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戦いは突然に始まるものだ


 本野アレンの報告を受けて学園は森の調査を開始した。それに伴い森へ入ることは禁止された。森での対魔実戦は一時中止になり、室内の訓練のみとなった。


 校内では銃をなくした際の対処方法を学ぶ体術の実践や、魔物の虚像ホログラムを使用した実技が主流で必須授業でもあるのだが、選択授業に剣や刀による戦い方を学ぶ『剣術』がある。


「あんたもこの授業を選んでるのね」


「うん、僕の主武器メインウェポンは剣だからね」


 カンカン、と学園から少し離れた場所にある道場で木刀を持って手合わせをしていた。稀ではあるが完全な人型の魔物も存在するため、対人訓練も取り入れているのだ。


「ふぅん……それよりもその子を降ろさないの?」


「なんか離れたがらなくて……」


 ユウの背中にセミのように張り付く幼女がいた。先日に森で発見した謎の幼女アナトなのだが、学園に引き渡そうとした途端に泣き出してユウの背中に引っ付いたのだ。


 剥がそうにも想像以上の万力で引き離せなかったのだ。無理に引き離すわけにもいかないとその時は諦めたのだが、今度は何やら拗ねているようで寝る時以外はずっと背中に張り付くようになった。


「……まあいいわ。それなりに剣は使えるみたいだけど、あなたのことは認めないわ」


 ぎこちないが、動作と剣捌きは実戦でも通用する域に達している。そのうえ美麗とも呼べる剣筋は、まるで風のように自然で軽やかなものだった。


 生半可な訓練で辿り着けるものではなかったが、芯が見えない。神崎ユウという人なりが感じない。それが気に入らないルナだった。


「そっか、嬉しいよ」


「えっ?」

 

 だって、と木剣を握りしめて続けた。


「小さい時から剣ばかりだったからね。これだけは自信を持てるものだから認めてくれて嬉しいよ」


「……ふん!」


 ぐうの声も出なかった。

 とはいえ、気に入らないのは事実だ。


「ゆーにぃ、なんかへんなかんじがする」


「変?」


 自身も周りも特段変わった様子もない。剣術の授業を受けているアースも少なく、巌のような顔の師範が刀を立てて指導をしている。怪しい人物もいない。


「うーーっ!」


 いきなり怯えるようにしがみつかれる。


「どうしたの……」


 すると、突然、空気が息重苦しくなった。


【ウオォーーーーーーーーーーーー!!!!】


 直後、狼の遠吠えが空間を震撼した。


《警告。学園付近の森に《異界シス》が発生しました。原因と思しき魔物は上位魔獣『銀魔狼シルバーウルフ』です。詳細は依然不明ですが、生徒は速やかにシェルターへ避難してください》


