テネブリス
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「毎日書くことが大事」ということで今日も書く。もうすでに18時15分。だんだん開始の時間が遅くなっている。「書くことについて」というスティーヴン・キングの本によると、スティーヴン・キングは午前中に書き始めるという。僕は今日は夕方まで寝ていたので、こんな時間から書き始めることになった。
さて、前回の更新で展開が来ると書いたが何も展開は考えていない。というわけで、今日もノープランで書き出していこう。
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その後、僕の疲労がひどく何度も休憩を繰り返していたため、次の村まで到着するのに2日かかった。アイネとエダは野宿に慣れているらしく、平気な顔で寝ていたが、僕は全然眠れなかった。
その日の昼頃には目指していた村についた。
「あー、ようやくまともなベッドで眠れるー」
僕は到着した村の宿のベッドに飛び込みながら盛大にため息をついた。大部屋の共同部屋だったが、まだ昼だからか僕たち以外には誰もいなかった。
「誰のせいだと思ってるっすか。情けないっすねータクトさんは。旅慣れてないとはいえ、体力なさすぎっすよ」
「仕方ないのよ。病み上がりなんだもの。つい最近までずっと寝てたんだから、体力も落ちてるのよ」
アイネがかばってくれるが、体力全快でもそんなに変わらなかったと思う。元々、僕は運動不足の無職だったし。
「そういうもんすか。じゃあ、ほら。今日も私が魔力送ってあげますよ」
エダが僕のベッドに座って右手を握ってくれる。エダと出会って以来、エダは僕が疲れて動けなくなると魔力を分けてくれた。
エダは僕のことを軽く見ているが、なんだかんだ優しくしてくれる良いヒトだ。最初モンスターだと思ってビビりまくっていたのが申し訳ない。
アイネは荷物を置いて、部屋から出ていってしまった。そしてすぐに戻ってきた。
「宿のおじさんに聞いてきたんだけど、明日の朝には寄り合い馬車が来るって。丁度良かったかもね」
「そっすか。じゃあ今日はゆっくりできるっすね。どうしますかねー」
「エダ、よかったら私に付き合わない?」
アイネがエダを誘う。僕はグロッキーだが、アイネとエダが元気そうだ。
「いいすよー」
とエダが軽く返事し、アイネに付いていく。二人で何をするんだろう? この村もマールデンの村に負けず劣らずド田舎だから何もすることないと思うんだけど。
まぁいいや。僕はゆっくり眠ることにしよう。
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本格的にここから何も書く内容が思いつかず数日間の停滞を余儀なくされる。そもそも第二部で発生するイベントが思いつかず、第二部はこのままだと何も起こらないまま文字数を使ってしまう気がしていた。
現在のところ主人公の目的は、ファウンデン城に到着し体を癒やすことである。それだけで第二部が終了してしまうのは面白くない。
さらなる展開が欲しいが何も思いつかなかった。
しかし、ついにその状況を打開したかのように思えた。数日間、考えてようやく先が見えた気がした。僕は再び、そのおぼろげな光明を目指して暗闇の荒野を歩き出した。
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ふと目を覚ますと窓から差し込んでくる光が暗くなっていることに気付いた。もう日暮れの時間だ。軽く上半身を起こし部屋を見渡すが、フードを深く被ったヒトが一人いるだけで、アイネもエダもいなかった。
「随分早くから寝ていたわねぇ」
フードの人が声をかけてきた。その声から女性だと分かる。明るい人好きのする声だった。
「えぇ、まぁ。怪我のせいか疲れやすくなっているみたいで」
僕は寝起きのテンションで適当に応える。
「確かにひどい怪我だわぁ。一体どうしたのかしら?」
「いやー何か変なモンスターに襲われましてね。何とか一命はとりとめたんですが、このひどいヤケドだけが残ってしまって。それで、このヤケドを治してもらおうとファウンデン城に行く途中です」
「それは災難だったわねぇ。それなら、ファウンデン城なら私が懇意にしている治療魔法使いがいるのよぉ。紹介するわぁ」
フードの女性は懐から紙を取り出し、そこに何やらサラサラと書きつけた。
「あなた、文字は読めるかしら?」
「すみません、僕は読めません。でも多分、連れが読めると思います」
「そう。ご友人と一緒なのねぇ。なら良かったわぁ。ここに治療魔法使いの名前と私のサインを書いておいたの。これを見せれば、きっと安く治療してもらえるわよぉ」
「あ、ありがとうございます! 助かります」
「ふふふ、お金は大事だものねぇ」
そう言って女性はベッドから立ち上がり、部屋の出口へと歩いていった。
「じゃあ、私はもう発つわ。お話できてよかったわ、旅人さん」
「え、こんな時間に出発するんですか?」
「えぇ、闇夜のほうが歩きやすいの。私の場合」
チラリとフードのすそから金色の瞳が見えた。その瞳は綺麗だったが見る者を威圧する妖しい輝きを持っていた。
「私はテネブリス、そう名乗っているわ。あなたのお名前は?」
「僕はタクトです」
「そう。タクト、いつかまた会えるといいわねぇ」
テネブリスと名乗った女性はそのまま部屋から出ていき、後には静寂だけが残された。
旅をしていると、こういう出会いもあるのだろう。僕はテネブリスさんから貰った紙を眺めつつ(やっぱり読めない文字で書かれている)アイネとエダの帰りを待った。
しばらくして完全に日が暮れてもアイネとエダは戻ってこなかった。大丈夫なのだろうか?
