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小説家になりたい僕と異世界転生した僕  作者: しかわ
第一章 小説を書きはじめた僕と異世界転生した僕
1/12

転生、そして出会い

 会社を辞めてから早二ヶ月、僕は無職に飽きていた。朝に起きて何もすることがなく、適当にテレビを見たり、ネットをしたりして過ごしていた。貯金はあまり無く、生きていくのに精一杯の額しかないから、派手に遊ぶこともできなかった。


 それでも働く気はしなかった。新卒で就職した中小企業は典型的なブラック企業で、残業代は出ないのにサービス残業が多いし、上司や先輩は無駄に厳しいくせに何も教えてくれないし、休日出勤は当たり前、休日でも社長の家に呼ばれて楽しくもないバーベキュー大会などをやらされていた。


 二ヶ月前、ついに会社を辞めた僕は就職活動をするわけでもなく、かといって趣味も何もないので、怠惰な生活を送るだけであった。


 小説家になりたい! ある日、僕はそう思った。Web小説を読んでいたら何となく自分にもできそうな気がしたからだ。文字を書くだけなら僕にもできるし。


 そう思ってパソコンの前に座って、一時間……。何も思いつかない。一文字すら書いていない。僕には書きたい物が何もなかった。


 よし、パクろう。食傷気味だが、異世界転生物にしよう。とりあえず異世界に転生させよう。主人公はそうだな……僕でいいだろう。異世界に転生した僕が敵をボッコボコにして女の子にモテモテになる。


 えーと、それで異世界? っていうのはどんな世界なんだろう。よくあるのは、ドラクエみたいなファンタジー世界だな。でも僕は別にドラクエ好きじゃないしなあ。まぁ、いいか。とにかく転生させてみよう。


-----------------------------


 コンビニからの帰り、いつもの住宅街をスマホを見ながら適当に歩いていた。家からコンビニまでは徒歩10分くらい。何てことない日常のいち風景だった。


 しかし、もう少しで自宅に着くという時に、角から飛び出してきたバイクが僕を思いっきりはねた。何とも言えない浮遊感、スローモーションに見える景色、迫ってくる壁。



 暗転。



 目が覚めると僕は川原で寝ていた。しかも全裸で。意識がはっきりしていくにつれ、背中に刺さる小石の痛みを感じてきた。背中が痛いので、僕はゆっくりと身を起こし、周囲を見渡してみる。


 太陽は天頂近くで輝いていた。お昼くらいだろうか。近くには川が流れており、川辺は砂利だ。少し川から離れると森になっている。周囲には誰もいない。遠くの方に木製の粗末な橋が見えた。


 意識がはっきりしてきた。改めて自分の体を見てみる。……やはり全裸だ。しかし、それ以外はいつもの自分だった。怪我もしていない。全くの無事だ。全裸だけど。


-----------------------------


 と、ここまで書いて飽きてきた。そもそも何で全裸なんだろう。何となく思いつきで全裸にしてみたが。ネトゲの初期キャラクターでも下着くらいつけているというのに。


 情景描写にも飽きてきたし、何か展開が欲しいなあ。とりあえず転生したし、そろそろ何か展開させよう。


 女の子か……化物でも出そう。全裸でいる所に可愛い女の子が出てくるのもいいし、いきなりのバトル展開もかなり熱いだろう。どっちにしようかなー。


 悩んでも仕方がないので適当にサイコロを振ることにした。1~3が出たら女の子、4~6が出たら敵が出てくることにしよう。


 コロコロコロ……。3が出た。女の子だ。女の子が出てくる。


-----------------------------


 なぜ自分が全裸でいるか分からなかった。俺はバイクにはねられて意識を失って……そして目覚めたら全裸でここにいた。うーん。わけが分からない。


 しかも森の中とか超ド田舎じゃん。俺は結構都会に住んでいるはずなのだが……。


 すると何か物音が森の中から聞こえてきた。


 ガサガサガサ!