 ワンテンポ遅れて、異域速報が脳内に響いた。


「お前たちは学園地下へ向かえ。特に夜神ルナ、いくら強くてもまだ生徒ということを忘れるな」


 名指しで注意されたルナは木刀を握り砕いて、込み上がってくる怒りを堪えていた。


「……っ、分かっています」


 ここまでの怒り。尋常ではない。

 過去に何かあったのだろうか。


「アイツ、一回避難勧告を無視して最上級魔獣種と戦ったんだよ」


「うお、アレン? どうしてここに?」


 肩を組み寄せながら忽然と現れるアレンだ。


「この辺に拳闘士モンクの道場があってな。そっちから様子見がてらに来た」


「えっ、こっち来ていいの?」


「いやまぁ、こっちにいても結局シェルター行きなのは変わりないし別にいいだろう」


 つまり抜け出してきたと。


「うー、だれ?」


「僕の友達だよ。アレンっていうんだ」


「ともだち」


 そう言って、じぃ、とアレンを怪しげな目で見た。


「ありゃ、嫌われたかな?」


 取られると思ったのか、ユウの首を抱き締めながら己が所有物だと出張している様子。


 ユウはというと、幼女に思い切り首をキメられ「しま、締まってる」と必死でギブアップしていた。


「……アレン、何をしに来たの? 冷やかし?」


「いやいや、そんなつもりはないぜ」


 ちっ、と大層不機嫌なルナは避難する方へと向かっていった。実力があるとはいえ、飄々としている約三名が気に入らなかったのだ。


 るな、こわい、と言ってアナトは背中の服をぎゅっと握りしめた。


「……アレン、最上級魔獣って?」


「そうだったな。アイツの当初のランクは低かったが……最上級魔獣種───『戦鬼竜バルキリー』を単騎で討伐したのだ。それが功績として認められて今のランクになったんだ」


「バルキリー……」


 魔獣種の中で『竜』を冠する魔物は大抵最上位の強さを誇る。高い魔力を内包し、あらゆる攻撃をはね返す鱗、一足一挙が地を揺らす膂力、年齢を重ねた竜は人間よりも高い知恵を持つ魔物だ。


 普通は単騎で勝てる魔物ではない。


「おい、何をしている!早く逃げろ!」


 先生の怒号に肩を震わせて、早足にシェルターに向かった。


◇◆


 学園付近。町に発生する異域を監視する《第十対魔防衛支部》が慌ただしく動いていた。その異域の原因を突き止めるべく観測機器を全開に走らせていた。


 そこに丁度、念話による目視報告が届いた。


「斥候アースが標的を発見したと念話が来ました!報告によると銀魔狼シルバーウルフではなく、それを従えている半獣型の狼人間が発生源とのこと!」


「位置特定。魔力観測───推定最上級魔獣種です!現在、異域を展開している模様!」


「この辺りに魔物が出現すること自体が珍しいというのに……最上級だと?」


 この辺りは学園や町の安全を守るために異域の発生を抑える封魔結界を常時展開している。魔物にとっては不利な領域だともいえる。


「前例がないわけではないが……封魔結界を一瞬で突破して魔物が突如と現れるなんてあり得ない」


 バルキリー。約二ヶ月前に出現した最上級魔獣種なのだが、それでも予兆はあった。結界を少しずつこじ開けて展開した異域に顕現した形だったため、備えることはできたが、今回は違和感がありすぎる。


「まるで予め用意してたような(・・・・・・・・・・)……」

 

 そこへ呼び寄せる準備が予め出来ていたような状況だ。ええい、考えても仕方ない、と事件釈明は後にし、撃退するための作戦立案に思考を切り替える。


「斥候アース! 標的の魔物コード名は分かるか!?」


 少しお待ちください、と観測は集中した様子。暫くして今回の異域の原因たる魔物の正体が判別した。


《恐らく───『獄炎狼マルコシアス』です》


「マルコシアスだと!?」


 魔力の反応からして間違いないです、と確信の返答が返ってきた。


 マルコシアスは魔狼を束ねる将であり、地獄の炎を吐く大狼で、背中には大きな翼も生えているため対空にも強い厄介な魔獣である。


 ただ過去の事例によると半獣型の狼人ではなかったはず。環境に適応して姿形が変質したということも考えられるが……ひとまずは討伐してからだ。


《司令、もう一つ報告があります》


「なんだ?」


《討伐隊が今しがた到着した模様です。隊名は第三対魔速攻隊。隊長に念話を切り替えます》


 おお、と作戦室が騒つくなか、隊長の念話が響く。


《あーあー、聞こえるか?》


 警報が鳴った直後に出動させていた隊が到着したのだ。標的が不明な状態では危険も伴うが、幸い出現したのは森の中だ。人的被害を考えずに戦えると判断した上での出陣だった。


《あれが標的、ってことでいいか?》


「ああ、観測情報を総合すると最上級魔獣マルコシアスと出た。魔狼を統率する厄介な魔物だが、くれぐれも油断せずに───確実に滅ぼせ!」


《了解。皆、始めるぞ》


 到着した隊は各々に銃を構え、その力を解放する。


戦闘許可オーバーシスを要請する!》


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