すると外が騒がしいことに気付いた。気になったので、外に出てみる。
村の中央にはアイネとエダ、それに何人かの村人が集まっていた。
「さー、安いっすよ! 安いっすよ! とれたてのムラビー。早い者勝ちっすよー!!」
エダが元気に声を出している。その横でアイネがすばやく獣を解体していく。おそらくあの獣がムラビーなんだろう。イノシシのような、大型犬ほどの大きさのムラビーが4匹、並べてある。
「お嬢ちゃん、現金じゃないとダメかい?」
「モノでも大丈夫っすよ。ただ、その場合、釣りは出ないっすよ!」
元気にお客に対応するエダを尻目に、アイネは手際よく皮を剥ぎ、関節に沿ってナイフを突き入れ、部位ごとに解体していく。鮮やかな手際だ。
僕は集まっている村人たちを回り込み、アイネたちに近づく。
「僕が寝ている間に、狩りをしてきたのか?」
「そう。少しでも路銀の足しになれば良いと思ってね。このムラビーは美味しくて人気なのよー」
アイネはムラビーを解体しつつ僕の問いかけに応える。しかし女の子二人でこんな大きな獣を4匹も狩ってきたのか。アイネとエダのたくましさにクラクラする。
そうして大盛況の内にムラビー解体ショーは終わった。僕は後ろの方で突っ立ってるだけだった。解体は手伝えないし、この世界の貨幣価値もよく分からないので、エダの接客の手伝いもできなかった。
「思った以上に稼げたっすね! 馬車代に通行税を払ってもお釣りが来るっすよ!!」
「そうね、ファウンデン城についたら良い宿に泊まれるかも」
村人から受け取った現金に、布や食器なんかを手にして嬉しそうにはしゃぐエダ。よほど儲かったのだろう。
「今日は残ったムラビーで盛大な夕食としましょうか。香辛料や野菜も貰えたし、ご馳走になるわよ」
「本当っすか!?」
「本当!?」
エダと僕が同時に大きな声を出す。歩いて旅をしている間は、やけに硬いパンや干し肉、それに野草などしか口にしていなかった。僕たちは料理に飢えていた。
皆で宿の炊事場に移動し、料理の準備をする。
炭(有料)を熾し、その上にムラビーの肉を置いて、香辛料で味付けをする。ジューシーな肉汁がぽたりぽたりと炭に落ちる度に、じゅわっという音とともに良い匂いがひろがる。
もう一個の窯では、水と野菜、それにムラビーの骨に、脂身を少し入れた鍋がかけられている。良い感じにクツクツと煮立っており、こちらも美味しそうだった。
「ムラビーの肉は鮮度が落ちやすいから、とれたてが一番美味しいのよ。干し肉なんかには向かないのよね」
言いながらアイネは火加減をじっと見ていた。どこか楽しそうである。僕もなんだかキャンプのようで楽しい。元の世界ではひきこもり無職だった僕にはアウトドアな趣味など無かったが、やってみると案外と楽しいもんである。
「さぁ、出来上がりよ。皆で食べましょ!」
2時間ほど焼いていた肉がようやく完成したらしい。僕はもうハラペコで死にそうだった。アイネが肉を切り分け、木製の皿に持ってくれた。エダがスープをよそってくれる。久しぶりのまともなメシだった。
じっくりと焼かれた肉は野生の獣とは思えないほど柔らかくジューシーだった。獣独特の癖のある匂いに炭の香りが移り、とても香ばしい。味は牛肉、いや馬肉に近いか。脂身は特に臭かったが、香辛料の力で何とか飲み込めた。これが野生の獣の味か。
スープを口に運ぶ。ムラビーの骨から良い出汁が出ている。こちらはあまり匂いが気にならない。甘い野菜の味と肉の旨味がマッチしていてとても美味しかった。やはり苦味とエグさの強い野草に比べると、野菜っていうのは甘いんだなーと感じる一品である。
