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不穏な痕跡


 第十対魔防衛支部の会議室にて、支部司令である土門タイガを筆頭に五名の幹部が並ぶ。他にも第三対魔速攻隊の面々があった。マルコシアスとの戦いで大半が重傷を負ったが、支部で集中治療を受けて傷はほぼ全快した。まだ安静期間中ではあるが、情報交換のため緊急招集を受けたのである。


「那谷ミサと申します。早速ではございますが、先日の特異点に関する調査結果をご報告いたします」


 巨大なスクリーンに現場を映し出して、今回の特異点に関する調査報告を上げた。


「特異点が発生した現場を調査しましたところ、異界シスと繋がった形跡がありましたが、不完全でした(・・・・・・)。物質的な転移ではなく『魂』のみの転移ができる特異点である可能性が高いです」


 魔物が地球に渡る際には通常、空間に空いた歪みを通って渡来する。まばらに世界各地に出現する魔物はその特異点から現れるのだが、稀に魂のみしか通れない歪みが存在する。


 その穴を通る者は元から肉体を持たない魔物や憑依するものを求めて彷徨う霊体だったりする。今回はマルコシアスの魂が転移し、付近の柳田(・・・・・)ミツキに(・・・・)憑依・・()()

 

「他にも二つ、判明したことがあります。

 ひとつ目はこちら、魔素の残滓の解析結果です」


 映し出されたのは、地球上のどの言語にも当てはまらない、全く別系統の言語で綴られたものだった。


「これは────『魔術』です」


 我々アースが操る炎や氷は宿した魔力をそのまま性質変化させた───『魔法』だ。より高度なものは精霊を介して規模や形状を変化させたものもある。


 特異点も然り、空中に漂う魔素を性質変化させ、空間に歪ませた自然発生に近い空間系統魔法の一種だ。

 あくまでも森羅万象の法則に則ったものである。


 しかし、今回の特異点は『魔法それ』を無視している。

 自ら定めた法則に則って特異点を発生させたということだ。


 その見分け方は単純。

 ───『術式』の有無である。


「そんなことが…… 本当に間違いないのですか?

 特異点を発生させる術式であると?」


 幹部の一人がそう言うと周りがざわつく。


 ただでさえ謎の多い特異点を解し、思い通りに操れるなど人智を超えた魔術なんてあり得るのか、と。


「はい、間違いないです。あまりにも複雑すぎて解明に時間を要しましたが、空間に干渉する術式であることは分かりました。魂のみの転移であることについては空間干渉術式と連結して発動されたと思われる術式が『憑依』であったことで推測したものです」


 かつて降魔魔術によって悪魔が人を憑いたという話もあるが、それは悪魔自身が魂の憑依を行使しているのである。術者自身が『術式』によって悪魔を憑依させるという事例は稀で、基本的に悪魔との契約魔術を成立させることで悪魔自身が憑依を行っているのだ。


 こちらもまだ謎の多い術式であるのだが、

 それよりも問題視しているのは───


「………人為的、か。可能性としては高いが、真に特異点を作り出せる魔術なんて存在するのか」


「理論上は存在します。ですが、それは科学で言うブラックホール生成並みの未到領域です」


 現技術ではいまだに実現できていないが、今回の特異点は間違いなく人為的だ。柳田の裏に何かが潜んでいることを示唆していた。


「柳田ミツキの聴取結果によると、ある日、突然手紙が届き、Flameを強引に上げる手段と場所を教わったとのことです。送り主の追跡も試みましたが、痕跡は完全に断たれていたため、進展はありません」


「はぁ!?

 大々とやっておいて黒幕は分からなかったってか?

 それで済んでいいはずがないだろう!」


「……支部の信用にも関わる話だ。

 柳田家には罰として停職させなくてはなるまい」


 日本討滅魔導軍は特異点により来たる魔物に対抗するために立ち上げられた組織であるが故に、内部によって引き起こされたと知られれば信用が大きく傾けかねない。


「いや、罰だ、停職だ、と騒ぎ立てた方が信用を問われる。幸い【魔人化】した者が柳田家の娘であることは知られてない。此度の襲撃の詳細は明かさず『不幸にも森に迷い込んだ人間』が引き起こしたものとした方がいいだろう」


