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運命改革物語  作者: ケブカ
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第二話 喪失

僕の視界にまぶしくて心地よい柔らかな光が入ってきた。

 いままで閉ざされていた僕の瞼は、まるで暖かくて包まれるような木漏れ日に蕾が花開くかのようにゆっ くり開いた。

 ん? ここは?? 僕は生きているんだろうか?

 ヒラヒラと何かが揺れ、そこから明るい光が差し込んでるようだ。

 僕はまだ開いたばかりの瞳をギュッと凝らし、まだ薄れている意識でそれを確かめようとした。

 これは、どうやら白いカーテンのようだ。

 窓が開けられていて、そこから暖かそうな光とそれとは対照的に冷たい外気を同時に入れ込んでいた。

 僕は辺りを見渡そうと、目だけを左右に動かした。

 すると僕の視界で何かが動き、僕の目線はそちらを捉えた。


「よかった!! 意識が戻ったんだね!!」

 僕の手を握りしめ、誰かが言った。

 どうやら泣いているらしい。

 僕は立ち上がろうとしたが、体は鉄のように重く感じ思うように動かせなかった。

「じっとしておけ! 勇夢! お前は事故で体を打ったんだ」

 もう一人、嗄れ声でそう僕に話しかけてきた。

 僕はその特徴的な声を聴き、その二人が祖父母であることを理解した。

 白くて清潔なベットに横たわっていることに今更気が付いた。

 ここは病院なのか。 

 部屋からは病院ならではの消毒液の独特な匂いが漂っていて、ぼくは少しばかり吐き気を催した。

 幼少のころにも入院した覚えがあるが、そのころからこの匂いがとても苦手だった。

「勇夢! 本当に無事でよかった。 ばあちゃん本当に心配で心配で。 勇夢までって思って。」

 祖母は涙をぽろぽろと流し、僕の手を更に強く握った。

「奇跡的に打ち身だけで済んだみたいだな。 頭も軽く打ってるみたいだが近くにいた男性が衝撃のクッ  ションになってくれたようだ。」

 祖父も少しほころんだ様子を見せ、僕を見つめながらそう言った。


その時、あの見るも無残な出来事を僕は思い出した。 

 鳴り響く轟音。ガソリンオイルの焦げ付いた匂い。下敷きになった白い車・・・。

 そうだ! 家族はどうなったんだ!?? 無事なのか??

 問いつめようとした僕を見つめ、それを察したかのように祖父の表情は一瞬で陰鬱な顔つきになった。

「今のお前にこんなことを言うのはとても酷なことだと思う。だが、いずれにしてもその『事実』と向き合 わなければならん。いいか勇夢・・・。よく聞け。」

 祖父は少しばかり沈黙した。一瞬の間だったが、僕はとても長い時間経過したように感じた。 いや長い 時間沈黙してほしかったという希望が僕の脳信号に、誤作動を起こしたのだと思う。

「幸生。今日子さん。有紗・・・。 お前以外の家族は二日前に死んだ。」

 僕は祖父の言っていることが理解できなかった。今まで生きて体験してきた出来事の中であまりにも現実 離れしすぎているからだ。

 死んだ? 僕は意外全員死んだ? 

 何かを発そうと口を動かしたが、動揺しすぎているせいで言葉にならなかった。

「これが『運命』なら、俺は神を恨む。何故、お前一人を残すようなことを引き起こすのだろうと!!」

 祖父が唇をかみしめ、震えながら言った。

 祖父はおそらく、どうして神様は家族団らんであった一家を、まだ幼い勇夢だけ残すようなことをするの だ? そんなことは人間から左腕と両足を引きちぎって右腕だけで生きていけと言うようなものだぞ!! と言いたかったのだろう。

 けれど、精神的に崩壊していた僕には『何故お前も一緒に死ななかったのだろう』と言っているようにし か聞こえなかった。

 ナゼボクダケ。 ボクハココニイルノニ。ミンナハココニイナイ。ナゼボクダケノコサレル。ナゼボクモ イッショニツレテッテクレナカッタノ?

 虚ろな僕の目線はいつの間にか天井を見つめていた。

 祖母は今まで堪えていた感情が抑えきれなくなり、僕をみて泣き崩れた。

 こんな悲しみの頂点いるのに、僕の目からは涙すら出てこない。 

 現実逃避したい物事を避けることも出来ず、そのまま衝撃を受け止めたせいだろうか?

