プロローグ
──『お前達を、これから十三の世界に転生させる。そこで、どんな手段を使っても構わん。武力だろうが頭脳だろうが。兎に角、お前達の持つ力を最大限に活かし、その世界を手に入れて見せよ』──
それが、あの男の最後の言葉。
僕は、魔神の十三番目の末っ子として生まれた。
正直言えば、僕の『魔力』は十三人の中では最弱。寧ろ、『魔界』全体でも真ん中辺りかな?
まあそこで、『魔神の子らしく』あれとか何とか·····そんな事言われて育ったけど、僕はきっと、その『魔神の子らしく』はなかったと思う。
いつも兄弟達にも、『出来損ない』って言われ、虐められて馬鹿にされてたし。
けど、それを悲観した事は一度もない。
僕は、あんな風にはなりたくなかったし。
そりゃ、最初は認めてもらいたくって、好いてもらいたくって、それなりには頑張っていたと思う。
だけど、僕には無理だった。兄弟達のようには出来なかった。
僕の“能力”は、兄弟達曰く『貧弱能力』らしいから。
でも、この“能力”は僕の誇り。
“能力”の覚醒は、その人の『気性』や『心根』などで決まる。簡単に言えば、『性格』に依存される。
本来弱者は魔界では生きられない。
最悪、実の親に食われるか殺される。
そんな僕が、何だかんだと言われながらも今まで生かされていたのは、ある事がきっかけだったからだろう。
そのある事のお陰で、あの男は一応僕にもそれなりに期待はしてたんだと思う。·····嬉しくないけど。
まあそんな訳で、僕は兄弟達同様に、何処か知らない世界に転生させられ、今に至ると言う訳。
そして、僕は、今現在進行形で、絶体絶命のピンチに陥っていた。
僕が転生させられ、放置されたのは·····何と、鬱蒼と生い茂る森の中。
えー?って思ったよ。僕今、赤子の姿なんだけど?何?赤子だろうと魔神の子なら生き延びて見せよって?相変わらずの鬼畜っぷり。流石魔神。略してサスマジ(わらえねぇー)。
どうすりゃいいんですかね?僕今動けませんし。
そんな事をつらつら考えていれば、叢が突如ガサリと蠢いた。
僕はビクッとして、そちらをじっと見詰める。
すると、そこから出てきたのは──大きな狼。
晴天の空のように澄んだ青い瞳。陽光にキラキラ反射して輝く金色の毛。そして何よりも、凛として堂々とした佇まい。
そのあまりの美しさに、僕は一時自分の現状を忘れ、見蕩れた。
その後すぐに思った事は、(あれ?僕食われる?まあ彼みたいな子に食べられるなら本望か)だった。
僕の心は凪いでいた。
もうずっと、“意識的”にそうしてきたら、自分でもどうかってくらい、ちょっとやそっとじゃ動じなくなってしまった。
別に気にしないけど。
痛いのは嫌だけど、こんな僕にだって矜恃くらいはある。死ぬ間際まで、出来れば醜態は晒したくはない。
だから、こう言った場面では有難いとすら思っている。
しかし、僕の考えに反して、目の前の狼は僕を襲っては来なかった。
その澄んだ青い瞳を覗けば、まるで僕を観察するようにじっと眺め、そこには知性が感じ取れた。
あれ?これはもしかして·····僕の“能力”が早速役に立つかな?
駄目元で試してみるか。
そう思い立った僕は、その狼に向かって語りかけたのだった。