 静まり返る会議室。

 幹部たちも然り、隊の者たちも重々そのことを理解している。


 黙秘……否、真実を黙殺することを肯定した。


「手引き者の調査は最優先としろ。

 分かってはいると思うが、これは極秘任務とする」


「承知いたしました。調査を急ぎます」


 急ぐのには信用を疑われる前に真偽を判明させたいのもあるが、もう一つ理由がある。


 それは『反社会的組織』の存在である。


 魔物に対する自衛をとした社会に反論を唱える集団があるが、特異点による世界侵食を自然摂理として迎合するべきとする信仰に近い思想派も数多く存在する。


 そう言った思想派の中でも過激派が暴走し、支部に直接攻撃を仕掛けたり、何の躊躇いもなく魔人化を試みて支部を壊滅させた事例もある。


 魔物が人を憑き、支部を無視して学園を襲撃したとなれば、当然手引き者に目をつけ、組織に取り込もうとする。それだけは避けなければならない。


「もう一つ分かったことって何よ?」


 幹部のひとりが身を乗り出して話を戻した。


「───はい、特異点の波長パターンから恐らく、連鎖特異点チェインホールであることが判明しました。すでに歪みは放たれているため、止めることはかないませんが、場所の特定はできます」


 おお、と騒つく。ただでさえ予測しづらい特異点の発生を事前に把握できたとなれば、信用を取り戻す手札にもなる。


 指定の場所にアースを配置して待ち構えるなりにすれば、被害が出る前に抑え込むことも可能なのだ。


「次に発生すると思われる場所は───」


◇◆


 会議が終わり、那谷を除いて誰もいなくなった部屋にひとりのアースが入室する。その男の軽装備は黒色で統一され、腰に二本のナイフを差していた。見てくれの通り彼は暗殺者アサシンであった。


「ご足労ありがとうございます。早速ですが、お渡しした資料は読まれましたか?」


「ああ。それで俺に何をやらせようってんだ?」


「発生が予測される特異点付近の監視です。そして、貴方の特殊能力ギフトのことも知っています。もしも感じるところがあれば、逐次報告してください」


「暗殺任務ではないのか」


「今回は調査と監視が主要任務となります。恐らく貴方の特殊能力ギフトで何か得られることはあると睨んでいます。司令からの任務発行クエストオーダーの許可も得ていますので、柳田ミツキを唆した者の足取りが得られたらそのまま追跡調査を進めてください」


「なるほど、なら唆した者と遭遇した場合は?」


「捕虜としてください。殺しは避けてください」


 はぁ、と暗殺者はため息をついた。


「というか何故、俺なんだ?」


 優秀なアースは数多くいるうえ、暗殺者アサシン生業なりわいとする者も他にいる。数ある候補の中からわざわざ自分を選ぶなど、と思うのは当然だった。


「もちろん、理由はあります。まず第一に、アースと暗殺者の両方の働きが期待できる人物であることが条件です。今回は魔物に関する調査でもありますからね。アースとしての能力が高く、かつ手引き者を追える者である必要があったのです」


 暗殺に長ける者は『対人』が多く、身体能力はアースと比べて大きく劣る。逆に、アースとなった者が自ら暗殺者となることは稀で、対人戦闘を得意とする者は魔物との戦いには採用されない。


 更に言えば、魔物狩りとして道を断たれたアースたちが暗殺を生業とする場合が多く、その実力は全体的に低いとされている。


 今回は高い魔物狩りの実力と暗殺稼業を併せ持つ者であることが最低限の条件だったのである。


「次に、特異点を発生させた手引き者は自身の痕跡の一切を消し、尚且つ、あからさまな術式を残しました。恐らく追跡を完全に遮断するすべを知る者だと考えられます。単なる索敵では逃げられてしまう可能性が高いです」


「それで、技能スキルとはまた異なる俺の特殊能力ギフトでしっぽだけでも捕まえたいって訳か」


 もう一つは、五感によらない別の感覚に特化した能力で何か得られないか、という期待もあったのだ。


 その特殊能力ギフトによる実績も認められているため、謎の多い今回の襲撃の調査に彼を起用したのである。


「最後に、特異点発生すると思われる場所を常に構えられること。先ほどまでに挙げた条件を踏まえたうえで、それに該当する者があなたしかいません」


「……その場所は?」


「───エーデルワイス学園です。学園内の具体的な位置までは捕捉できていませんがいずれ発生します」


 それを聞いた暗殺者アサシンは会得がいったように顎に手をやった。もし魔物が出現した場合、即時で支部に報告を入れる事ができ、尚且つ魔物にも対応しなければならないのだ。確かに自分が適切だとはいえる。


「承知した。うちは貧乏なんでな、ビタイチもまけないぞ」


「すでに前金は振り込んでいます。何か成果があり次第、それに見合った報酬を約束します」


「それで大丈夫だ。ではな、早速取りかかるとする」


 そう言い残して、暗殺者アサシンの気配は消失した。


読んでくださりありがとうございます。

あと、今後あまり登場しないと思うので、

こちら後書きに載せておきます。


第三対魔速攻隊

 隊長  坂部シュン

 魔法手 森田カズコ

 狙撃手 浅井ララ [兼回復手]

 攻射手 工藤ナオキ

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