ストロング過ぎるロミオとジュリエット!!!~ウホッ!いい男!~
お待たせしました!
コロナ鍋に沈む日本の陰鬱な空気を笑いで吹っ飛ばすために、ストロングゼロ文学ここに再臨ッ!!!
動物園は今日も大賑わい。中でも人気はアマゾンから取り寄せた新種のストロングゼロである。
「オエエェ……オエエェ……」
体長500mlの寸胴な体を揺らして独特の求愛行動をすることで知られるこのストロングゼロであるが、人間による乱獲の影響で一時期は個体数が激減し絶滅危惧種に指定されていたこともあった。今では個体数も回復しこうやって動物園でも普通に見られる種になっている。
「パパ、見て! ストロングゼロが鳴いてるよ!」
きゃっきゃとはしゃぐ子供を抱きかかえ、パパはにっこりとほほ笑む。
「そうだね、あれはストロングゼロの求愛行動だよ」
パパはストロングゼロの檻の脇に立てられた看板に書かれている内容をそのまま読んで伝える。子供はきょとんとして聞き返した。
「きゅうあいこうどう?」
「あぁ、お嫁さんを探しているんだね」
「へー、じゃあ誰か好きな人がいるのかなぁ?」
「きっとそうだと思うよ」
「オエエェ……オエエェ……」
ストロングゼロは身を震わせながらプルタブをパカパカさせた。このプルタブがより立派であればあるほど、オスとして魅力的であるとされる。
ちょうどストロングゼロの檻と通路を挟んで向かい合うように、ゴリラの檻があった。メスのゴリラであるメスゴリラ(10歳)ちゃんがそわそわとナックルウォーキングしていた。熱っぽい澄んだ漆黒の瞳を向かい側の檻へと投げかけている。恋する乙女なのである。
「ウホッ! ウホホッ!」
そう、彼女は今、プルタブをパカパカして求愛行動をしているたくましいオスのストロングゼロにすっかり惚れてしまっていたのであった。種族の垣根を越えた、禁断の愛であった。
「オエエェ……オエエェ……」
「ウホッ! ウホッ!」
野生のストロングゼロは夜行性であるが、人工飼育されているものは環境に適応して昼行性になる場合が多い。この一缶も例に漏れず、昼に活動し夜にドリンクホルダー型の寝床で眠りにつく。
「オエエェ……」
ストロングゼロが独特の声で鳴くと、シュワッとストロングゼロが零れて頑丈な鉄柵にかかった。まるで叶わぬ恋のように、液体は泡立ってすぐに蒸発してしまった。
その夜。
静まり返った動物園。
「ウホォ……」
メスゴリラちゃんの小さな声が聞こえている。彼女は何かを待っていた。檻の中で身じろぎもせず、瞳を輝かせながら。
「オエエェ……」
カン。
カン。
アルミ缶が鉄柵に体当たりをする音が鳴っている。もちろん動物用の檻はお客さんの安全を考慮し相当頑丈に作られている。ストロングゼロがいくらストロングであっても、体当たりで壊せたりはしない。
「オエエェ……オエエェ……」
しかし。
パキッ。
意外なことにあっさりと、鉄柵のうちの一本が土台部分との接合点から折れて外れた。生じた隙間に体を押し込んで、ストロングゼロは難なく檻から外へと飛び出してしまった。
何故、こんなことが可能だったのか。実は彼は毎日毎日、少しずつストロングゼロを鉄柵の土台部分に染み込ませることで鉄を酸化、つまり錆びさせていたのである。そして夜毎鉄柵を揺らして徐々に土台部分を脆くしていったのだ。今宵、遂に彼の目的は果たされたのである。
アルミボディを勇ましく揺らしながら鈍色のロミオが駆ける。目指すは愛する黒光りのジュリエットの居城だ。
「オエエェ……」
「ウホッ! ウホホッ!」
メスゴリラちゃんが鉄柵の隙間から太い腕を目いっぱい伸ばした。
ゴリラ用の檻は安全を考慮して通路側の手すりとの間に広く溝が掘られていて手が届かぬように設計されている。ストロングゼロは手すりに飛び乗り、その勢いのまま、中空へと跳んだ。
「オエエェ……ッ!」
「ウホォ!」
冴え冴えと月光が二人を照らす。回転するアルミ缶を今、メスゴリラちゃんがその手に掴んだ!
刹那、悲劇は起こった!
プッシャアァーッ!!!
500キロを優に超えるとされるゴリラの握力が、アルミ缶を一瞬のうちにベコベコにひしゃげさせたのである。彼女は興奮のあまり、力加減を間違えたのだ。
空にキラキラと輝きを放ち、ストロングゼロの命は泡と消えた。
おしまい。
面白かった、続きが読みたい、と思われた方は是非とも評価等お願いします。
面白くなかった、腹減った、etc……、と思われた方も是非とも評価等お願いします。
また、ストロングゼロ文学は1作品を除きすべて短編でキチッとお話がまとまったシリーズです。本作を読んで興味を持って頂けた方、是非ともシリーズの他の作品も読んでみてくださいね!