ロミオとマキューシオ
03: ロミオとマキューシオ
「元気そうだね、ガゼット殿」
「ロミオ様も。お声がけくださり、ありがとうございます。いやはや、あまりにも煌びやかで困り果てました」
「真っ白だと光を反射して痛いよね、目が」
くすくす笑う金髪碧眼の少年の名はロミオ・モンタギュー。公爵家の三男で、ガゼットの故郷である辺境へ静養に来た事をきっかけに知り合った。三男ではあるが魔術の才があり、公爵家は継がずとも宮廷魔法使い入りは確実だろうと噂されている。マキューシオは公爵家に仕える騎士の息子であり、ロミオの護衛として幼い頃からともに行動しているのだという。
「でも嬉しいな、ガゼットも同じ学園に通えるなんて。マキューシオと話していたんだよ、一度なんとか連れてきて、通うよう説得してみようかって」
「要らん心配だったな。よく考えればガゼットが辺境以外を知らないままでいるなんて有り得ないだろうに」
「遅かったのは自覚があります。他の辺境領の方々は中等科より通われているとか」
「そうだね、私は交流がないのだけれど、お姿は知っているよ」
やや奥まった食堂の席は、周りに誰もいない。というより、ロミオとの距離をはかりかねて誰も寄ってこない。ガゼットはおかげで二人と随分話がしやすかった。
「ホッとしているね、ガゼット」
「……いかんせん、立ち位置に迷います。顔を知られていない分、目立っているようで」
「私と対面で話した事はすぐに広まるよ。貴族達はそれで慎重になるだろうね。でも、付き合う相手には気をつけて」
「というと、ユヴェール殿下の」
「それがあるから余計にね。殿下は一つ学年が上で、中等科よりこちらに通われているけれど、年が明ける前と今とでは随分状況が変化してしまったから」
「驚いたぜ。側仕えまで外されてる」
「は?」
マキューシオが完全に呆れて言った言葉に、ガゼットは目を丸くした。王太子ではなくなったとは言え、一国の王子である。その侍従がいなくなるなど聞いたことがない。
「護衛は?」
「いないんだよ、これが」
「嘘でしょう、前代未聞ですよ」
「うん、王宮も騒ぎになっているらしい。度が過ぎているとね」
「それで、ユヴェール殿下は」
「朝お会いしたんだけれど、芳しくない。私とも距離を置かれようとしている。……私の立場を考えてくださっての事だろうが、承服しかねる」
「ロミオ様」
「それでね、ガゼット」
にっこり微笑まれ、ガゼットは「あ、やべ」と内心で呟いた。この三男坊、身体が丈夫になってきた事と比例して、だいぶ強かになってきている。これは逃さないという顔だ。
「ユヴェール殿下と会ってみてくれないかな。どうするかは会ってから決めてくれればいいから」
「…ロミオ、そりゃいくらなんでも強引」
「ガゼットが気にいる類の方だよ、保証する」
「……会ってくださるでしょうか?」
「任せて」
「ああもう、わかりましたよ」
ロミオに苦笑いを返して、ガゼットは降参だと両手をあげる。
「詳しく決まったら伝えるね。…ところで、あそこで待っているのはエッセとルーナ?」
「来ましたか」
「エッセのやつ、去年の夏と冬には見かけなかったが、どこかに修行にでも行ってたのか?」
「あー、あはは」
食堂の入り口を振り返ると、杖を持った女子生徒と、帯剣した男子生徒の姿がある。ガゼットほどではないが二人とも赤髪で、男子生徒のほうはその髪が燃えているかのように威圧感を放っていた。
「……ガゼット、エッセがお怒りのようだけど」
「あいつは一つ年上なので、去年の春に騙くらかして高等科に入学させたんです」
「え、そうだったのか? …気がつかなかったな」
「俺も会うのは一年ぶりです。いやぁ、怒ってますね!」
「行っておいで。夕飯は五人で食べたいな」
「はい、是非」
席を立ち、入り口へ向かう。頼もしい従者と護衛が、ガゼットを待っていた。