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運命改革物語  作者: ケブカ
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第三話 残された意味

1月の2週目、僕は高校に行った。

 時間というものは残酷なもので、あんな惨劇があっても緩やかには過ぎて行ってくれなかった。

 僕は一旦、祖父の自宅で生活することになり登校日に祖母からは、「無理して学校いかなくてもいいんだ よ。しんどいなら休みなさい。」と言われたが、そんな言葉に甘えることもなく意地でも登校した。

 悲しみを引きずってはいけない、引きずればそれはどんどん大きくなって、そのまま包み込まれて出てこ れなくなると思ったからだ。

 その日は始業式で、まず1限は校長の挨拶からだった。

 校長の話は変な特徴があり、かなり話が長くて一文一文に間をあけて喋るために選挙演説を聞いてるみた いでとても退屈だった。

 校長の話は上の空で、僕はふと忠さんのことを思い出していた。

 もう手術は終わったのか? 成功したのかだろうか? 

 そんなこと延々と考えているといつの間にか始業式は終わっていた。


2限目は、教室でホームルームだった。

 1月から3月まで行事のこと、受験に関すること、卒業式に関することを担任がプリントを配ったり、口頭 で説明したりしていた。

 そうだ! 受験が控えていることを忘れていた。 

 僕は公立高校を目指していて、2月の初頭には私立高校の併願の受験が控えていたんだ!

 もう後1か月もないじゃないか。

 10月の模試では志願していた公立高校の結果はC判定だった。

 担任からはもう一つ偏差値の低い学校へ落とすように言われていた。

 でも将来を考えると、進学校なのは志願している高校が最低ラインだったのでどうしてもそこに受かりた いのだ。

 ここまで頑張ってきたのだから、負けてはられない。 絶対受かってみせるぞ!

 あの病院で明るく話してくれた忠さんに影響されたのか、僕は前向きな人間に成長していっているという 実感が沸いた。


そして学校での行事は終わった。

下校しようとすると教室内はなにやらひそひそ、ざわざわと嫌な雰囲気になってきた。

それはあの出来事がかかわっているんだろう。

あの大事故のことをみんなが知らないはずがなかった。

テレビで放送され、事故のことも、実名も知ってしまったはずだ。

そして誰も話しかけてはこない。

どう声をかけていいかわからないからだ。

僕がその立場ならみんなと同じように気を使って話しかけないだろうな。

何か肩身が狭く、後味が悪いような雰囲気が漂う教室から逃げるようにして出ようとしたところだった。

「遠野!」

と男の声で呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると長身でがっしりとした男子学生立っていた。

「お前元気か? ちょっとやせたか?」

「おう高木! 痩せたかな? 今年は餅食ってなかったからかな」

僕と高木孝介は小学校からの友達だった。

「そうなのか。 今日塾は来るのか?」

高木は少し気まずそうに、頭を掻きながら僕に問いかけた。

「うん! もちろん行く! このまま対策なしだと100%受験に滑りそうだしな」

「お前は対策したって滑りそうじゃん笑」

「うるせえな!」

すこしムカついて僕は高木の肩に拳を当てた。

「イテッ! 冗談冗談だって」

高木は軽く笑いながら肩をさすって言った。

こんなこと言いながら、気をなだめてくれてるんだなと思った。

高木は塾でもAクラス(僕はBクラス)だし、偏差値も相当高いとこを志願していて模試でもA判定で受かることは間違いなしのようだ。

その上この男は、運動も出来るし、クラスの女子にもそこそこ人気があった。

それでも、僕はこの男を嫉妬したり、いけ好かない気持ちにはならなかった。

なぜなら、こいつはおもいやりのある心の持ち主だからだ。

だからこんな状況になっている僕に対していつものように話かけてくれたのだ。

「OK! じゃあ夕方迎えに行くわ! 一緒に行こうぜ」

「了解!! じゃあな!」

そう言って僕は教室を出た。

高木は教室内に残っていた。

ほかにまだやることがあるようだ。

僕は足早に校門へ向かい、振り返ることなく学校を出た。

そして、自宅に着いた。

リビングに入ると、祖母がキッチンで洗い物をしているのが目に入った。

祖母は一瞬振り返り、「あら。おかえり。」と言いながらも食器を洗う手は止めることなく動かしていた。

僕は冷蔵庫からお茶を取り出し、それを持って勉強部屋へ向かった。

こたつに入り数学の参考書を開いた。

長ったらしい数式を見ていると、悪魔のような睡魔が僕に襲ってきた。

だめだ・・・。眠すぎる。べんきょうしなくてはいけないのに・・・。

少し抵抗したが、なすすべもなく僕を眠りの世界へ引き込んでいった。


「勇夢! 勇夢!」

ん? 

