強き者、されど弱き者①
「ゆーにぃ、ぼくもいく!」
一人称がうつったのか、自分を『ぼく』って呼ぶようになったみたいだ。それはともなくとして、駄々をこねるこの子を連れていくわけにはいかない。
「だめだよ。これは遊びじゃないんだ」
「むぅ……」
遊びに誘われた風だが、たぶん任務だ。
カイトの陽気な雰囲気だったが、目の奥は冷静に人を測っていた。たまにルナやアレンに観察される時と同じ、歩き方や反応を観察し、実力を見抜く目を持っている。アースとしての実力だけではなく、人を見る『観』の目もあるようだ。
アレンが「食えないやつ」と言ったのはそういうことなのだ。
「コンさん、この子のことよろしく頼みます」
「ああ、くれぐれも油断はするなよ」
半ば夫婦のようなやりとりにむず痒さを感じるが、アナトを部屋で一人にするわけにもいかない。とはいえ、子供を預けられる知己なんていないしな、と困った顔をする。
「や! ぼくもいきたい!」
「ごめんね。危険かもしれないんだ」
「むぅ……」
「その代わり、明日どこか遊びに行こう」
ますます不機嫌になるアナトだったが、こればかりは仕方ない。危険が伴う以上、連れて行く訳にはいかない。不機嫌なアナトを残して夜に出かけるのは心が痛む。
後からアレンから聞いた話だと、カイトは積極的に他の人を誘うなんてしない性分だという。もちろん、他者を嫌っているわけではなく、目に映った不条理の大抵は自分でなんとかできるからだ。
そんなカイトが任務を受け、仲間を集めようとしている時点でただの討伐任務であるわけがない。普通の魔物を討伐するだけならカイト単体で十分だ。であるならば、達成条件が特殊である点にあるだろう。
その達成条件は魔剣の回収の一点にあるのだが……そこが問題であることを指している。それはおそらく魔剣、異界よりの遺物の特性に関係しているのは間違いない。
「全員揃ったな!」
真っ暗で誰もいない学園に召集をかけたアースが集まった。カイトは他にも何人か声をかけていっていたようだったけど、集まったのは5人だけだった。はたして、これを全員と言うべきだろうか。
いや、来てほしかった者は全員来ている、ということを指しているのかもしれない。
「俺は海野カイトだ!クラスは……なんでもできるが、主に大砲術士と銃士だ。今回の任務ではリーダーを担うことになったが、別に固執しなくて大丈夫だ!」
「ハァ、あなた、それでいいの? まぁいいけどね」
五人のうちの見知らぬ子が嘆息しつつ腰に手をかけた。
「私は二年の坂野ナナよ。クラスは銃士、それも近接が得意。サブクラスに暗殺者と罠士を修めてるから斥候タイプね」
一つ上の年のアースなだけあって貫禄のある態度だった。
積極的な前線で戦うタイプで、対人にも長けている。
「一年、七海キョウコです。クラスは封印術士、サブクラスに回復術士をとってます。前線では戦えないですが……よろしくお願いします」
回復による後衛支援ができるうえ、危険な遺物であれば封印をする。支援クラスでは有能なアースといえるだろう。
「僕のクラスは剣士。サブクラスはないかな」
「私もよ。それと、魔法士も少し扱えるわ。
このアースの傾向……なるほど、そういうことね」
ルナも気づいている様子だ。自分も含めてメンバーの選出の傾向からして確定だ。カイトは───
「知っていると思うが、一応だ! 魔剣、または異界由来の遺物が発見でき次第、支部へ報告する。触れるのは厳禁だ。支部の話によると『在る』とされている」
続けて、カイトの見開いた瞳は少しも揺らがずに今回の任務における最注意事項を投げかけた。
「───『意志が弱い者は呑まれる』。アースならば誰しも知っている教訓ではあるが、遺物はそれが顕著だ。軽い気持ちで『力を得たい』と思うだけで乗っ取られるなんてこともあり得る。遺物は特定のカタチを持たない。だから、何を目にしても欲しいなんて思うな」
どうやら、リーダーの素質もあるようだ。芯のある態度は時に反論を許さない威圧を感じさせるものだ。今、カイトが挙げた注意は場にいる全員の頭へと叩きつけた。
「ひとまずは、そうだな! ルナ! ナナ!」
「一応これでも先輩なんだけど……はぁ、斥候ね。
私は左の方から行くよ」
「……右からね。わかったわよ」
「ああ。 キョウコとユウはここで俺と待機だ!
