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魔紅色


戦闘許可オーバーシスを要請する!」


 アースとしての出力つよさは魔素の適合率で決まる。個人技能や特技にもよりけりだが、アースとして引き出せる純粋な強さは、魔素を保有できる器の大きさによってほとんど決まると言ってよい。


 対応可能な在野最高Flameは10とされ、それを超えると大抵のアースは『飲まれる』といわれている。


「まずは様子見の〜〜……狙撃弾射出ショット!」


 Flame解放によって引き出された器の大きさはアースによって変わるが、実際に内包する魔力の多さは『魔紅色』と呼ばれる瞳の赤さによって判別できるのである。体内に内包する魔素が映し出され、眼が赤く見える現象だ。


 より内包魔力が高くなれば、髪や肌などにも変質が見られる場合もあるが……大抵は目の色で分かる。つまるところアースとしての強さは『魔光色』の濃さで判別できるということである。


「早い! 速度に特化しているぞ!」


「落ち着け、姿が見えなくとも……森田!後ろだ!」


 戦闘許可オーバーシスは、人の枠を超えた力を行使するがゆえに、それを制限するために設けられたもの。私利私欲に力を払わせぬようにアース全員には腕輪がはめられているのである。


「わかっている!『氷葬』!」


 中でも彼らは高い解放段階とその行使許可を与えられている。六人のアースで構成された隊で名の通り速攻を得意とし、一人一人がFlame6を解放しているため、隊としても高い実力を持っている。


 当然、彼らの眼は紅く濃く染まり、高い戦闘能力と魔力を自在に行使できるアースなのである。


「くっ、早すぎる!」


「術式展開! 『動体視鋭敏化』!」


 ────が。


【遅い。あまりにも遅すぎる】


 最上級魔獣種は、それを凌駕する。


「ぐあっ!」


「森田!?くそ、動体視力を強化したのに見えない」


 そしてまた一人。さらに一人。

 敵影が見えないのに切り傷が増えていく。


「『回復光』!」


 攻撃を受けている状況で、回復魔法を行使するのは愚行だ。真っ先に潰される対象となる。


「馬鹿野郎! くっ!」


 隊長が吠えるも弾き飛ばされ、狙い襲われる。


「させっかよぉ!」


 間一髪、工藤が放った魔弾の連射によって、魔獣の足を止めることができた。そして、魔物に近接して確実に討伐するべく工藤は突貫した。


「よくも仲間たちを!」


「突っ込むな!俺たちは今、遊ばれているんだぞ!」


 はっ、と標的に目を向けた時はすでに遅し。

 すれ違いさまに斬られていた。


【もう終わりか、アース】


「────く」


 戦闘開始から約3秒。隊長を除いて第三対魔速攻隊が壊滅したのである。


【ハァ、この程度で私を排他するとは……理不尽極まりない】


 突然の速度に混乱し、瞬時の判断力が低下することも計算に入れた動きだった。急行した隊とはいえ、ここまで一方的に壊滅させるほどの魔獣が突如と現れることは奇妙だ。


 それにマルコシアスは半獣型の魔物ではない───


「まさか───」


 魔獣の正体に気づいた直後、すれ違うように魔獣は隊長の背後へと歩み出した。


 ワンテンポ遅れて、隊長の肩から血が噴き出した。


【つまらん、実につまらない。私が直接手を下すまでもなかったね】


 頭を振ってため息を吐きながら、倒れた隊長を失望の目で見下した。そして、待機させていた銀魔狼シルバーウルフを呼び寄せる。


【行け、お前たちだけで第十対魔防衛支部を滅ぼせ】


 肯定の吠え声が返り、嘲笑に歪む半獣の魔獣はゆっくりと歩を進めた。


◇◆


 広々としたシェルター周辺には不安な声が行き交っていた。それもそうだろう。今ここには戦闘経験のない若い生徒ばかりが集められ、収容されるのだ。


 核耐性設計をベースに、魔法結界を常時展開して魔物の攻撃から生徒や国民を守っているのだ。魔力の供給が断たれると丸一日しか結界を維持できないが、その間だけは、どんな攻撃をも弾く最も強固な収容シェルターになるといえるだろう。


「あれがシェルターなんだ」


「なんだ、入ったことはないのか?」


「シェルターのないところに住んでたからね」


「………シェルターがないところ?」


 うん、と肯定の頷きが返ってくる。今いる日本国民はほぼ全員、シェルターがある町や都会に集まり、アースたちによって守られている。


「森の中にあった孤児院の出身なんだ。この町には面白いものがたくさんあるんだね」


「ここ、おもしろいもの、たくさん、たのしい」


 肩からアナトが覗き込んでくる。

 彼女も同意見のようだ。


「……なるほどな」


 そこで、ユウは誰かを探すように顔を動かした。

 アナトも同調してキョロキョロと周りを見ている。


「あれ、ルナは?」


「うー、いない!」


 アナトを肩車にして探してみるも、夜神ルナの姿が一切なかった。


「まさか、外に? だったら助けに行かないと!」


「いや……自分の意思で行ったな」


 言ったろ、と言葉を続ける。


「バルキリーを単騎で倒したとな。その時も勝手に抜けて、一個隊を壊滅させた竜に挑みかかったんだ」


「……なんでそんなに焦ってるんだろう」


「そりゃ───、憎しみだろ。アースたちは誰しもそれを抱えている。己の世界を脅かされて何も感じないわけじゃない。俺も、お前も、魔物に対しては滅ぼすべきものだと考えている」


「…………」


「特に、あいつはその意志が強い。いや、行きすぎているとも言えるか。夜神ルナにとって全ての魔物が不倶戴天の敵ということだ」


 ひらひら、と手を振りながらアレンはその場から離れ、別の列で先生に叱咤を受けて大人しく並んだ。


「……あのひとも、こわい」


 背中にしがみつくアナトは、意図せず放ってしまっていたアレンの殺気にあてられて怯えていた。服に顔を埋めて怯えるアナトに「大丈夫だよ」と頭を撫でながら微笑むユウの顔はどこか悲しそうだった。

 

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