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Geschwister Krieg  作者: 聖
1面:三女【アリス】
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 「よし、出来た。可愛いわ、フート」

 「ありがとうございます。アリスお姉様」


 アリスがフートマッハーの頭を優しく撫でてやると、直したリボンを丁寧に結び直して小さく微笑む。フートマッハーは心から嬉しそうに頬を緩めてアリスに礼を言った。


 アリスは素直に礼をするフートマッハーを愛おしく思いながら次はどうしようかひとまずアリスの部屋で作戦を決めることにしようとフートマッハーに提案をしてみる。フートマッハーは「いいですわね」とだけ言ってアリスの言葉に反論や意見が無いことを示した。


 「さて、逃げ道は無いと言うけれど……正直、あの……ええっと……」

 「ゲームマスター、ですよね……ええと……」


 ゲームマスターの名前を出そうとしているのか、アリスとフートマッハーはうんうんと唸るようにしながらゲームマスターの名前を思い出すように熟考する。すると真上の方からいきなり声が聞こえアリスとフートマッハーはびっくりしながら顔を見合わせた。


 「オレサマちゃんの噂してる!?タウゼント・アルツナイちゃん!覚えてあげてねっ!オレサマちゃんが喜ぶよっ!」


 気味の悪い女だ、アリスがそう思い顔を引き攣らせつつ、そしてフートマッハーも気持ち悪い、と言いたげに顔を顰めるも、ただ単にゲームマスター、タウゼント・アルツナイが盗聴をしているのだろう、と考えれば比較的すぐに答えが出てきた事もあり、アリスとフートマッハーはドン引きしながらも「そう、タウゼント……」と声を出す。


 決して盗聴はしていない。タウゼント・アルツナイの生まれ持った才能をフル活用しているだけであって、盗聴なんて悪趣味なことはしていないのだ。


 才能というのは誰もが持っている。それを利用する機会がシーベルト家にはあるだけであって、タウゼント・アルツナイは聴覚の才能を持っている。聴覚の才能を持っているからこそ、1階下に居る人間の話し声なんてタウゼント・アルツナイにとっては筒抜けなのだ。と言っても、ぼそぼそと話している程度にしか聞こえないが。


 「タウゼントよりもこの家のことを知っているのは私達よ。逃げ道は百と……いいえ、千とあるわ。探しましょう、フート」

 「はい、アリスお姉様。あの、アリスお姉様……やはり、普通に玄関から、というのは駄目なのでしょうか?一番効率がいいように思われますわ」

 「そうねぇ……出来ないことは無いでしょうけれど……“ヴェルト”を求める兄弟姉妹がいる限りそれは不可能と考えてもいいかもしれないわ。逃げる振りをして油断をさせて帰ってくるかも、なんて考えすぎな思考を持つのが危機的状況に陥った人間よ。やはり他の道を探すのが吉でしょう。……それに、タウゼントにバレるような逃げ方は良くないと思うの。直感的に、だけど……」

 「やっぱり、そう、ですよね……。窓から逃げるというのが定番でしょうか、やはり……」

 「そうねぇ」


 窓から逃げる、というフートマッハーの提案に、それはいいかもしれない、と思いながらアリスは窓に目を向ける。ふと立ち上がって窓に向かい鍵を開けて開こうとするも、窓はびくともしない。開く気配がしないのだ。


 アリスがふむ、と考え込む様子を見せると、フートマッハーの表情が少し険しくなる。険しく、そして申し訳なさを孕んだ瞳になり、目を伏せながらフートマッハーは考える。


 「割ることならできそうね。フートの才能は握力、じゃなかったかしら?ちょっと割ってみてくれない?」

 「え……」


 アリスがあっさり割ってみてくれない?なんて言ってくるものなので、フートマッハーは困ったように眉を寄せながら「でも……」と口を吃らせる。アリスもやはりいきなり過ぎただろうか、とも考える。


 フートマッハーがアリスの部屋だから気にしているのかもしれない、と思ったアリスは「そうねぇ」と小さく呟いて言葉を放とうとする前に、先にフートマッハーが口を開く。


 「アリスお姉様のお部屋を割るなんてこと、ってのもあるんですが……その、窓を割るというのは些かリスクが高いような気がしますわ。相手は盗聴、もしくは地獄耳の持ち主ですし……ゲームマスターがバレないように、という所を踏まえるのでしたら窓を割るのはかなりリスクがあるのではないかと……」

 「それもそうね。私としたことがその可能性を考えていなかったみたい。ごめんなさい、少し早まりすぎたわね。他に探してみましょう。もしかしたら窓が開く部屋が一つあったりするかもしれないし」

 「はい、アリスお姉様」


 二つ返事でアリスの提案をフートマッハーが肯定すると、アリスはにっこりと笑ってまたフートマッハーの頭を撫でた。どこか一つが開く可能性までを考えて、アリスは口を開く。