 うわ! もしかして何かの動物か!! クマか、イノシシか!! やべえ死んじゃう。ワンチャン猫の可能性もあるか? 猫だったら良いなあ。猫大好きだし。


「……何してるの? アナタ……」


 身構えている僕の前にあらわれたのは、可愛らしい外国人の女の子だった。十代後半くらいに見える。


 白い肌に、腰まで届く輝く金髪を後ろでまとめている。大きく丸い碧眼、すっと通った鼻筋に、薄いピンク色の控えめな大きさの口唇。荒い布の服の上に、革のジャケットを着ており、腰に鮮やかな模様の入った綺麗な布を巻いている。

 背中には大きなカゴをかついでおり、右手には斧を持っている。


「えっと、いや。……気づいたらここにいまして……」


 気のせいか、斧を持っている右手が震えている。やばい、殺される。


「いや本当に! 僕も分からないんですけど!!」


 両手をブンブン振って必死に言い訳をする。死にかけたばかりなのに殺されては困る!


「とりあえず、ソレ隠してくれる?」


 女の子は呆れたような顔で僕の股間を指した。両手をブンブン振っていたので、股間が丸出しになってしまっていた。しかし隠すものが何もないので、とりあえず両手で股間を隠した。すると女の子は腰に巻いていた綺麗な布を手に取り、僕に渡してくれた。僕は布を受取り、それを腰に巻いた。


「あとで洗って返してね、ソレ。大事なものだから」


 女の子の大事な布で股間を隠している。もう一度。女の子の大事な布で股間を隠している。なんだか妙に照れてしまう。ちなみに僕は童貞だ。


-----------------------------


 なんか冗長だなあ。他のWeb小説はもっとポンポンと先に進んでいた気がする。あと、僕が童貞だという情報はいるだろうか。


 まぁいいか。ここからはポンポンと進めよう。


-----------------------------


「あの、ここはどこなんですか? 本当に何も分からなくて」


「どこって……。マールデンの村近くの森よ。あの橋を渡って少し歩くと村があるの」


 変な名前の村だな。もしかしてここは日本ではないのかもしれない。薄々気づいてはいたが……。


 彼女は注意深くこちらを見ているが、僕があんまりにも動揺しているので少し警戒を解いたらしい。構えていた斧を腰にくくりつけ、ゆっくりと口を開いた。


「黒い髪の人間なんてはじめて見た。あなた、もしかしてマロードなのかしら」


「マロード?」


「噂でしか聞いたことないけど、たまに他の世界からこの世界に来ちゃう人がいるんだって。都会には結構いるらしいけど、こんな田舎では珍しいのよ……」


 ふぅっとため息をつき、うつむく彼女。どこか面倒くさそうだ。


「あなたがマロードだとしたら領主様のところに報告に行かなきゃいけないわね。きっと私が行かされるわ。面倒ね……。いっそのこと、ここで……」


 そうつぶやき斧に手をのばす彼女。


「うわぁ!! 待って、待って!!」


「冗談よ。冗談。とにかく、村まで一緒に行きましょうか。全裸でここに置いておくわけにもいかないし」


 そういって彼女は軽く笑い、ついてくるように促した。彼女の笑顔は可愛かった。


「私はアイネ。あなたの名前は?」


「あ、僕はタクトっていいます。タクト」


「そう、タクト。よろしくね」


「よろしくおねがいします。アイネさん」


 俺はいつの間にか現状を素直に受け入れていた。不思議と落ち着いていた。なぜだろうか。よく分からないが、僕はアイネさんについていくことにした。もしかしたらアイネさんが可愛かったからかもしれない。


-----------------------------


 お互いに自己紹介も終わったし、あとは村に行くだけだ。とはいえ、村に行くだけの描写を書いてもつまらないから、ここは……


A. 次の瞬間、村についている。で、そこからは村の話をする。

B. 道中、敵が現れて無双する。ここでなんかの能力が僕にあることが分かる。

C. それ以外の何かの展開を考える。


 さて……。どうしようかな。またサイコロでも振るか。1~2が出たらA、3~4が出たらB、5~6が出たらCにしよう。っていうかCが出たらどうしようか。何も思いついてないぞ。


 コロコロコロ……。4が出た。えーと敵が出てくるのか。なるべく強そうな敵がいいな。そしてそれを僕が鮮やかに倒す! 謎の能力が発動して。えー謎の能力。


 ……謎の能力? 謎の能力ってなんだろう。転生した時は全裸だったし何も持っていない。何か持たせておけば良かったなぁ。スマホか、なんか。


 とにかく続きを書いてみよう。


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