お茶会
06: お茶会
料理同好会とガゼットの顔合わせは、つつがなく終わった。というか、ガゼットからしてみれば配下の無茶を受け入れてくれたことのお礼が主目的だったので、同好会側は拍子抜けしたようだった。
さて、場所は変わらず料理同好会の活動室。しかしすっかり片付けられて、簡単なお茶とお菓子の準備がされている。ロミオが整えたお茶会の会場というわけだ。
「ユヴェール殿下、ガゼット・ラザフォートを紹介します」
「お初にお目にかかります、ユヴェール殿下」
その場に跪き挨拶をすると、ユヴェールから席に着くよう促された。一礼して席につくと、ユヴェールの目がじっとガゼットを見ている。
「……名前さえ知られていなかった西方辺境の子どもと、学園で会うことになるとはな。ユヴェールだ」
「父が、辺境伯がいつか話してくれましたが、大変な剣の腕前であるとか。エッセは鍛錬の相手になりましたか」
「相手どころか、こちらが焦る剣士だ。何度かともに来ないかと声をかけたが、既に主はいると断られてしまった。…今の状況を考えると断ってくれてよかったが」
やや空気が重くなった事に誰もが気がついたが、ガゼットは気にしない事にした。仕事は早く終わらせるに限るからだ。
「その件ですが、おぞましい事にあっさりと鞍替えをして全員まとめて他へ行ったとお聞きしました」
「……その言い方はやめてくれ、彼らは」
「今や、弟君の従僕であるとか」
「……」
「失礼を承知で申し上げています。忠誠を誓い、それに相応の応えがあったにも関わらず、主を変えるとは、どんな顔で今仕えているのやら。召抱える方の気もしれない。一度した事を二度しないとは限らない」
「随分と毒を吐く」
「正道邪道に関わらず、筋を通さず進める事を好みません。邪道を行くなら忠誠を誓うべきではない」
ユヴェールとガゼットのやり取りを、ロミオが静かに見つめている。ロミオがガゼットに求めるのは、ユヴェールの友人としての立場などではない。それは最初から承知である。
「俺は殿下の家臣ではありませんが、殿下に忠誠を誓うロミオ様の友です。ですから無理矢理にでもお力添えをいたします」
「無理矢理にでも、とはよく言ったものだ。いったいなにをするつもりだ? この学園に人脈があるとは到底思えない」
「まずは、守り手、それから身の回りを整える者が必要でしょう」
「お前が人を寄越すと? 信用できると思うか」
「ええ、ですから人を寄越すのは大神殿です」
苛立ちを見せていたユヴェールが目を丸くする。言葉を失ったユヴェールに変わり、ロミオが口を開いた。
「エルクイードの大神殿?」
「はい。あそこ、預かった人の中から希望者を募って、そういった事を教え込むんですよ。自立のために」
「初めて聞いたな」
「公にはしてないんですよ。しばらくお世話になっていた時に教えていただきました」
「そうか。……殿下」
「……なんだ」
「ガゼットは偽悪的で嘘だって付きますが、今回のことについては簡単に言えばこうです、『一人は危ないし心配だから、信頼できる味方で周りを固めなさい』」
「……」
「それは私の意見でもあります。大神殿ならば問題はないでしょう。一言、そのようにしろとおっしゃってください。……さもなくばマキューシオを」
ロミオの低くなった声に、ユヴェールが肩を震わせた。マキューシオの方はやれやれという風に溜息をついている。
「……ガゼット・ラザフォート」
「はい」
「見返りを求められても、今の俺ではなにも差し出せない」
「はい」
「それでも」
「関係ありません。俺はロミオ様が心配だし、殿下の元部下の方が気に喰わない。どうされますか」
「……頼む、友の身を危険に晒してまで張る強情はない」
「かしこまりました。そのようにさせていただきます。それまではエッセをおそばに」
「おい、それは」
ガゼットは最後まで聞かず、席を立った。エッセはその場に残り、ルーナだけがガゼットに続く。
「失礼致します」
「ラザフォート!」
ガゼットは立ち止まらず、そのまま部屋を後にした。