····言われてみれば、それ程でもなかったような?戦いを挑まれた事もあるけど、普通(・・)に勝てたし?」

「私もだな。正直、あれが『勇者』だとは疑わざるおえない」


 ゴックン。


「そうだね。二人の力は、確かにあっちの『魔物』でもトップクラスの実力を持ってるけど、やっぱ『魔族』全体で見れば、良くても上の下って所かな?尤も、『魔族』もピンからキリまで居るからね。僕の見解で、凡そこんなもんだって言う感覚だから宛には出来ないと思うけど」

「あら、そうなの?」

「·····ふむ」

「うん。そんな訳で、そんな二人に弱いと言われた『魔族』。いくら“召喚”されて一般的な『人間』より強くても、そんな『勇者』に倒される『魔族』。そこから考えても、自ずと答えは導き出される。


 それは、皆が知ってる『魔族』は、多分『魔界』の中でも“半端者”と呼ばれる人達だと思うよ?」


 僕は「ご馳走様」と手を合わせてから、お皿を流しに持って行った。


「·····“半端者”」

「うん。さっきも言ったと思うけど、『魔族』の中には『人間』により近い種族もいる。

 彼らは、『魔族』では下の下もいい所。だから主に彼らみたいな『魔族』を“半端者”って呼ばれるんだ。·····まあ僕自身は、そんな相手を軽視する言葉は嫌いなんだけど。


 そんな彼らでも、やっぱり『魔族』としての本質は変わらないらしくってね。上を目指したいって言う本能?欲?、か分からないけど、どうしても何か·····誰かを支配して自分が上位の存在になりたいって思うみたいなんだよ。

 そんな人達が、時折世界を渡って異世界に降り立つ。

 尤も?本当の『魔族』としての矜持があるなら、態々そんな事をしたりしない。偶に面白半分で“召喚”に応じたり、自ら異世界に渡って暇潰しに世界を掻き乱すような人達もいるけど、基本的には『魔族』は皆が“強者”に立ち向かって、そんな“強者”に勝つ事が何よりの(ほまれ)だと思ってる連中が多いんだよね。


 ·····まあその気持ちも、僕自信には理解し難いけど。


 そんな訳で、態々界まで渡って“弱い生き物(人間)”を殺しまくる意味がわからない。それなら、『魔界』で“強者”に挑む方が余っ程有意義。(ちゅう)以上の『魔族』なら、間違いなくそう言うね。

 だからこそ、ちょっと一般的に強くても、『人間』にやられる程度ならたかが知れてる。

 てか、まともな?『魔族』がこの世界に来てたら、こんな世界あっと言う間に一貫の終わりだし?」


 一応ではあるけど、『魔族』である僕が言うのもなんだけどね、と最後に付け加えておく。

 二人が何やら考えているようだったが、そろそろいい頃合いだと思い、僕は話を打ち切る。


「さて!長々と話しちゃったけど、そろそろ町に降りようか?お昼は町長さん宅でまた(・・)美味しいお昼ご飯食べさせてもらいたいし!」


 僕がそう言えば、二人も心得たとばかりに出掛ける準備をした。

 ヨルさんはスキップでもしそうな程喜んでるし。


 行く時になって、ヨルさんもフェンの上に乗せてもらおうとしたが、フェンが嫌だと言って、それでもヨルさんは乗せてと腰をくねらせウィンクしてお強請りして、それでもやっぱりフェンが嫌だの一点張りで·····僕が止めるまでそれは続いて、可笑しくて笑ってしまった。


 町に着けば、門の所で警備隊長さんに大歓迎された。


 因みにこの警備隊長さん、僕達が初めてこの町に降りた時に対応してくれた門番さん。


 そんな警備隊長さんに頭をグリグリと撫で回されて、フェンにその手を叩き落とされたり、フェンが奥様方に囲われ、ヨルさんがそんな奥様方の輪に入ってキャッキャウフフと話していたり、【ハンター協会】──主に『魔物』を狩ったり『薬草』採取を専門にする所──でフェンが狩ってきた『魔獣』を売って換金したり、お昼になって、僕が望んだ通り、町長さん宅で全員で食事をしたりと、慌ただしくも楽しい充実した一日を、その日は町で過ごしたのだった。