 僕自身の中から感情という概念は消え失せ、精神が肉体から離れいくような気がした。


そして1週間が経った。

 世間では幸せな年越しを終え、新たな年の更なる飛躍に期待し瞳を輝かせてる頃であろう。

 僕たちはそうはいかなかった。 

 祖父も祖母も僕の看病につきっきりで大晦日とか正月とかどころではなかったし、僕は未だに現実を受け 止めて切れていない状態で、一人だけ宙に浮かんでるみたいだった。

 けれど不幸中の幸いとは言ったのもので、僕はMRIやらCTスキャンやらをしたが特に異常はなく脚の打撲 だけで済んだようだった。

 退院間近になると、祖父は僕に曇り気な表情で話しかけてきた。

「お前にはもう一ついっておかなければならない。 この前の事故引き起こした運転手は即死だったが、そ の事故に巻き込まれた中でお前以外に一人生存者がいる。 お前をあの事故から庇って救ってくれた人だ そうだ」

 祖父は暗い表情のまま話をつづけた。

「だが、打ちどころが悪かったらしく背中から脚にかけて痺れが残っているようだ。」

 あの状況で僕をかばってくれた人がいたのか。

「少し気が引けるかもしれないが、お前の命の恩人だ! じいちゃんと一緒にお礼を言いに行こう。」

 僕の身代わりになってくれた人は、どうやら同じ病院の隣の部屋に搬送されたらしい。


そして、退院の日がやってきてお世話になった医師、看護師などの医療従事者や同室の患者に挨拶し部屋を 出た。

 そのあと、祖父と一緒にとなりの病室へ足を運んだ。

 病室のプレートには『紺野忠様』と書かれていた。

 祖父は病室の扉を軽く2回ノックし、「失礼します」といって扉を開けた。

 祖父の背後から部屋の中に目線をずらすと、女の人がベットの横にある椅子に腰かけているのが見えた。

 服装はパステルピンク色のブラウスに白いスカートを着ている。髪は黒色だが艶がありサラサラしていて まさに清楚で綺麗な女性であると印象を受けた。

 その女性は僕たちが入ってる来たことを確認し、立ち上がって「こんにちは」と挨拶してきた。

 僕たちは「こんにちは」と返し、病室内へ入った。

 すると病室のベッドには『紺野忠』さんであろう男性が横になっていて、僕のほうをチラッと見た。

 僕は一瞬ビクッっとなるよう感覚になったが、この男性の顔は見覚えがあった。

 そうだ! この人はあの事故のとき僕に話しかけてきた作業服の人だ! この人が僕を救ってくれたの  か。

「紺野さんこんにちは。こちらが孫の遠野勇夢です。おかげさまで無事に今日退院できるみたいです。」

 祖父がその男性に話しかけた。

「おぉ! よかったです!! 無事でなによりだ!」

 忠さんは普段は強面そうだが、今はそれを感じさせないくらいの笑顔で僕を見た。

「ですが、孫をかばったせいで紺野さんにはとてもご迷惑をかけることになってしまい本当に申し訳なく思っています。お具合はどうですか?」

 忠さんから笑顔が消え、少し難しそうな顔になった。

「精密検査の結果、脊髄が損傷してしまっていると医者に言われました。 下半身が痺れていて感覚があま りないのはそれのせいだと。 けれど手術をすれば歩けるようにはなると言われました。リハビリとかも 必要だと思いますが、まぁ大丈夫でしょう! そんなに心配なさらないでください!」

 忠さんは再び笑顔になり明るい声でそう返してくれた。 

「手術はいつのご予定なんですか?」

「1週間後に予定だそうです。正直初めての手術とても怖いのですが、私も無事回復して退院できるように なるならがんばるしかないですもんね!」

 普通の人なら落胆しそうな状況なのに、忠さんは前向きに生きている様子がひしひしと伝わってくる。

 忠さんの希望に満ちた瞳は僕を捉えた。

「勇夢君じゃなくて、僕でよかったと思いますよ! 勇夢君はまだまだこれから素敵な未来が待ってるじゃ ないですか? 若くして歩けなくなるってことは友達を作ることも、青春を味わうこともできないじゃな いですか。」

 なんて優しくて、心の広い人なんだ。

 僕がこの状況なら庇った人を恨むだろう。

 僕は今まで、他人のために自分が犠牲になるようなことはし  たくないって思っていたからだ。

 けれど、忠さんの包み込まれるかのような優しさと、人のこと思いやることができるとても暖かな心に僕 はとても感銘を受けた。 

 大人になれば忠さんのような立派な人になりたいと。

 とっさに言葉が僕の口から湧き出るようにでてきた。

「僕を助けていただいて本当ありがとうございました!! 忠さんがいなければ僕は多分死んでいたとおも います。 救ってくれたのは忠さんです。 ありがとうございます。 けど、僕のせいで忠さんに大けが をさせてしまいました。 本当にごめんなさい。 僕があのときもっと注意をしていれば・・・。」

 僕は深々と頭を下げ、忠さんに謝罪した。

 今まで沈黙していた僕が急にしゃべりだしたので忠さんは驚いていたが、すぐに柔らかな笑顔になった

「ううん。 全然いいんだよ! それより勇夢君が元気に退院できてよかったと思ってるよ! 俺は昔から 弱い人を救うスーパーヒーローに憧れてたんだ! 今回で俺は一人の少年を窮地から救ったスーパーヒー ローになれたね!! TVに出れるかな??」