 「そうねぇ……上から回ってみましょうか。下からでも構わないけれど、もし上にあったとしたら手間になるでしょうし」

 「そうですわね。行きましょう」


 フートマッハーはにっこりと微笑んでアリスに手を伸ばした。アリスもフートマッハーの手を握ると、自らの部屋のドアノブをゆっくりと捻った。



× × ×



 「風が気持ちいですわ……」

 「なんだか外の空気を吸うのが何年振りかみたいに感じるわ」


 上から回っていこう戦法で一先ず城のような豪邸である屋上へ向かうと、シェルターに囲まれた太陽の光の見えない薄暗い外が広がる。唯一シェルターの一番高くなっているところには風や雨が入り込む大きな窓があったが、そこから届く風でも十分気持ちのいいものではあるのだが、高さからあのシュエルターの窓から逃げることはまず不可能だろう。


 争奪戦の時、家のシャッターがシュエルターとして閉ざされてしまうらしい。家にドーム型のシュエルターが有ることはわかっていたが、アリスとてそのシュエルターが争奪戦のために作られたものだとはわからないだろう。

 

 「はぁ……、お天道様が見えないのもなかなかしんどいわね。唯一入り込む僅かな風が頼りかしら。これこそ本当に早く逃げなくちゃね。どうにかなっちゃう前に」

 「アリスお姉様、これは……本当に逃げられるのでしょうか?正直に言うとわたくしは難しいのではないかと思うのです……」

 「弱音を言ってる暇はないわよ。頑張りましょう、フート」

 「……はい!アリスお姉様!」


 アリスは明るみを取り戻して元気に挨拶をしたフートマッハーの姿を見て本当にいとおしい弟だと口元を緩ませた。きれいに笑うフートマッハーの姿はもちろんなのだが、何よりも自分と一緒に逃げようとしてくれているフートマッハーの姿こそが、絶望的状況に立たされているアリスの唯一の光でもあった。


 あの時、フートマッハーが一緒に残ってくれて本当に良かった、そんなことを思いながらフートマッハーのためにも自分が弱音を吐くわけにはいかない、と自らを鼓舞する。家族という存在は本当にすごいものだ。何せ、疲れていてもこの子のために頑張ろう、なんて、そんなことが思えてしまうのだから。


 「アリスお姉様、実はこの家に来たころから気になっていたのですが、屋上にあるあの小屋?のようなものはなんでしょうか?」


 アリスが行こうとフートマッハーの手を引いて歩こうとしたとき、フートマッハーは一度足を止めてアリスに屋上の真ん中にある謎の小屋を指さしながら尋ねてみる。


 アリスの方も解説をしようと口を開こうとした良いものの、アリスにも小屋の正体が分からず、なんなら今まであんな小屋あっただろうか、とまで考えていた。


 「ごめんなさい、私にもわからないわ。そうだ、行ってみましょう?もしかしたら何かあるかもしれないわ」

 「そうですわね、アリスお姉様。何かあればよいのですが……」


 フートマッハーがおずおずと小屋に近づいて小屋のドアノブに手をかけ、扉を引いてみる。扉は開く気配がなく、もしや押すタイプなのかと押してみるもびくともしない。フートマッハーは他に扉の開け方を思い出しながら右と左に引いてみるも動く気配はなく、上にあがるのか下に下がるのか色々試してみたが、どれをやってもびくともしない。


 握力の持ち主、フートマッハーの力であったとしても、だ。


 「鍵が必要みたいね……。もしかしたら外へ出るヒントがあるかも。窓から出られないか調べるついでに少し鍵のありそうな場所も探してみましょうか」

 「そうしましょう。お時間を取らせてごめんなさい、アリスお姉様」

 「構わないわ。謎の小屋があるっていうのはとても大きな収穫よ。むしろよくやったわ、フート」

 「アリスお姉様……」


 扉が開かなかったからか、アリスに無駄な時間を取らせてしまったからか、フートマッハーは少し複雑そうな顔をしたものの、すぐにアリスからかわいい顔が台無し、だと言われてしまい、急いでいつもの表情に戻すために頬をむにむにと触る。


 自分でつねってみたりもしていると、アリスは面白おかしそうに口元を緩ませながらフートマッハーの頭を撫でた。


 フートマッハーの頭を撫でると、アリスは先に行こうと屋上の扉を開き、フートマッハーの手をつなぎながらゆっくりと階段を下りて五階へとたどり着く。


 五階は基本的に空き部屋ばかりで使われているのはクローゼットとしてくらいなのだが、この状況での五階は非常に危険な場所でもある。理由はいたって簡単だ。普段使われていないからこそ、最高の隠れ蓑にもなるのだから。扉を開けて物を探していたら後ろからやられました、のような事案が発生しかねない。


 ただ、アリスはこの状況になっても姉妹を、兄弟を、家族を信じている。


 「よし、一つ目の部屋に入るわよ。フート、怖かったら廊下で待っていてもいいわ。どうする?」

 「え……」


 いきなり選択肢を与えられ、フートは口元を手で触りながら考えるように腕を組んだり足を組んだりした後に一つうなずいて息を吸い込んだ。


 「確かに、わたくしは怖いです。けれど……アリスお姉様を一人にしてアリスお姉様に何かが起こることの方が、わたくしは何倍も何百倍も怖いのです。アリスお姉様、わたくしもアリスお姉様と共に」



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