動きがあり次第、即座に交流する。常に戦闘態勢を維持だ」
皆が同意する。方針に問題はないが、動く前に単純な疑問点を投げかけてみる。
「その前に、ちょっと質問いいかな?」
挙手し、注目を集める。皆わかっている様子だが、こっちは何があったのかほぼ何も知らない状態だ。
任務を受けるものとして知る義務はあるはずだ。
「曲がりなりにも学園は支部手前に位置し、警備システムもあるよね。並の魔物や遺物程度であれば学園の警備システムで事足りるはず。僕たち生徒が出払うまでもないと思うんだけど……何かあったの?」
「いい質問だ。ジェームズくん」
「僕の名前はユウです」
間髪入れずに突っ込みを入れ、カイトは続けた。
「ここに勤める警備員が消息を絶っているんだ。本来なら学園のどこかに電灯の光があってもおかしくないのだが、ご覧の通り真っ暗なのだ!」
「警備員が消息を断ったって……アースを採用してるって聞いてるんだけど、そんなにヤバい遺物なの?」
「正真正銘のヤバい遺物だ! 支部の話ではアースの乗っ取りに特化しているものだという話だ」
「アースはどこも人手不足とは聞いてるけど、今回の人選はに偏りがある。それも対魔物ではなく『対人』に特化している。ということは……警備員がそうなっていると見てもいい?」
「……ああ、出来れば拘束をしてくれ。今回の任務はそれで達成とみなすそうだ」
達成基準が曖昧だ。それが指し示すは学内に潜む何かを探っているということだ。
悪くいってしまえば───
「囮、ということ?」
「……その意図は俺からも明言できない、が!
ただ命じられるままに動くつもりはない。
俺としてはここで禍根を断つつもりでいる。
───だからこそ、この人選だ!」
確かに低学年ながらも高い実力を擁しているアースばかりだ。それもソロ活動を主に得意としている。協調性に欠けるという問題も気になるが、作戦上、単独行動を主としている。特に斥候を申し出た二人は単騎で戦える者だ。
待機組はおそらく、遺物を封印を担当するキョウコを中心に、あらゆる状況に合わせて動けるアースで組んでいる。自身を前衛としてキョウコと前衛の両方をサポートできるカイトが真ん中に置くというフォーメーションだ。
誰も欠けることなく任務を達成するには、駆けつけるスピードも肝になるだろう。そして、それ次第で成否も変動する。ならば、すぐに動けるように体勢を整えなくてはならない。
「分かった。───僕もそのつもりでいるね」
チリ、と妙な圧力を放つ。ユウもまた気持ちを切り替えたのだ。
各員問題ないことを確認したカイトは大きく頷いた。
「では、戦闘許可を要請する!」
内包する魔力が解放される。その同時にルナとナナの姿が搔き消えた。
◆◇
同時刻。本任務において動いていたのはカイトたちだけではなかった。
エーデルワイス学園の暗闇に、ひとつの影が動く。
「学園全体の索敵はアイツらに任せるとして、俺はどう動くか」
影は先日に空虚を名乗るフードの男と交戦した暗殺者だ。彼もまた別口で任務を請け負っているのである。任務内容は学園に発生する特異点の調査、そして特異点を発生させた存在の追跡だ。
残念ながら空虚の痕跡は完全に途絶えているが、逆に言えば学園のどこかに何かを起こすことは間違いないということ。魔剣の噂も空虚が現れた直後に広まったものだ。
こんな荒唐無稽な噂にしては不自然なほどに広まりが早い。支部の観測では特異点の発生は認められていなく、警備員が姿を消した噂よりも未だに存在が確認できていない魔剣の噂が先行するのも普通はありえない。今回、彼らに任務が下されたのも学園内で反応が確認できた『遺物』の調査なのだ。
これに関しては恐らく空虚が情報操作している可能性が高い。
「……! 早いな。斥候らも優秀なのもあるだろうが、どうにも状況がおかしい」
と、東方面に戦闘音が聞こえ、カイトたちに早速動きがあった。カイトたちは東、ナナのいる方向に駆けて行った。その様子を窓越しに視認するも、暗殺者の表情は浮かないものだった。
「───東に高い魔力反応があるが……俺の『勘』では西の方に妙な胸騒ぎがするな」
高い魔力を感知した東が最も警戒するべきなのだが、同時に動きがあったこと自体に作為を感じる。そう直感が告げている。
それからの決断はすぐだった。
「俺は西の方に向かうか。東にはユウがいるしな」