「はっ!!」

僕は勢いつけて起きあがった。

そのせいでこたつに脚をぶつけた。

一瞬うずくまったが少しすると痛みは引いてきた。

この痛みは目覚ましにはちょうど良かった。

「びっくりするじゃないか。 急に立ち上がって! あ!友達が迎えに来てるよ。」

祖母は僕がいつもきている茶色のダッフルコートを差し出してくれた。

「あ・ありがとう! 行ってくるね。」

僕は塾用の手さげカバンに参考書を入れ、家を出た。

高木がスマートフォンをいじりながら入口に立っていた。

僕が出てくるのを確認するなり

「お前寝てたのか?」

と微笑しながら言った。

「眠すぎて寝てた!」

「のんきな奴だな笑 これで高校受験は120%落ちたな」

「お前! 殴るぞ!」

高木は怖ぇ~と言いながら自転車に跨った。

そして二人は塾へむかった。


塾の道中高木は、大晦日や正月スペシャルで放送されていたTV番組のことを話していた。

紅白にだれが出ていて良かったとか、年越しにやっていた笑いが止まらない病院24の内容について話してくれた。 

高木の話術は感心するくらい上手くて、話を聞いているだけで内容が想像できて笑いが止まらなくなった。

DVD録画したからまた貸してやるよと自慢げな顔で僕を見た。

こいつはいつ勉強しているんだろう?と僕は疑問に思った。

多分受験を失敗する可能性は低いし、TVを見る余裕はいくらでもあるのだろう。

高木はあの事件のこと、僕が入院していたことも知っているはずだ。

おそらく、そのことでどん底に気持ちに陥っている僕を励ましてくれているようだ。

余裕が一ミリもない僕に対して、高木の余裕はわけて配れるほどだった。

うらやましいと思う反面、その余裕に感謝するところもあった。

塾に着くと、高木はじゃあなと言ってAクラスへ向かった。

一方で僕は2階にあるBクラスとほうへ向かった。


Bクラス内に入ると3人くらいグループが一番後ろの席で参考書に落書きをしたり、消しゴムを投げ合ったり、シャーペンの芯で突きあったりしていかにもやんちゃそうな奴らが戯れていた。

教室内の前のほうの席は真面目で眼鏡をかけて授業前なのに予習を真剣にしている子や単語カードを必死にぺらぺらめくっている坊主頭の男子などがいる。

Bクラスは偏差値で平均以下の人たちが集まっており、その中には進学校に受かりたい人もいれば、親の強制により無理やり塾に行かされて暇つぶしにきている人もいた。

僕は空いている席を探し、前でもなく後ろでもない真ん中あたりの席を選び腰を下ろした。

その後、先生が入ってきて授業始まった。

僕の大嫌いな数学だった。 

いつもなら寝てしまう退屈な授業だが、もうそういうわけにはいかない。

寝てしまったら本当に120%受験に落ちてしまう。

僕は真剣にノートを取り、先生の話に耳を傾けた。

眠気がやってきても、顔をつねったり軽く伸びをしてどうにか眠ってしまわないように対策した。

僕は負けるわけにはいかない! 絶対に受かるんだ!


そしてどうにか眠ることなく数学の授業は終えた。

10分間の休憩時間をくれたが、その間に塾長がやってきて12月度の模試の結果を配り始めた。

僕の名前が呼ばれ模試結果と分析、対策法が乗ったシートを塾長から受け取った。

12月の模試はあまり覚えていないが、手ごたえは全然なかったような気がした。

その予感は不運にも当たっていて、志望校の判定は前回と同様にC判定だった。

渡してもらったシートを眺め、とぼとぼと歩きながら席についた。

結果では、数学以外の成績はまずまずだったが数学が致命的に悪い点数だったためC判定であると記載されている。

やるせない気持ちになり、呆然としていると後ろから「おい!」と聞こえた

恐る恐る振り返ると、さっきの不良3人組の一人が僕の後ろの席に座っていた。

「お前ってさぁこの前の事故の生き残りって噂で聞いたんだけど、どうなの?」

ㇵの字に眉を下げ、馬鹿にしたように僕に問いかけてきた。

この不良とは1年間同じクラスにいたが話したことはなかった。

「この前の事故って?」

分かっていて聞いてくる不良に対して腹が立ったのでとぼけて僕は返答した。

「三重の交通事故だよ! 4人が死亡したっていう大事故の! その中で家族がいて3人は即死だったみたいだけど、一人だけ意識不明の状態で報道は終わっていたわけ。 そいつの名前がお前と同じなんだよな」

