悪党ガゼット・ラザフォート
02: 悪党ガゼット・ラザフォート
ヒグマと森の中でばったり出くわして、その豪腕の右ストレートを頭に受け即死。それが前世の最期である。なお、なんでそんな山奥に入る羽目になったのかはよく覚えていない。気がつけば真っ白な空間で、真っ白な人影をいくつも前にして立っていた。
いわく、勇者の存在を未来で確立させるため、王太子暗殺からエルクイード国が属国になることは必須であること。
いわく、従者の名前が書き直せないことから、別の人間を新たに書き加えて下手人にする必要があること。
いわく、予期せぬ加筆修正により周辺の時代がかなり不安定になっており、下手人は大まかな流れを意識した行動が必要であること。
いわく、これらを説明したところ今まで五十八人に断られており、自分で五十九人目であること。
どうも、条件に当てはまる人間がもうおらず、別の世界で死んだ人間である自分が声をかけられたらしい。
そりゃそうだろう、どんなに素晴らしい人生になったとしても、王太子暗殺後は無事では済まされないし、なにより誰かを殺す事が最初から決まっているのだから。
だが、結局のところ自分は了承をしたのである。なぜ了承したのかはよく覚えていない。これでなんの証拠もなければ完全に危ない人間である。ところがどっこいガゼット・ラザフォートとして生まれた自分は生まれた時に神官より『使命を持って生まれた子』と預言され、かつガゼット自身が何度も御使と呼ばれる天上の存在から訪問を受けている事は、神殿上層部では有名な話である。まさか内容が暗殺計画に向けての打ち合わせとは思うまい。
そんなわけで、ある意味最初から何のために生まれたのかわかっているガゼットは、二つのことを肝に命じている。
①ガゼット・ラザフォートは悪党である。
②ガゼット・ラザフォートは暗殺を成功させる。
とはいえ、生まれたのはいずれ王太子が逃げてくる辺境の地。今まで出来たことといえば心身の鍛錬と勉強、そして地元での人脈づくりくらいのものだった。つまり国の中枢付近での進学こそ、ガゼットの暗殺計画下準備の、本格的な開始を意味するのである。
誰がどうやって歴史を加筆修正したんだとか全く分かっておらず、なんならそれも探しつつの綱渡り状態なので、ガゼットはとにかく信用できる人間で周りを固めたい。ロミオの入学式での挨拶を聞きながら、心の中で拳を突き上げる。
目指すは立派な悪党、おそらくは正義感から歴史を書き換えた人間への大反撃である、と。