 冗談交じりで忠さんは笑いながらそう言った。

 僕は一気に緊張ほぐれたせいか思わず笑ってしまった。

 ふと祖父を見ると、何とも言えない苦そうな顔をしていた。

「あ! そういえば紹介が遅れましたね! 妻の『裕美』です。」

 忠さんは腕は包帯などで固定されているせいか動かさず、手だけ動かして女性のほう指さした。

「紺野裕美です」と裕美さんは控えめに挨拶してくれた。

「妻は僕につきっきりで看病してくれました。僕が元気でいられるのはそのおかけです。 そして、最近子 を授かったことがわかったんです。」

 忠さんは裕美さんの顔を見つめた。 

 裕美さんも忠さんを見つめ返し、お互い目が合うとフフフとほほ笑んだ。

「子供ができたってわかったことで、こんなことで弱気になってる場合じゃない! 頑張らないと! って 思ってきたんです! 手術が終わったら一刻も早くリハビリに取り組んで、仕事にも復帰して、子供が生 まれるころには元気な父さんで迎えられるようにね。 子供も勇夢君みたいに元気に育っていってほしい と思いますし。」

 忠さんは輝かしい笑顔でそう話す。

 その笑顔はまるで、西日に照らされたみたいに明るくて僕にはまぶしいくらいだ。

「本当に有難う御座いました。 こんな私たちを暖かく出迎えてくださり、感謝しきれない気持ちです。」

 祖父は深々と頭を下げ、お礼の言葉を述べた。

「いえいえ! こちらこと色々とお見舞い品頂いたりしてありがとうございます。 勇夢君も退院おめでと うな! 俺もはやく退院したいな!  よし!退院できたらどっちがモテるか勝負しよう!!」

 僕はえ?となり一瞬戸惑ってしまったが、その後コラ!と裕美さんが囁きながら突っ込んだ。

 思わずハハハと僕は笑ってしまった。 

 祖父も今回ばかりは少しほほ笑んでいた。

 こんなにいい人がいるのかと僕は驚きと喜びが混じった感情を抱いた。

 自分だけが不幸なんじゃない。

 不幸というのを作り出すは自分自身なんだと。 

 だから考え方を変えるだけで暗い道は明るい方へ動いていくのだと、偉大な忠さんに教えられた。

 忠さんの手術の成功を祈りつつ僕たちは病室を後にした。


そして、退院後の正月明けには家族の葬儀行われた。

 親戚、父の会社関係者、そして家族それぞれの友人が参列してくれていた。

 遺体の損傷が激しく先に火葬されてからの葬儀だったので、僕は家族の最期の姿をみることはできなかっ た。


僕の家族たちは遺影の中でまぶしい笑顔を放っている。

 でもそれは、幻でここには存在しない。

 もう写真という幻でしかみることはできないのだ。

 みんなは隔たりを越えてあっちの世界へいってしまった。

 こっちの世界に僕と悲しみだけを残して。

 いままでの溜まっていた感情がとうとう抑えきれなくなり、僕の目からはあふれ出るように涙がこぼれ  た。


母さん・・・。 

 母さんはいつも僕を気にかけてくれて頼りない僕を救いの手を差し伸べてしてくれていた。 

 僕はそれを有難迷惑と言ったり、母として当たり前だろうって感じてたりしてた。 

 でも、母さんはそんな身勝手な僕に一切怒らずに笑顔で迎えてくれていたね。 

 僕は何もしてあげられなかった。


父さん・・・ 

 いつも口うるさくて、厳しいことばかり言ってくるし、父さんと話すと常にむしゃくしゃした気分になっ てた。 

 だから、家からいなくなったらいいのにって思う日も少なくなかった。 

 それが現実になってしまった。

 本当は僕のことを思って厳しく育ててくれていたのに、今思うと後悔しきれない。


有紗・・・ 

 有紗は僕から言えば、ライバルだった。 幼いころは有紗が生まれて、みんなは有紗有紗って可愛がる  し、お小遣いは有紗のせいで減らされるし、それが悔しく悔しくて嫉妬ばかりしてたね。 

 でも有紗はこんなダメな兄になついてくれていた。

 だからもっと妹として可愛がってあげるべきだった。

 ごめんな有紗・・・。


もうみんな戻ってこない。 戻ってこれないのだ。

 どんなに後悔したって、どんな願っても彼らはこちらに戻ってこれないのだ。

 僕はうずくまるようにして泣いた。 

 祖母は僕を気にかけてくれて背中をさすってくれた。

 悲しみの感情はとどまることを知らなかった。

 僕は肩を震わせて涙を流し続ける。

 もう僕の耳には木魚の音も、僧侶の声も、周りの声も何にも聞こえない。

 聞こえるのは脳内で勝手にリピートされる家族たちの声だけだった。


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