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強き者、されど弱き者②


 真っ先に動いたのは、神崎ユウだった。その動きもさることながら、瞬時に状況を判断できる反射も学生のそれではなかった。


「東と西に魔力反応があった」


 腰の剣に手を添え、自然体でありながら臨時体勢に入ったのだ。


「魔力……? 私は何も感じないけど……」


 キョウコが頭を傾げるが、カイトはその方へ意識を向ける。


「本当だ。東には膨れ上がって行っているが、西は微弱ながらも反応がある」


 遅れて両腰から銃を構える。同時にどちらに向かって行くべきか判断を下す。


「東へ急ぐぞ! キョウコはいつでも捕縛できるように整えろ!」


 そう告げるとユウは鋭い足取りで前へと進む。キョウコだけ瞬時に状況を把握できず左右右往していたが、ばちんと頭に理解を叩き込むように頬に手を叩いた。


「……キョウコ、いけます」


 まだ生徒の身なれど、アースとして戦う道を選んだ以上、その覚悟はある。

 ここで切り替えができなくてどうする、と杖を握りしめた。


「始まったな。俺たちも急ぐぞ!」


 東方面に爆発が響く。何者かとナナとの戦いが始まったのだ。

 つんざくような風切音が窓を割り、巻き上がる嵐の中で発砲音が連続して聞こえる。


 ナナは本来奇襲型の銃士シューターだ。相手の意表を突いて弾丸を叩き込む戦法を取る。

 彼女自身、ランクも高い方だが、戦いが長引いているのは───攻めあぐねていることを意味している。


 予想通り、相手は人間……ないしアースであるということだ。

 ナナも必殺を得意とする戦い方であるため、無力化には長けていない。


 現に、発砲音も秒が経つたびに減っていく。万が一ということもある。フォーメーションの維持を意識して、速度を抑えている彼を先に行かせるべきだ、と廊下に駆けながらカイトは早々に指示を出した。


「ユウ、ナナが不利かもしれない。先に行ってくれ!すぐ追いつく!」


「分かった。行ってくるよ」


 より前姿勢になって廊下の先へ駆け抜けていく。


◇◆


 東方面───。ナナが交戦したのは銃を持った魔法師、隻足のアースだった。


 配備されていた警備員のうちのひとり、風魔法に秀でた魔法師であり、攻撃的な銃士でもある。そういう意味ではナナとは相性が良すぎた。放たれる断裂の風を掻い潜って弾丸をたたき込み、それをかわして風を纏わせた弾丸を返す。そんな切り返し合いを繰り返していた。


「埒が明かないわね!」


 相手は───宇垣トミ。

 学園の卒業生であり、在学時の最高位はNo.18だ。


 魔導軍にも所属したことのあるアースだ。若いながらも戦いの負傷で前線からは退役し、学園の警備員として配属された。軍としての活動期間も5年未満と短かったが、破竹の勢いで前線における中位以上の魔物の討伐数は50体をゆうに越している。


「邪魔をしないで!私は、こんなところにいるべきじゃないのよ!」


 勇猛果敢、そう讃えられるべきアースだが、今や見る影もなかった。完全に自分を見失っている。


「普通許可がないと戦闘許可オーバーシスは通らないはずなんだけど……緊急許可のシステムを逆に利用されたのね」


 普通アースには勝手に魔力解放ができないように腕輪がはめられている。そのシステムには2種存在し、許可を得て解放する『全解放』と、許可を得なくても解放できる『緊急解放』が存在する。


 前者は通常のアースが要請を出し、全ての力を解放することができるのだ。そして、後者は全解放状態よりは数段劣るものの、自分の判断で解放ができる。それには高い信用度によって可能となるシステムで、解放が人を仇なす不当な事由だった場合、全解放を含め、永遠にアースとしての能力を封じられることになる。


 このシステムは高い信用を大前提としたものだが、今回はそれがアダとなったようだ。


「どうして裏切ったの?貴女は───」


「軍が捨てたのだ!誰よりも!貢献してきたというのに!」


 聞く耳をまるで持たない。自分の意思があるならなんとか説得できたかもしれないが、これでは本能がままに暴れるバーサーカーだ。変異はしていないものの【魔人化フォール・シスマン】に近い状態だ。


「私は、力を得て知らしめるのだ!」


 似ている───友達の柳田ミツキと。

 彼女もまた、己の正義を信じるアースでその道を疑わなかった。

 しかし、ある日を境に人が変わった。


 他者を見下し、力を持ったことで傲慢になった。何を言おうと、何度諌めようとその態度は変わらなかった。


 一切を聞き入れず、己が正義だとのたまった。

 世界が間違っていて、自分が正しいと他者を貶める行為を良しとした。


 ナナ自身も、異常な変貌ぶりに付き合ってられないと見捨ててしまった。

 ついには学園からも見做され、それが引き金となって【魔人化】してしまった。


 そのことを今では、後悔している。


「違う!力は誇示するためにあるものではないのよ!

 あなたは何の為にアースになったというのよ!?」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!あんたに何が分かるというのよ!!」


 ミツキは討滅魔導軍に保護されていると聞かされているが、彼女だって悔しかったのだ。


 祖父の引退をよしとしない世間を許せなかったのだ。見返したいという復讐心が歪んだ正義を作り、他者を貶めるようになってしまった。


 しかし、それでも真っ当な正義の道を歩いていた者として、人道だけは外れていなかったはずだ。


 正義をもとに暴力を振るうことはしたが、意味のない殺生は決してしなかった。


 そのはずだったが、殺生を肯定し【魔人化】した。


「あなただって守りたかったんでしょう!大切な人たちを!