 そんな毎日がずっと続けば良い。そう心から思った。

 けど·····分かってた筈なのに。

 現実はいつも無常で、夢はいつか覚めるもの。


 そう────知ってた筈だった(・・・・・・・)のに。


 その日の夜、すっかり疲れ切っていた僕は、早々に布団に潜って寝た。ヨルさんは、自分の寝床(・・)に戻って行った。


 深夜、何時頃かは分からない。けど、何やら胸騒ぎがした僕は、布団から飛び起きると、慌てて外に飛び出した。


 麓──町の方角を見れば、そこには“朝焼け”が·····。

 違う。あれは·····


 僕は考えるより先に、駆け出していた。

 後ろの方で、フェンの呼び止める声がした気がしたけど、そんなの構ってられない。

 すぐに追いついてきてくれた狼姿のフェンの上に跨ると、僕達は急いで町に向かった。


 町は燃えていた。

 あちこちから、逃げ惑う人々の悲鳴や怒号が飛び交っていた。

 さっきまで笑っていた人達が、泣き叫び、怒り狂い、命乞いをしては、そんな彼らを嘲笑って下賎な連中(・・・・・)が皆を殺して行く。


 目の前が真っ赤になって·····いく。


 ──駄目だ!気をしっかり持て!

 ──落ちるな(・・・・)呑まれるな(・・・・・)

 ──僕はあの時(・・・)とは違うだろ!二人を守らなくちゃ(・・・・・・・・・)


 ──感情を表に出し(・・・・・・・)ちゃいけないんだ(・・・・・・・)


 そう自分に言い聞かせるも、徐々に心が“闇”に侵食されていくのが自分でも分かった。

 遠くでフェンに呼ばれた気もするけど·····分からない。


 ただ耳鳴りがする。吐き気がしてくる。僕の意思に反して、僕の中で何かが蠢いているのが分かる。

 ここから出せと叫ぶ(・・・・・・・・・)


「··········めて」


 僕の口から、知らず知らずの内に、弱々しい声が紡がれる。


「·····めて·····めて·····やめて·····やめてやめてやめてやめてやめてやめて·····っやめろーーーーーーー!!」


 瞬間、僕の中で蠢いていた何か(・・・・・・・)が·····歓喜(・・)と共に吐き出された(・・・・・・)


 そこからは、正直言って記憶が曖昧で覚えていない。

 視界の端で、フェンと、いつ来ていたのか分からないけどヨルさんと二人が、炎の中に飛び込んだ気がする。

 そんな二人の後を、ふらりと着いて行って、何か喋った気がするが分からない。

 誰かに、いつも通り(・・・・・)優しく抱かれた気がするが、分からない。


 それから、いつの間にか僕は小屋に戻ってきていて、僕はぽつりぽつりと過去の話(・・・・)をして、疲れ果てて泥のように眠ったのは覚えてる。


 誰かに優しく頭を撫でられている。

 もう僕は、あの日常には戻れない。

 それがまるで他人事のように感じられた。


【補足】

この世界に一応『勇者召喚』はあります。

今後出すのか?出さないのか?は今の所未定ですが、彼らのお陰(?)もあって、それなりに此方の世界は発展しています。

「頂きます」や「ご馳走様」も、当然彼らが始まりです。

ですが、『魔界』でもそう言う地域?種族?もあり、(殆どの『魔族』はしていませんでしたが)アルルはお行儀良く(笑)前からやってましたけど。

ここでは、あまり詳しく話しませんが、『魔界』は案外異世界の入り交じった知識があります。


あと、【ハンター協会】は、やる事は【冒険者】みたいなものですが、基本的に地元(拠点)から、滅多に動きません。

つまり冒険をしないと言う事です。殆どがその地に居を構えてやってます。

稀に『護衛依頼』も受け持ちますが、終わればすぐに戻って来ます。

拠点を変えて引っ越したり、旅行?とかは別ですが。

なので、案外顔見知りが多かったり、仲間内との結束とかがかなり強かったりします。

因みに、最初に町に降りた時に、屯所でアルル達を囲ってた人達もまた、地元のハンター達になります。


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