01
俺は、来週入院する自分の病室を冷めた目で眺めていた。
華やかさのない壁にいくつもある窓、その窓の1つ1つにそれぞれの苦悩があるのだろう。
『死』を考えたことは、今までもあった。だが、死を告げられたのは今日が初めてだ。
突きつけられた主治医の言葉に、心まで凍ってしまった様で、今の俺には寒さも辛さも感じない。
自販機で買ったこの缶コーヒーも、いつの間にか冷たくなってしまっている。
今は、跨っているこのバイクだけが俺に熱を伝えてくれていた。
自分の入院する病室の窓際のベットに、一人の女性が戻って来た。
女性といっても、俺と年は変わらない様に見える。
まだ、学生の年だろう、俺と同じ病気なのだろうか。
『可哀想』に、そう思った時に彼女と目が合った、彼女は俺の方を見てニッコリと笑った。
俺は、見ていたのがバレないように慌ててヘルメットを被ってバイクを走らせた。
暖気されたバイクは、軽快な音を奏でその似つかわしくない病院後にする。
小さい頃から親父や兄貴の影響もありバイクが好きで
高校生になってからはバイクを乗り回し幼馴染の辰也とはよく悪さをした。
今でこそ少し落ち着いたが、地元ではそれなりに名が通っていた。
そんな、どこにでも居そうな学生の俺が、病気で後数年しか生きられず病院暮らしをするなんて
今でも正直信じられない。
病院からの帰り、辰也と良く走りにくる海岸沿いの、潰れたガソリンスタンドの自動販売機の横にバイクを停め
理由もなく海を眺めて居た、どれくらいここに居ただろう?
遠くから聞き慣れたバイクの音が近づいて来て止まった。
「彼女にでもフラられたか?」
後ろから声を掛けてきたのは辰也だった。
「アホか、彼女おらんの知ってるやろ」
「ハハハ、勇次はモテるけど、面食いやし奥手やからな〜」
辰也は、女ったらしだが友達としては悪くないやつだ。
「お前こそ彼女にフラれたんやろ?」
「なんで分かったんや!」
辰也は一人でここにくる日は大抵、彼女にフラれた日だ。
「構ってくれへんから、嫌やねんてさ」
「辰也は彼女よりも友達優先やからなそうなるねん、もうちょっと彼女と遊んだり」
「お前も、前の子にそれでフラれてるやろ!」
いつもと同じ会話でお互いを蔑み励まし合う。
周りから見ると気持ち悪い光景かもしれないが、これも男の友情の形だろう。
太陽も沈みかけた時、少し黙り込んでから、辰也が聞いてきた。
「ほな、今日はどうしたんや?」
幼馴染で親友といっても意外と聞けないこともあるものだ
そして伝えることもできないものだ。
「ん?たまたま来ただけや」
「そーか、ほんなら帰ろか」
「あいよ。」
隠し事も通じる相手ではないが、気持ちを組んでくれているのだろう。
その時、辰也のケータイが鳴った。
「クミか?どないしたんや?・・・・・分かった。・・・・向かうわ。」
クミは、辰也の元カノだ。
無愛想に話していた辰也が、電話を切りニコニコしながら話しかけてくる、
「俺の悩みは解決や、先に帰らしてもらいます」
「幸せな奴は、はよ帰れ」
「勇次も解決したら早よ帰りや〜」
やっぱり悩んでるのはバレバレらしい、解決なんてしないが潮風で冷えた身体が悲鳴を上げそうなので帰ることにした。
夕暮れの海岸沿いはいつもより寒く、深まる冬の訪れを感じていた。