不良は立ち上がって僕の席の前に立ち、僕を見下ろした。

「そんでここのクラスにいるお前と同じ学校の奴に聞いたんだよ。 そしたら、そのことは事実だと教えてくれたよ。 不運だよな。 お前だけ残されるなんて」

僕はそいつを睨んだ。 

この不良の顔から全く、慈悲だとか同情という感情は一切見えない。

人を陥れて絶望的な顔を見て喜ぶ、人間界屈指のクズだろう。

そしてその不良は僕の模試結果シートを取り上げて、にやにやしながら言った。

「模試の結果も終わってんじゃん。 家族もいなくなって。 高校も落ちて。 夢も希望もなくなって。運が悪い奴は何をやっても上手くいかない~。 ほんと神 様って不平等だよな~~」

嘲笑しながら不良は僕を覗き見た。 不協和音のようなだみ声が一層不良の不快さを際立たせる。

「でもよかったな。 おまえみたいに取り柄がない奴でもこれで有名になれたじゃん! もっと有名になれるように有名人の俺が言いふらしてやるよ。 おーい!!!! みんな聞いてくれ! こいつは~」

もう我慢の限界だった。

僕は一瞬意識が飛んだみたいになり、気が付くと僕の右手は不良の胸倉をぐっと掴んでいた。

怒りでコントロールすることができない僕の右手は小刻みに震えている。

「何? やんの?」

不良は思ったより大きく、高木くらい身長が高かった。

体格は高木には及ばないものの、僕が本気を出しても太刀打ちできる相手ではない。

それでもこいつを殴らなけば気が済まない。

すると不良から若干笑顔が消えた。

そして死んだ魚のように冷たくて、生気のない眼球が僕を見下ろしていた。

「お前だれに喧嘩売ってんのかわかってるん??」

2,3秒静止した後、その不良は急に両手で僕の胸倉掴んだ。

そして、不良は僕の体を振りまわした。

振り回されている僕の体が、付近の机やほかの人の教科書を薙ぎ払った。 

それと同時に大きな石を当てられたかのような激しい衝撃が、僕の右の脇腹に走った。

僕は吹き飛ばされ、教室内の机を巻き沿いにするよう転倒した。

脇腹に激痛が走る。

あまりの痛みで立ち上がれない。

どうやらこの不良は膝蹴りを僕にお見舞いしてくれたようだった。

周りがざわつき始める。

前列の真面目の生徒たちも今は勉強どころではなく、この騒動に驚きを隠せないようだ。

女子の悲鳴が聞こえたり、「やめなよ」と囁くような男子の声が聞こえたが、不良の耳にはモスキートーンのごとく届くことはなかった。

不良はのそのそと歩み寄ってきて、僕の体の上に馬乗りになった。

そして左手で僕の胸倉を掴み、右手の拳を大きく振り上げた。

さらなる追撃を僕に浴びさせる気だろう。

避けれるはずもない。そう覚悟した時だった。


コン!と不良の腹部に小さな物質のようなものが命中し、その物質は僕の胸部あたりに落ちた。

よく見るとそれは赤いパンプスのようだ。

幸いにもヒール部分を横にして僕の胸部に落ちたのでけがはなかった。

「いい加減にしなさい!!! それ以上すると警察よびますよ!」

少し鼻にかかる女性の声が教室内に響き渡った。

このパンプスの持ち主はどうやら塾長のものらしい。

塾長がこわばった顔で不良を睨みつけている。

片方脱げた右足を床につけているせいで、右肩が斜めに傾いていた。

「せんせい~ 違うんすよ! コイツ態度悪いんで教育してやってるんすよ!」

不良はㇵの字眉で塾長に返答した。

それでも握った拳をほどこうとはしなかった。

「もう呼びますね?? 警察!」

塾長は教室内に備えられている電話の子機を取り上げ、ボタンを押し始めた。

すると、不良は「ちっ」と言って、僕の胸倉を掴んだ左手を押すようにして離した。

そして急に立ち上がり、横にあった机を腹立たし気に前蹴りした。

ガッシャン!と大きな音を立てて、机は転倒した。

その後不良はポケットに両手を突っ込み、横柄な態度で不良仲間と教室を去っていった。

「 


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