 だというのに……今何をしているのか理解しているの!?」


 今となっては最初からおかしかった。どこかズレてしまっている。

 そう、行為の先……目的がすり替わっている。


 おそらく、トミも───


「黙れ!小娘ごときが道理を語るな!裏切られた私の気持ちなんて誰にも分かりゃしないのよ!!」


 更に激しい風が荒れ狂う。全方位に斬烈の風が放たれ、窓が全壊する。


「ッッ!」


「私だってまだ戦える!学園を壊すことで私の価値を示すのだ!」


 価値を上げる所か、貶めていることを気付けない。

 己の行動が何を為すのか、理解できてない。


 やはり、目的と行動意味が食い違っている。平常時の彼女であれば言わずとも気付けたはずだ。ミツキと同じく唆した黒幕が間違いなく存在する。


 唆した存在を追うために任務クエストを受けたのだ。

 洗脳されたアースを止めるのもアースの役割だ。


 しかし───


「小娘ごときが邪魔をするな───『大斬裂嵐』!」


 見境なく暴れ、一見して隙だらけなように見えてその実、防壁が入り巡らされ、攻め切れないナナだ。


 トミの読みにもよるが、奇襲以外に決定打がないがゆえだ。トミの風は空間把握の役割も果たし、常に周囲に気配をめぐらせているから奇襲が効きにくいのである。相性が良かったのは最初だけで、戦いが長引くほどに奇襲の手も効かなくなってくる。


 要は、対人での読み合いでは不利ということだ。

 その上、トミには軍としての経験もある。


 このままではジリ貧だ、と攻め切れない自分に歯噛みをする。


「くっ……! このままでは……」


 と、ここで増援の声が耳に入った。


「ナナ先輩! 僕も参戦します!」


「応援が到着したのね!って……あなただけなの?」


「カイトたちはすぐ来るよ。先に僕が来たんだ」


 後方から追ってくるカイトたちの足音も近いが、その間、相手は待ってくれない。

 即座にユウは警戒を巡らせ、腰を低くして剣を構えた。


「あれが洗脳されたアースだね。──無力化する」


 そう言うと同時に、一直線に廊下を駆ける。

 呼応するように無数の斬裂風が放たれた。


「ちょっと! あなたが勝てる相手では───」


「狗天流・二ノ型 『威風』」


 ───静止する間もない。まさに一瞬だった。


 特に早いわけでもないのに滑らかな動きで斬撃の嵐をすり抜け、トミの意識外である真横を取った。


 そして、流麗な剣筋で後頭部を峰で打ったのだ。


「無力化完了、でいいんだよね?」


「え……あ、そ、そうね」


 状況を把握するまでに時間を要した。

 特に魔力も感じなかったのもあって、早すぎる瞬殺劇をなかなか飲み込めなかった。


「もう終わってたのか!早いな!」


 遅れてきたカイトが両腕を組んで叫んだ。

 その後をついて来ていたキョウコが念のために動きを封じる。


「……ユウ、だったっけ」


「え、はい」


「フレームはいくつまで解放してるの?」


「えっと、2くらいかな。ちゃんと測ってないからちょっと分からないけど……」


「はぁ? 嘘でしょ!?」


 フレーム2は常人よりも少しだけ筋力が高い程度だ。ガタイの良いムキムキ軍人に匹敵するレベルなのだが、魔物と戦うには不足している。


 何よりも───退役してたとはいえフレーム7解放状態だった怪物を一瞬で斬り伏せるなど天地がひっくり返ってもありえないのだ。


「アースカードもまだできてないんだけど、たぶんそのくらいだと思う」


「バカ言わないで。もっとマシなハッタリを言いなさいよ」


「んー、本当なんだけどね……」


 ユウがやったことは、読みと奇襲によるものだ。


 直進の体勢のまま、放った風の刃を薄皮一枚、最小の動きで回避し、トミが最短で近接してきたユウを迎撃するべく前に出ようとすると同時に、入れ替わるようにトミの意識外たる真横を取ったのだ。


 そして、迎撃をするべく前に向いたトミの背後、後頭部の守りも薄れている。だから、軽い剣でも容易く意識を刈り取れた、というのが一連の流れの説明だ。


 高度な体術と読みによって成立する瞬殺劇だ。

 ある意味では、ナナが理想とする戦い方でもある。


「ここに遺物はないようだな!ルナの方でも交戦している。遺物探しをしながら向かう!


 ……本当は気が気でないのだろう」


 彼の戦い方のそれは本来、様子見をして相手の動きを読んでから攻めに転じるカウンター型だろう。しかし、今回は様子見せずに遠方で見えたナナの攻め方をトレースし、ユウ自身の戦い方を知らないという有利を必殺の奇襲へと昇華させたものである。


 これだけでも高度ともいえるが……彼の心情は別所にある。

 少しでも早く決着をつけたいという気持ちの現れなのだ。


 その場でそれを理解できたのは、カイトだけだった。


読んでくださりありがとうございます。


突然ですが、スマホで読むことを意識して文を作っていましたが、逆に表現を縛られかねないと思い、意識することはやめることにします……


流石に読みづらいなど指摘がありましたら修正を努めますが、極力スマホで読みやすいか否かより物語の提供を優先します。


【補足】

緊急解放…自動承認。自身の判断で最大Flame3まで解放可能。それ以降の解放はできず、基本的に抑えられている。


全解放…支部や責任者から承認が降りないと解放不可。24時間対応してます。ブラッ……ンンッ

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