¶ 1.宿泊室 1 ~ 気になる村 1 ~
「 一日目 」の始まりです。
──*──*──*── サドラロッテの町
──*──*──*── 宿屋
──*──*──*── 宿泊室
午後の14時頃、シトシトと小雨が降り始めて来た。
《 宿泊室 》にはセロフィートの姿しかない。
セロフィートは《 宿泊室 》に備わっている粗末な椅子────にではなく、〈 古代魔法 〉で出したセロフィートの体格に合った座り心地の好い椅子に深深と座り、趣味の読書に耽っていた。
開いていた窓はというと、小雨が室内へ入って来ない様にと〈 古代魔法 〉の力で動き、キィイ……という小さな音を出しながらパタン…と閉まった。
窓が閉まると再び静寂が続く────事はなかった。
誰かが廊下を走っているのだろう。
バタバタと煩い音が響く。
バタンッと乱暴に《 宿泊室 》のドアが開けられた。
慌てているのだろうか?
乱暴に開けられたドアは再び乱暴に閉められた。
バタバタと大きな足音が、セロフィートの背後でピタリと止まった。
セロフィートの背後で立ち止まったのは、〈 小徒 〉の6年生程の子供と同じ背丈の青年だ。
間違っても少年ではない。
エルゼシア人の極一般的な青年にしては低い身長で、小柄且つ華奢なうえ、細身な体格をしている。
不本意にも少女にすら見間違えられてしまう童顔の青年である。
青年の黒髪は、水を吸ってしっとり濡れていた。
コートを羽織らずに出掛けて行った為、途中から降って来た小雨に濡れてしまったのだろう。
黒髪の青年
「セロ!
聞いてよ!
《 冒険者ギルド 》でさ、スッゴい情報を聞いちゃったんだよ!」
セロフィート
「そうですか」
黒髪の青年
「『 そうですか 』じゃ、ないよ!
ちゃんと聞いてよ。
何かさ、≪ 魔物の村 ≫ってのが出来ちゃったらしいんだよ!!」
セロフィート
「はあ?
何です?」
黒髪の青年
「だ・か・ら!
≪ 魔物の村 ≫だよ!!
≪ エルゼシア大陸 ≫に≪ 魔物の村 ≫が出来ちゃったんだってば!!」
セロフィート
「ははぁ?
其が何です?」
黒髪の青年
「『 何です? 』じゃ、ないだろ!!
〈 魔物 〉が──、≪ 村 ≫をだな──、作ったんだよ!!」
セロフィート
「其は聞きました。
其で?」
黒髪の青年
「『 其で? 』って……。
だっ…だから……其の……ど、どうやって〈 魔物 〉が≪ 村 ≫を作ったのかな──って……」
セロフィート
「〈 時空の亀裂 〉を通って来た知性の高い〈 魔物 〉が集まって作ったのでは?
〈 魔物 〉も集団で動きますし。
未知の土地で、拠点となる住む場所を確保したかったのでしょう」
黒髪の青年
「……………………。
何とか出来ないかな?
オレ達は、一応さ…〈 冒険者 〉な訳だし。
≪ 魔物の村 ≫を見て見ぬ振りは出来ないよ。
〈 魔物 〉に悪さをされて苦しんでる人間とか居るかも知れないしさ!」
セロフィート
「また人間助けします?」
黒髪の青年
「セロ!
『 また 』って言うなよ!
オレ達なら、パッと行って、サッと帰って来れるだろ。
オレ達意外に≪ 魔物の村 ≫の偵察に適任な〈 冒険者 〉は居ないよ!」
セロフィート
「『 ≪ 魔物の村 ≫が出来た 』と言われても、〈 魔物 〉が人間に悪さをしているとは限らないでしょう」
黒髪の青年
「何言ってんだ。
〈 時空の亀裂 〉を通ったら悪影響を受けて凶暴化するんだろ?
放っとけないよ。
なぁ、セロ〜〜〜!
頼むよ!
≪ 魔物の村 ≫へ行ってみようよ!」
セロフィート
「嫌で〜〜〜〜す」
黒髪の青年
「セロ!!」
セロフィート
「ワタシ、人間助けはしたくないです」
黒髪の青年
「其は…分かってるよ……。
だけどっ、オレ、気になるんだもん!!
≪ 魔物の村 ≫を直に見てみたいんだよ!!
だって、≪ 魔界 ≫には行けないんだろ?
絶好の機会だと思うんだ!」
セロフィート
「鯔の詰まり……、マオは偵察と見せ掛けて≪ 魔物の村 ≫を見学に行きたい──という訳です?」
マオ
「う、うん(////)
建前は何でもいいんだ!
オレは唯……純粋に≪ 魔物の村 ≫に興味があるだけなんだ(////)」
セロフィート
「成程……。
人間助けをしないのであれば良いでしょう。
そんなに見てみたいなら散歩がてらに行ってみます?」
マオ
「──いいのか??」
セロフィート
「構いません。
仮に〈 魔物 〉が人間を襲っていたとしても助けません。
其でも良いです?」
マオ
「セロ……」
セロフィート
「マオ、食物連鎖は自然の摂理であり、営みです。
弱い生き物は強い生き物の餌となります。
此は遥か昔から変わる事のない大自然の法則です。
人間も生き残る為に、弱い生き物に対して、我が物勝手に命を奪って生計を立てます」