時折、硬いパンをむしって食べながら、スープを飲み、肉をかじる。とても幸せな時間だ。
「ふんふふーん。これがマールデンの味なんすねー。やっぱり故郷とは違う味っす! 美味しいっす!」
エダも幸せそうに味わっていた。こう美味しいものを食べると、リザードマンの彼女の料理にも興味が湧いてくる。
「今度、エダの料理も食べてみたいな」
「うーん……うちの村は基本的に火を通さないっすからね。お口にあうかどうか」
それはキツそうだ。
「リザードマンはお腹が丈夫なのよ。真似しちゃダメよタクト。お肉を生で食べるとお腹を壊すわよ」
まるで小さな子どもに言い聞かせるように言うアイネ。それくらい知ってる。
食事も終わり、お腹も落ち着いてきた頃、僕たちは部屋に戻ってそれぞれベッドに腰掛けていた。結局、今夜は僕たち以外には宿泊客はいないようだ。
「そういえばアイネ。夕方頃に宿にいた人に治療魔法使いを紹介してもらったんだ。これなんだけど、読める?」
僕はテネブリスさんから貰った紙片をアイネに見せた。しかしアイネの表情は暗い。
「ごめんなさい、私は文字は数字しか読めないのよ」
「あっ! 私、文字読めるっす!」
アイネから紙をもらい、エダが読み上げる。
「意外と教養があるんだな、エダは」
「当たり前っす! アラン様の元で働くために、色々頑張って勉強したっすからねー! 文字の読み書きくらいは、テンテコノパーっすよ」
よく意味は分からないが、自信は伝わった。
「ベニントンへ。我が友が訪ねたら最善の治療を頼む。テネブリス。と書いてあるっす。この下のは、どうやら住所っすね」
ベニントン、それが魔法使いの名前なのだろうか。
「ふーん。まぁ魔法使いの知り合いもいないし、とりあえずその人のところに行ってみる?」
「どうだろう、信用できるのかな」
「信用していいと思うっすよ。この紙、普通の人じゃ持てない紙っす」
そう言ってエダはその紙をこすった。
「この紙、貴族や偉い商人が使うパラミス紙っす。高価なものなので、そんじょそこらの庶民が手に入れられる物じゃないっす」
「へー、そうなんだ」
「そもそも庶民は紙なんか使わないっすけどね。私も長老が商人と取引している時に何度か見かけたくらいっす」
エダは紙を返してくれた。僕は紙を自分のカバンに大切にしまいこんでおく。そんな大事な紹介状なら失くすわけにはいかない。
「エダがいて助かったよ。これで少しは先が見えてきたかな」
「……ごめんなさいね、文字が読めなくって」
「う。いえいえ、もちろんアイネ様にも助けられてます。はい」
「へへへー。そう? もっと感謝しても良いのよ?」
「ははー、感謝しております。感謝しております。なんなら足も舐めます」
「それは気持ち悪いからいいわ」
すげなく断られてしまった。
そのうち消灯時間が来て、部屋の照明が落とされた。僕たちはそれぞれのベッドで眠った。いよいよ明日はファウンデン城だ。
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というわけで次からはファウンデン城編、いよいよ田舎から抜け出し都会へと向かう。
僕自身が田舎出身ということもあり、田舎の描写は楽しかったが、今度はファンタジー世界の都会である。一体、どんな世界が待ち受けているのだろうか。
それは僕にも分からない。
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